第93巻 津市:ツシノカミの願い
三重県津市。
そこは伊勢神宮の“ちょっと手前”、でもしっかり格式高い土地。
この地には、「願いを神聖に叶える神様」が、ひっそりと暮らしている。
名は――ツシノカミ。
極めて落ち着いており、願いを叶えるときは必ず“神聖な儀式っぽい何か”を通すのが特徴。
そのため、叶う内容はささやかでも、なぜか重厚感だけはすごい。
この日、津駅前の小さな観光案内所で働く若者・悠介は、津の立ち位置に悩んでいた。
「伊勢のついでに立ち寄られる街、それが津……。もうちょっと、こう……注目される場所でありたい……!」
その夜、彼は寝ぼけ眼で、スマホのメモアプリにこう書き込んだ。
「津市、もうちょい神々しくなってもよくない?」
メモした途端、スマホの画面に見たことない通知が出る。
【祝詞の受付を完了しました】
願いの内容:津市の格上げ
担当神:ツシノカミ
実行形式:荘厳(しずしず)
所要時間:夜明け前までに一部達成予定
「だれ!?」「しずしず!?」「夜明け!?」
翌朝。
悠介が案内所に行くと、まず制服が変わっていた。
まさかの白装束風。背中に「神前受付」の刺繍つき。
さらに案内用の観光マップが、“和紙+金箔+雅楽QRコード”になっていた。
「誰だよこんなことしたの……!?」
掲示板には謎のチラシ。
『津市:準・神域化計画』
〜伊勢に行く前に身を清めよう〜
「清め!? なんで!? うち足湯とたこ焼きしかないのに!」
しかし、なぜか評判は上々。
・観光客が「津、なんかすごい厳かな空気あるね」と言い出す
・地元のタクシー運転手が「神域前乗りキャンペーン」ステッカーを貼りはじめる
・商店街では「ご利益たこ焼き」なるメニューが誕生(かつお節が神の舞)
気がつけば、SNSでは#津市が神妙が静かにバズりかけていた。
そして――案内所にふらりと現れた、雅な袴姿の男性。
「ご願意、拝受しました」
「え、誰……ってツシノカミかーーーっ!!」
「私の名は語らずとも通じていたか。案内所の屋根にしめ縄を張る許可はいただいた」
「勝手に儀式化しないで!!」
結局、悠介は“神前観光案内士”として、
全国で唯一「観光客に祝詞を詠む職員」として知られるようになった。
本人は言う。
「いや、正直“神聖さ”の扱い方、まだよくわかってないんですけど……でもなんか、津ってちょっと誇らしいです」
三重県津市。
どこかに、ひとつだけ神楽鈴の音が混ざる朝。
ツシノカミは今日も、
誰かの願いを――しずしずと、荘厳に、
そして、ちょっとズレた方向から叶えていく。
──完──
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