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第127巻 八戸市:ハチノヘノカミの願い

──海風と祭りが神のエネルギー源。願いも潮の流れに任せます。

 八戸市の海岸沿い、ねぶた祭りの山車が眠る倉庫のそばに、小さな赤い鳥居が立っている。漁師たちが通るたび、軽く頭を下げるその祠に祀られているのが、ハチノヘノカミである。

 今日も神様は、潮風を受けながらのんびり昼寝をしていた。

「……ふあ〜。海の匂いは、やっぱり落ち着くなぁ……。ああ、お祭りまであと何日じゃ?」

 神様は活発で親しみやすい。だが油断するとすぐ寝る。

 そこへ、八戸港の漁師の息子・碧斗が駆けてきた。

「神様ー! ちょっと相談!」

「お、碧斗か。起きとるぞ、起きとる……たぶん」

「うちの漁船、祭りの山車引きの順番でモメてるんだよ。“どっちが先頭か”って」

「毎年恒例のやつか。元気で何よりじゃ!」

「いやいや、収まってないんだってば!」

 その後ろから、祭り実行委員の里奈も追いかけてきた。

「神様、ほんとに“潮の流れに任せればよい”とか、のんきなこと言ってる場合じゃないですよ!」

「まあまあ。海風もケンカも、そのうち流れていく……」

「流れてく前に山車が壊れるっての!」

 神様はふわっと立ち上がると、大きく深呼吸をした。

「……では、こうしよう。“潮引き抽選くじ”じゃ」

「え、それって?」

「お祭り当日の朝、浜辺に浮かぶ貝殻を拾ってもらう。その貝に刻まれた番号が、山車引き順だ」

「アナログだなー!」

「神事にデジタルは要らぬ。運も潮も、流れの中で拾うものじゃ」

 その日から、漁師たちは真剣に“貝殻拾い”の練習を始めた。何事も全力の下町気質である。

「朝イチで貝を拾え!」

「はえー!これは訓練だ!」

「もう漁じゃん!」

 気づけば港の砂浜は毎朝、軽い漁獲訓練状態になっていた。

 神様は海風を受けて満足げに眺める。

「実に健康的じゃのぅ。これもまた“祭り準備”じゃ」

 すると、さらに煌希が登場。彼は他人の成果を素直に称賛できるタイプだ。

「うわー、楽しそうだなー! 碧斗、がんばってるじゃん! 俺も手伝うわ!」

「おう! じゃあ朝4時集合な!」

「……早っ!」

 そして、祭り当日。

 夜明け前の浜辺には、いつになく真剣な大人たちが並んでいた。神様は自作のくじ入り貝を海に放る。

「行け、潮の導きよ!」

 波に乗った貝は、次々と流れ着く。

「俺の番号は3だ!」

「私は1番!やったー!」

 誰も文句を言わない。不思議と全員納得していた。やはり自分の手で拾った順は説得力が違うらしい。

 夕方、ねぶた山車が港を練り歩く中、神様は再び潮風に揺られていた。

「ほれ見てみい。誰も揉めておらん。平和じゃのぅ」

「神様、今回はうまくいったけど……来年もこれでいいんですか?」

 里奈が心配そうに尋ねると、神様はニヤリと笑った。

「来年は“ホタテの貝殻”にしてみようかの」

「そこ微妙にマニアックだな!」

 港の夕日に、山車の灯りがゆらゆら揺れていた。

 ──今日も八戸の神様は、潮とともにゆったり働いている。


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