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『冷や汗カフェへようこそ』

 都心のはずれに、「カフェ・ヒヤアセ」という店がある。

 オシャレな木造建築、白を基調とした内装、スタッフは全員スーツ姿――
 だがその実態は、客に“冷や汗をかかせる”ことで定評のある、少しおかしなカフェだ。

「いらっしゃいませ。ご予約名は?」

「た、高橋です……初めてなんですけど……」

 戸惑いながら入店したのは、28歳の会社員・高橋一馬。
 同僚から「一度は行ってこい」と押され、よくわからぬまま予約した。

「本日ご用意している“冷や汗メニュー”はこちらです」

 渡されたメニューには、こう書かれていた。


・ミス送信カフェラテ
 →送信先を間違えたメールの演出付き
・上司来店パフェ
 →本物の上司が5分間だけ登場(希望者のみ)
・元カノ着席マキアート
 →“激似”の女性が同席し、無言で見つめてきます
・財布忘れシチュー(お会計時に現金ゼロ演出)


「な、なんなんですかこれ……?」

「“ヒヤッとする体験で心をデトックス”がコンセプトです」

 スタッフが微笑む。

「ちなみに“今日のヒヤアセ体験”はランダムです。強制になります」

「は、はぁ……?」

 その瞬間、カフェの奥から男性スタッフが一人、小走りでやってきた。

「た、高橋さんっ!? すみませんっ、至急この書類にサインをっ!」

「えっ!? 誰!? あの、知らないんですが……」

「社長の案件です! 例の契約書が流出しててですね、緊急で印鑑が……!」

「えええっ!? やってないやってない!! 仕事の話じゃないから!!」

 周囲の客が「きたきた」「あれ“社外バトルラテ”ね」とニヤつく中、高橋の額にはじっとり汗がにじむ。

 冷や汗・第1波、発生。

 その後も、突然アラーム音が鳴り響き、

「高橋さま、“秘密保持契約”の更新を忘れていませんか!? これは……漏洩リスクです!!」

「知らん知らん知らん!! 俺、何もしてないって!!」

 冷や汗・第2波。

 さらに――隣の席にスッと現れた、目元が異常に“元カノ”に似た女性。

「……久しぶりだね。やっぱり忘れた?」

「え、ちょ、誰? えっ、えっ!? 本物!? 演出!? やめて!? これ冷や汗どころじゃない!!」

 冷や汗・第3波、ついでにドライマウスも発生。

 しかし、事件は終わらない。

 クライマックスとして登場したのは、まさかの本物の上司・課長の石山だった。

「おぉ、偶然だな高橋くん! 奇遇だな〜、こんなところで会うなんて!」

「うそだろ!?」

「……っていう“演出のバイト”なんだ。びっくりした?」

「……本物じゃないんかーーーーい!」

 全身から変な汗をかいた高橋は、最後に“クールダウンアイス”を注文。

 渡されたアイスには、「おつかれさまでした」の焼き印が。

「……なんだったんだここ……」

 そのとき、スタッフがそっと耳打ちしてきた。

「実はですね……」

「はい?」

「このあと“お会計ミス”が起きる予定です。“1万7千円です”って言われてください」

「高いよ!!!」

「そのあとは“すみません、ゼロ一個多かったです”って謝られます」

「余計にヒヤヒヤするわ!!」

 帰り際、高橋は店の前で、謎の客たちとすれ違う。

 その中には、明らかに大学教授っぽい人、なぜかパントマイムの格好の人、
 そして「嫁と同時入店したら離婚になりかけた」という伝説の夫婦もいた。

 ――どうやら、この店には“定期的にヒヤ汗をかかないと落ち着かない”常連客もいるらしい。

 後日、高橋も会社の昼休みに同僚たちへ言っていた。

「……あそこ、なんかスッキリするんだよな」

「え、また行ったの?」

「昨日は“Zoomに間違って入室する体験”だった。なかなか良かったよ」

「もう取り込まれてるじゃん」

 こうして、今日もまた、カフェ・ヒヤアセの扉が開かれる。

 あなたの冷や汗、在庫過剰になってませんか?


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