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【bon06:広島県_三原やっさ節と迷子のタコ】

「わーっしょい! わーっしょい!」
 祭り囃子が街を駆け抜ける。ここは三原市、夏の終わりの「三原やっさ祭り」真っ只中。
 駅前から続く商店街はすでに人、人、人。踊る、叫ぶ、タコが飛ぶ。
「ちょっと待って、なんか飛んでない!?」
 美琴が空を指さす。真上には――タコ。いや、本物の“蛸”が、神輿の上でくるくる回っていた。
「よっしゃ、アレは縁起物だろ!触れたら一年健康!」
 雄大が意味不明な理論を展開しながら群衆に突っ込もうとするのを、拓朗が即座に足払いで止める。
「暴走早いなお前は!」
 だがその横で、すでに小百合がポケットからハンドタオルを取り出していた。
「……あのタコ、明らかに“祭りに迷い込んだ系”じゃない?」
「むしろ主催側じゃないのか?」
 ケイデンが神妙に腕を組む。彼の分析によれば、あのタコは「観光協会のマスコットキャラ(本物)」とのことだ。
 その時、突然背後から太鼓の音がドン!
「わーっしょい、やっさ、やっさ!」
「来た!これが、やっさ節……!」
 ジャニヤが目を輝かせ、踊りの輪に吸い込まれていく。
 啓もなぜか吸い込まれていた。無言で、流れるような足運び。本人は興味ないはずだが、なぜか馴染んでいる。
「え、ちょ、踊ってるの……!?」
 はづきが驚いて目を丸くするが、啓は無言。
 輪の中、太鼓に合わせて踊る人々。軽快、元気、そして笑顔。だが、その中心で――
「うおおおおおおお!!!」
 またも雄大が登場。両手に紙のタコを掲げ、謎の振付で乱入した。
「それ“やっさ”じゃなくて“タコサン踊り”!!」
 美琴の鋭すぎるツッコミが刺さる。しかもその瞬間、背後から現れた地元青年――孔志がマイクで叫んだ。
「はいはいそこ、赤シャツの人!踊りのルールちゃんと守って!」
「バレた!」
「君たち、初参加だね?」
 そう声をかけてきたのは、踊り連のリーダー・孔志。まぶしいくらいの笑顔と、尋常じゃない腰のキレ。どう見ても“踊るために生まれた男”。
「祭りはね、自由に見えてルールがある。とくにやっさは、全員が同じ動きで進んでこそ“前に進む”んだよ!」
「前に……進む……?」
 雄大が目を見開き、地味に感動している。だがすぐに
「わかった、俺、自由にルール守るわ!」
「ちがう!」
 全員が同時に突っ込んだ。
 そんな中――突然、一匹の本物のタコが地面に落ちた。
「タコォォォ!?」
 祭り会場がどよめく。実は神輿の上のタコ、どうやら“演出用の本物(生)”だったらしく、予想以上に元気だったらしい。
 周囲の子どもたちが「たこ!たこー!」と騒ぎ出す。会場スタッフが慌てて追いかけるが、タコは見事な吸盤スライディングで逃げる。
「タコ逃走中、始まりました!」
 ジャニヤがマイクを奪い、実況を始めた。
「現在タコは焼きそばゾーンを通過、ついでにソースを全身に浴びております!」
「もう食材と化してるやん!」
 拓朗が爆笑しながら走る。だがその時――
 輪の中で踊っていた啓が、するりとタコの進路に入り、完璧な“やっさステップ”で回り込み……スッとタオルで包んだ。
「……なんか、感動したわ」
 美琴が思わず拍手。
「それ……まさか“踊りで道を示した”ってことか……?」
 はづきが目を丸くして言う。
「言葉じゃなくて、踊りで説得した……みたいな……?」
「リスペクト……してるな」
 小百合がぽつりとつぶやく。
 その後、タコは「タコ神輿」の上に無事返され、踊りの輪も再開された。
 雄大は……というと。
「いやあ、あえて一人で自由に動いてみたら逆に輪を乱すってことがすごくわかった!体で学んだ!」
 孔志が静かにうなずいた。
「それが、やっさの精神やけえ」
 雄大は頭を下げ、輪に戻り、次は完全に周囲に合わせて踊っていた。
 言葉はなかった。でも、“あいつ変わったな”という空気だけが、確かに漂っていた。
 ――なお、ソースまみれのタオルはジャニヤの手元に残された。
「これ……誰が洗うの?」
(bon06:End)


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