俺の超能力、今日も無駄づかいで絶好調。
ある日の午後、大学3年の直輝は、カフェでバイト帰りにミルクティーをすすっていた。特に予定もなく、ゼミの課題も先送り。ああ、なんて平和な日々だ。
……そのとき。
突然、頭の中で「ビビビッ」と謎の感覚が走り、ミルクティーが5cm浮いた。
「……浮いたあああああ!?」
床に落ちたカップから、紅茶が悲鳴のように飛び散る。周囲の客は誰も気づかない。だが、直輝は確信した。
「俺……超能力者になった……!」
翌朝、彼は真っ先にベッドの上で試した。
「……目覚ましよ、止まれ」
──ピッ。
止まった。
「……よし、今日から俺は“時を止める男”として生きる!」
……ただし、能力のリミットは“2秒”。長くて3秒。しかも、時止めというより「家電のリモコン操作に毛が生えた程度」だった。
*
だが、彼はくじけなかった。
なれ合いを好み、臨機応変に生きる男・直輝は、この力を“どうでもいい用途”にしか使わないことに決めた。
たとえば──
・カップラーメンのタイマーを止めて、完璧な硬さの3分を狙う
・レジで財布が出せなくても“時止め”でこっそり小銭を探す
・エスカレーターでバランスを崩したおばあちゃんのカートを地味に修正
・寝てる友達の鼻の穴にポッキーを入れて、写真を撮る(成功率93%)
「俺って、地味な正義感としょうもなさのハイブリッドだな……」
*
そんな直輝の“くだらない超能力生活”を唯一知っているのが、同じゼミの瑚都(こと)。ツンとしていて謝らないタイプだが、何だかんだで直輝の話をよく聞いてくれる。
「……それ、超能力って言っていいの?」
「うん、超がつくくらい“微妙”だけど、一応、奇跡的なやつ!」
「でも、使ってる内容が全部しょうもないわけ」
「そ、そこは否定できない」
「……じゃあ、もっとちゃんと使えば?」
「え、なに? “恋に使え”って展開くる?」
「誰が言ったそんなこと」
「ちょっと期待してた……!」
*
ある日、ゼミ室でプレゼンがあった。
「では次、直輝くん」
──が、USBメモリを忘れていた。
「ま、まって、俺の時止めでどうにかならないか!?」
ピッ。
彼は、机の下にUSBを落としたふりをして、“2秒で”教室を飛び出し、廊下で叫んだ。
「ヒデカズーッ!俺のPC持ってきてくれーーー!」
助けてくれたのは、直輝の友人で器用なヒデカズ。距離感を大切にしつつも、ちゃっかりこういうときは協力してくれる。
「……間に合ったな。お前の2秒、活用したな」
「いや、9割は君のおかげだけど!」
そのプレゼンはまあまあな評価で終わった。
直輝はそっと思う。
(たった2秒でも、人は意外と何とかなるもんだな……)
*
ところが、そんな日常に新たな事件が起こる。
ある夜、友人の奈津実が「合コン中に急に男たちが口喧嘩し始めて困ってる」とSOSを送ってきた。
──この奈津実、執拗なまでに状況に固執するタイプ。ひとたび何か起こると、とことん追い込む。
「来て!今すぐ来て!もう“崩壊の3秒前”って感じだから!」
「3秒……俺の能力の出番!」
直輝は合コン会場に乗り込み、空気の読めない男2人の間に“グラスの中身をこぼす”という地味すぎる手段で間を割った。
「うわっ!」
「……なにこれ、水?」
「店員さん呼びましょうか?」
その隙に、奈津実が機転を利かせて場を仕切り直した。
帰り道、彼女は言った。
「……あの2秒、絶妙だったよ」
「いやー、たまたま水がね、こぼれてね、うっかりね……」
「素直に言いなさいよ。“役に立ててよかった”って」
「……うん。役に立ててよかった!」
「しょーもないけど、ちょっとだけすごいと思った」
*
その夜、直輝は久々に真面目に思った。
(くだらないことも、ちゃんと使えば誰かのためになるんだな)
次の日から、彼は相変わらず
・自販機の返却口で硬貨が出てこないと“時止め”して指を突っ込む
・カラスにゴミを荒らされた瞬間を“時止め”してゴミ袋をひっくり返し返す
──など、くだらない日々を続けた。
だが、彼のその2秒の使い道は、確かに人を笑わせて、ちょっとだけ救っていた。
「……俺って、実は世界の平和を守ってるのかも?」
「勘違いすんな」
「瑚都ーーー!?」
日常は、今日も静かに、そして無駄に、動き続けている。
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