金髪、それは突然に
「……あれ?誰この人」
朝、洗面台の鏡を見た瞬間、雄一(ゆういち・32歳)は本気で声を漏らした。
そこに映っていたのは──
金髪の男だった。
いや、正確には「金髪になった自分」だった。
寝癖どころの騒ぎではない。太陽のようにギラギラした金色の髪が、彼の頭に咲き乱れている。
「え?え、なんで!? 昨日、髪染めた記憶ないんだけど!?てか俺、むしろ白髪を気にしてた側なんだけど!」
大パニックのままスマホを手に取る。LINEの通知が光っている。
「おはようございます☀昨日の全社員投票の結果、"明日の出社で金髪だったら1000ポイント"という罰ゲームは、あなたに決定しました!✨よろしくね〜♪」
人事部・田辺
「はあああああああっ!?!?!?」
事の発端は、社内イベントだった。
最近、若手社員の「会社が地味すぎる」「なんか刺激がない」というアンケートを真に受けた人事部が、“ちょっと変なことしよう月間”を実施中なのだ。
その第一弾が「罰ゲームガチャ」。
各部の代表がくじを引き、出た内容を翌朝やるという、昭和もびっくりの制度。
しかもなぜか、それを社員全員の投票で「誰がやるか」決める。
つまり雄一は、投票で全社員の期待を一身に背負い、「金髪」役に抜擢されたわけである。
「……俺、真面目にExcelとか打ってただけなのに……なんで金髪……」
絶望したものの、出社しないと1000ポイント(社内の謎ポイント制度)がマイナスされる。
このポイント、社内の自販機無料チケットとか、謎の“社長とお茶会”券とかと交換できる。地味に痛い。
「……くそぅ、行くか……もうやけだ……」
雄一はドラッグストアで一番強そうなサングラスを買い、金髪で会社に向かった。
出社一歩目。
「うおっ!?ジョニー・デップ来た!?」
「いや、今のはベッカム寄りじゃね?」
「ちょっと照明つけて、反射で見えん!」
社員たちは騒然。社長室からも「彼か……今日のヒーローは」と声がする。
なぜか名札に「Mr.GOLD」と書かれたシールが貼られる。
「俺、ただの営業主任なんだけど!?」
気づけば、社員食堂のメニューが「金髪カレー(ルーがやたら黄色い)」に変更されていた。
そして午後。
「本日15時より、金髪雄一さんによる『輝く営業トーク術』講座を開催しまーす!」
「誰だよ勝手にセミナー開いたの!」
講座はなぜか満員。
「どうやったらそんなに目立てるんですか?」
「僕も金髪にしたいんですけど、社内的に大丈夫ですかね?」
「いや、やめとけ!そもそもこれ罰ゲームだから!」
なぜかファンが生まれ、社内インスタに #ゴールド主任 のタグが爆誕。
そして、帰り際。
人事の田辺が笑顔でやってきた。
「お疲れ様です!明日の罰ゲームも決まりました!次は“ヒゲを緑に染めて来る”です!」
「誰が当たったんですか……?」
「あなたです〜〜♪✨」
「なぜえええええええ!!?」
「だって今日の活躍見たら、またお願いしたくなっちゃうじゃないですか〜!」
「俺はエンタメ部門じゃねええええ!」
翌朝。
鏡の前に立つ、金髪+緑ヒゲの雄一。
サングラスの奥から、涙が一筋流れる。
「……俺、いつから“髪色担当”になったんだろ……」
だが不思議なことに、心の奥底ではほんの少し──
「今日もウケるかな」なんて思ってしまった。
これが、社内芸人への第一歩だった。
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