『ビーチパラソル選手権』
砂浜でバカンス。聞いただけで脳内にカモメの鳴き声とトロピカルドリンクが再生される響きだが、わたしは今、その真逆にいる。
「いいか、日傘じゃない、戦傘だ!」
怒号とともに地面に突き刺さる一本のパラソル。その軸には「全日本ビーチパラソル選手権・地区予選会場」と書かれた、パチンコ店のポスターのような垂れ幕がぶら下がっていた。
そもそもなぜここにいるのか——それは、会社の慰安旅行で「どうせ行くならイベントも楽しもう」という謎の一声により、わたしがくじ引きで選手にされてしまったからである。
「お前、ビーチ似合いそうな顔してるもんな」
似合いそうな顔って何だ。焼けそうな皮膚って意味か。やめろ紫外線。
ルールはこうだ。
1、制限時間内に自分のパラソルをいかに「美しく」「映えるように」設置できるかを競う。
2、制限時間は十七分。なぜ十七なのかは不明。
3、途中で倒れたら即失格。
4、他人のパラソルを陰で揶揄するのはOK。
「美しさ」「映え」「陰口」——それ、スポーツなのか?と思ったが、審査員の中に明らかにインフルエンサー風の人がいる時点で、全てが理解できた。これは“写真映え戦争”である。
わたしの前には、様々なパラソルと、その下でポーズを取る猛者たち。
ビーチマットを円形に敷き詰めた女王風チーム「日傘姫」、全員サングラスで決めてる「ビーチ兄弟ズ」、さらに謎のドライアイスで人工ミストを出している「涼風会」までいる。
なんなんだこれは。海辺のファッションショーか。
わたしは会社支給の白パラソル一本と、社内で回収されたレジャーシート、そして社長がなぜか持参した「特大スイカの作り物」しか持っていない。
絶望。
——と思った、その時。
「おい、そのスイカ、割ろうぜ」
声の主は、同じく参加者のひとりで、チームを組んでいた同期の大迫。体育会系で、頭より先に足が動くタイプだ。
「いやこれ、発泡スチロールなんだけど」
「マジで? じゃあ中にドライアイスでも詰めようぜ。涼しげな演出になるし!」
勢いで詰められるドライアイス。だが見た目は完全に“スイカ爆弾”。
競技が始まる。
砂浜にスコップを突き立て、パラソルをねじ込む。だが軸が斜めになり、倒れそうになったので、わたしは慌ててスイカで支えた。
——これが運命の誤算だった。
ちょうどそのとき、海風が吹き抜け、わたしたちの白パラソルが軽やかにひるがえり——スイカの上で大ジャンプ。
バウンドしたスイカが、奇跡のスピンで宙を舞い、近くの「ビーチ兄弟ズ」の真ん中に落下。
「うわぁぁスイカが爆発したァァァ!」
中のドライアイスが漏れ出し、幻想的なミストが辺りを包む。その様子を見たインフルエンサー審査員が叫んだ。
「……なにこれ、めっちゃバズりそう!」
結果、わたしたちは「特別賞:SNS即投稿部門」でまさかの入賞。
パラソル自体はほぼ傾いていたし、コーディネートの統一感もゼロだった。だが、あの謎の“スイカ爆破映像”が予選公式SNSで十万回再生され、結果的に準決勝へ。
……こんなんでいいのか日本のビーチ文化。
帰りのバス、同期の大迫が言った。
「なあ、次は“風で飛ぶタコの演出”とかどうよ?」
お前、それもうビーチじゃなくて空港だろ。
でも少しだけ、楽しみに思ってる自分がいるのが悔しい。
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