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第74巻 中野区:ナカノノカミの願い

 中野ブロードウェイの地下二階、
 フィギュアと古本と謎の骨董が混ざり合うカオス空間に、
 ひっそりと存在する神棚。
 そこに祀られているのが――

 ナカノノカミ。

 見た目はカンペキに「オタク」。
 Tシャツには「神、ここにあり」と筆文字、
 頭にはうさ耳カチューシャ。
 推しは毎年変わる。気まぐれにもほどがある。

 この神様、願いをユニークすぎる方法で叶えるのが特徴だ。

 ある日、アイドル志望の若者が言った。

「ビッグになりたいんです!有名になって、武道館でライブを!」

 ナカノノカミは静かにうなずき、そして――

「わかった。まず、“イカの被り物”をかぶって、
 中野の商店街で毎日ダンス配信だ」

「えっ?」

「ジャンルは“演歌×トラップ”。あと、“しゃもじ”も持って」

 彼はやった。
 イカをかぶり、しゃもじを振りながら踊り続けた。
 最初は完全に変人扱い。
 だが、ある日、

「このイカ野郎、クセになるわww」

 と、フォロワーが3万→30万→武道館……へは行かず、
 なぜかイカ料理専門店のCMに出演することになった。

「なんでやねん……!」

 別の日、漫画家志望の女性が訪れる。

「一発でバズる漫画を描きたいんです!」

 ナカノノカミは真顔で、

「ならば“寿司を握る武士”と“昆布で戦う女忍者”のラブコメを描け」

「えっ、設定が渋滞してます」

「あと1話ごとに“オチでおはぎを食べる”儀式を入れるのだ」

 彼女は渋々描いた。
 それがなぜか海外でバズり、

 “SushiBlade~海苔に散った恋~”としてハリウッドから映画化オファーが来た。

 ナカノノカミの願いは、だいたいズレている。
 けれど、ズレた願いほど、妙に叶う。

 大学生が就職祈願に来れば、

「よし、“リアル人生ゲーム”を作って文化祭で売れ」

 婚活中のOLが来れば、

「まずは、“推しキャラに似せた自分の等身大パネル”を玄関に置け」

 どんな願いも、一回サブカルにねじ曲げてから返ってくる。

 実はこの神様、
 人の“本音の願い”を汲み取るのが上手い。

「有名になりたい」人には「笑ってもらいたい」を。
「成功したい」人には「自分を表現したい」を。
「恋人が欲しい」人には「推しと生きる自分を認めたい」を。

 回りくどいようでいて、実はど真ん中を射抜いているのだ。

 夜、ブロードウェイのネオンが消えたころ、
 ナカノノカミは一人、ガチャガチャコーナーを巡回していた。

「よし、“さば缶キャップコレクション”もコンプ……これが信仰心だな」

 小さく笑った神様の背には、
 誰にも見えない羽が一瞬だけ、きらりと光った。

 📌

 中野の願いは、ヘンテコに見えて、本質的。
 サブカルは、遠回りなようで、いつだって心の真ん中をくすぐる。
 今日もどこかで、誰かの夢がズレた形で叶っていく――。


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