第77巻 和歌山市:ワカヤマノカミの願い
和歌山市――。
梅とお寺と、なぜか急に始まる“人生相談”。
紀三井寺の境内に、ひときわ立派な梅の木がある。
そこに手を合わせていたOL・芽衣は、突然、背後から声をかけられた。
「その願い、和風美しく叶えてしんぜよう」
振り向くと、
長い羽織を着た、ほんのり梅干しの香りがする中年男性が仁王立ちしていた。
扇子に書かれた文字は「調和」。
「え、だれ? どうして、梅干しの香りが?」
「拙者、和歌山の神、ワカヤマノカミと申す。願いを叶えるが、風流にかぎる」
「なんか、旅館の若旦那感すごい……」
ワカヤマノカミは、願いを“和風に、美しく”叶える神。
たとえば「彼氏がほしい」と願えば――
「まずは、漬け物から始めよう」
「それ、どのステップ!?」
芽衣の願いは「職場の人間関係を、まろやかにしたい」というもの。
上司はすぐ怒鳴る、後輩は話を聞かない、
課長は“スライドのグラデーション”だけには口を出す。
「私はただ、静かに、のんびり働きたいだけなんです」
「ふむ……それは“和の心”を取り戻すべきじゃな」
そう言うと、ワカヤマノカミは
背中から取り出した竹籠に、さまざまなアイテムを取り出し始めた。
「まず、梅干し。次に、茶筒。そして、花札」
「職場でやっていいやつあります!?」
その日以降、芽衣の会社のデスクには、梅干しの壺が置かれた。
「しんどいとき、一粒どうぞ」――と手書きの札つき。
最初はみんな引いていたが、なぜかいつの間にか、減っていく壺。
「梅干しあると、落ち着くな……」
「これ食べてから、企画通ったかも」
ワカヤマノカミの“和風戦略”はじわじわと職場に浸透していく。
ある日、急なプレゼンが舞い込んだ。
緊張しながら準備する芽衣に、後輩の新入社員・寿史が声をかける。
「芽衣さん、これ……」
差し出されたのは、手作りの“梅昆布茶”。
「この間のお返しです。僕、あの梅干しにすごく助けられたんです」
芽衣は思った。
“塩味の交流”って、意外と甘いのかもしれない。
プレゼン後、ワカヤマノカミがこっそり現れる。
「ふむ、“梅干し縁”もなかなか乙なものじゃ」
「神様、私、今ちょっとだけ……職場が好きになれました」
「それが“和の奇跡”。だが、まだ完成ではないぞ」
「え、まだあるんです?」
ワカヤマノカミは、再び竹籠から何かを取り出す。
――花札だった。
「次は“和風社内レクリエーション”じゃ」
「だからそれ、絶対怒られるやつです!」
📌
人生を変えるのは、大きな出来事じゃない。
ひと粒の梅干しや、一杯の昆布茶が、
いつの間にか誰かとの距離を近づけてくれる。
派手じゃないけれど、しみじみと。
和歌山の神様は、そんな“静かな奇跡”を得意とするのかもしれません。
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