『エルフ田中、派遣される』
「……あの、そちらの職歴に“第二次オーク大戦”って書いてありますが、こちらの世界での業務経験は?」
「はい。異世界では千年の歴戦ですが、こちらでは……先月、スーパーの青果で桃の袋詰めを三日間」
ハローワークの相談員・木村はメガネを直した。目の前にいるのは、耳が長く、金髪に淡い緑のローブをまとった――どう見てもエルフの男だった。
名前は「田中フィリオン勇吾」。元・異世界の森の民、現・日本在住の無職。
「どうして日本に……?」
「召喚されたんです。異世界の女王に。“戦え!闇の軍勢と!”って。でも、異世界で間違えてニトリの全身ミラーをくぐったらこっちに来ちゃって……」
「いや、ニトリで異世界移動できるの、初耳です」
田中フィリオン勇吾は、たしかにどこか神秘的な雰囲気を纏っていた。しかし、話す内容はスーパーのチラシとタマネギの値段ばかり。
「森の民でも、半額セールには勝てませんから」
木村は困りながらも、ようやく一件の派遣先を見つけた。
「都内の配送センターです。ダンボールを扱う仕事で、体力がいりますけど……」
「ふむ……森で木を運んでいた頃を思い出しますね。大丈夫です。私、かつて100年トナカイの角を運んでました」
「どんな職歴ですか」
こうしてエルフ田中、配送センターに派遣された。
現場では即浮いた。
理由①:言葉遣いが全体的に古風。
「この段ボールは、いずこへ届けるべき荷か!」
「その、あっちの棚……」
理由②:段ボールを弓のように扱おうとする。
「この箱……軽すぎる。まさか魔法か!?いや……羽根枕か……?」
理由③:とにかく仕分けが遅い。理由は“精霊に相談してるから”。
「この『割れ物注意』のラベルには、きっと深い意味があるはず……風の精霊よ、教えてくれ……」
「いや割れやすいだけだから!そこ考察しないで!」
リーダー格の社員・小松は、ついに怒鳴った。
「おいエルフ!もっと手際よくやれ!」
「……人間よ、怒りは肌に悪いぞ……」
「肌は関係ない!」
だが、エルフ田中の特技が、意外な形で開花したのはその夜だった。
倉庫の奥でフォークリフトが故障し、運べない荷物が山積みに。焦る小松とスタッフたち。
そのとき、田中がスッと前に出た。
「……任せてください。私は“風走の精霊”と契約済みのエルフ。風よ、我が手に集え――ウィンド・リフト!」
ただの気合いを込めた掛け声だったが、なぜか不思議と体が軽やかに動き、スイスイと荷物を捌き始めた。
「うおっ、あいつ……!フォークリフトより速い!?」
「手作業でここまで!?」
田中はどこかで覚えたストレッチとヨガポーズを駆使しつつ、機敏にダンボールを運び、振り返って一言。
「森の筋トレ、侮ってはならん」
最終的にその夜の出荷は予定より1時間早く完了。
一同、田中を囲んで拍手喝采。
田中は照れながらも、誇らしげに言った。
「この世界にも、仲間が……!」
その後、田中は倉庫業界の中で“エルフ流体術”と呼ばれる独自の運搬法で話題になり、気づけばTikTokにダンス動画が上がっていた。
「オレ、あの耳の長い人にサインもらった!」
「物流の世界にエルフが降臨とかウケる」
田中はこう語る。
「異世界には、もう帰らなくてもいいのかもしれません」
それを聞いた木村が苦笑いして尋ねる。
「この世界に、希望はありますか?」
田中は荷物の山を背景に、神妙な顔で言った。
「あります。この国の“物流”こそが、人々の命をつないでいると気づきました……そして、納豆の賞味期限が異様に短いことも」
それ以来、「朝の便に乗るエルフ」として彼は物流界の伝説になった。
7時半、コンビニ配送トラックから軽やかに降り立つ耳長の青年。
誰もが言う。
「あ、今日の納豆、早いな……あのエルフ、やっぱすげえわ」
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