冷房の温度は、戦争だ
5月も終わりに近づき、日差しは真夏のようにギラついている。
気温は28度。
湿度70%。
しかし、私の会社の会議室は極寒だった。
なぜなら、そこでは冷房戦争が勃発していたからだ。
~第一章:リモコンの奪い合い~
私の部署には、エアコンのリモコンがひとつしかない。
そのリモコンは、「早く来た人が正義」という原始時代のルールで運用されている。
今朝も、朝9時の時点で冷房設定は24度・強風。
まるで冷凍庫。
「さみぃ……」とつぶやいた瞬間、横の先輩が言った。
「今日、暑くない?半袖でも汗かくわ〜」
……この人、暑がり代表、通称「灼熱の田中」。
彼が来るだけで、冷房が2度下がるシステム。
もはや、田中が来社=寒冷前線が通過。
~第二章:寒がり軍の反撃~
午後2時。
女子チームの一人がブランケットに包まりながらつぶやいた。
「……もう限界です。私たちにも人権をください」
ブランケット、ひざかけ、カーディガン、貼るカイロ。
装備は完璧。
でも、室温22度・湿度40%は、完全に「避暑地の別荘」。
ついに、寒がり軍団のリーダー(経理の伊藤さん)が立ち上がった。
「温度、1度上げます」
全員、拍手。
が、その5分後、田中の反撃。
「え、なんか暑くないっすか?」
ピッピッピッ(温度DOWN)
伊藤さん「……っ!」
~第三章:中間派の苦悩~
私はどちらかというと中間派だ。
暑いと眠くなるし、寒いと肩が凝る。
欲しいのは、そう、「平和な25.5度」。
だが、この世界に「0.5度刻みの正義」など存在しない。
上げるか、下げるか。
そう、これは二項対立の闘いなのだ。
私はリモコンの数字を見ながら、ひとり心の中で叫ぶ。
「その設定温度、ちょっと待ったああああ!!」
~第四章:リモコンが消えた日~
そして、ある月曜日。
朝からエアコンがついていない。
会議室も無音。
「あれ?今日なんか静かじゃない?」
「ってか、リモコンどこ?」
そう、リモコンが消えたのだ。
犯人はわからない。
ただ、「昨日、伊藤さんが少し怒っていた」ことと、
「田中がブランケットを2枚持ってきていた」ことだけは記録に残っている。
~第五章:管理部からのお知らせ~
お昼過ぎ、社内チャットがピコンと鳴る。
【重要】冷暖房リモコンの管理について
設定温度は基本「26度」、調整希望は管理部まで。
平和条約……発動。
しかし、その直後、田中のつぶやきがオフィスに響いた。
「え、26度って、サウナじゃないっすか?」
伊藤さんは、それを聞いてゆっくり立ち上がった。
「田中さん、最近運動不足って言ってましたよね?」
圧。
氷点下レベルの圧。
~第六章:温度戦争の終結(かもしれない)~
現在、我が社の会議室には「温度変更禁止」のシールが貼られている。
エアコン設定は26度、風量は弱、サーキュレーターが3台配置され、
なんとなく全員が我慢している。
だが、その微妙な温度の中、たまに聞こえる。
「……暑いな」
「……寒いわ」
「これで死者が出ないの奇跡だよな」
私は今、カーディガンを羽織りながら扇子であおいでいる。
この矛盾が、会社という社会だ。
結論:
職場の冷房は「合議制」で決めると地獄
リモコンを握る者が世界を動かす
どちらかが折れると、片方が怒る
平和の鍵は「サーキュレーター」か「諦め」
~最終章:在宅勤務が恋しい~
ふと、私は去年の夏を思い出した。
エアコンのリモコンは、私が握っていた。
温度は25.5度。
風量・中。
好きなタイミングでON/OFF。
…あの時代、幸せだったなあ。
画面の向こうで、テレワーク中の同僚が言う。
「今、室温?24度にしてるよ。最高」
……戦争は、リモートの向こうに平和があるらしい。
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