【bon07:福井県_三国節と浜辺のラストダンス】
「風、強くない……?」
小百合が言う。髪が水平に流れている。まるで漫画。
「うん、もう“風が強い”じゃなくて“風が殴ってくる”レベルね」
美琴が手帳を必死に押さえながら叫ぶ。
ここは福井県、三国町。
北前船の港町として栄えた地に伝わる民謡「三国節」をリスペクトするため、我ら一行は、風速8メートルの浜辺にいた。
「いやあ、さすが三国……波が元気!」
雄大は上裸で風に逆らっている。なぜか上半身に“福井”と書かれたタスキをしている。
「お前、盆踊りとマラソンを混同してないか?」
拓朗が冷静にツッコんだ。
「浜辺で踊るって、こういうことじゃないの!?」
ジャニヤが顔を覆った。
「いや、ちがう。完全に一人だけ“北陸で走る裸祭り”状態」
はづきは風除け用に地元のレインコートを購入済み。万全すぎてむしろ動きがロボット。
その時、漁港の方から近づいてきた青年――義陽が、手に旗を持って声をかけてきた。
「おう、おまえら……今日、踊る気あるんか?」
「あるよ!」
雄大が即答。
「だったら、ちょっとマジで合わせろ。“三国節”ってのは、潮と風と心が合ってこそ、なんや」
「風と……心……」
雄大が深くうなずいているが、すでに意味が曖昧。
義陽は踊り手たちに指示を出しつつ、ふと小声でつぶやいた。
「前にさ、うちの踊り連に一人、“とにかく突っ走るやつ”おってな……」
「……?」
「あいつ、踊りは下手やったけど、誰より楽しそうやったんや。それ見て、周りがちょっとずつ変わってった」
「へえ、どこ行ったんです?」
「……今、横で“福井”ってタスキつけてる」
「俺かぁああああ!?」
「ま、まあ……“突っ走ってた頃の俺”にも意味はあったってことか」
雄大が胸を張ると、義陽はため息まじりに笑った。
「意味あったかはともかく、お前は“風を読まん”タイプやな」
その直後、海風が吹きすさび、雄大のタスキが宙を舞って消えた。
「あぁぁぁああああ!! 福井が……!俺の福井が風にさらわれた!!」
拓朗が静かに解説する。
「違う。お前がさらったんだ、福井の空気をな」
観光客に囲まれた中、やがて始まった三国節の輪踊り。
三味線の音、太鼓、掛け声――
その中央で、一同は風に逆らいながら、静かに手を動かしていた。
勇者・雄大、意外にも今日は慎重だった。いや、風のせいで“慎重にしか動けない”という説もある。
だが、その動きが逆に、やたらと“しっくり”していた。
「……なにこれ、普通にかっこよくない?」
美琴がぽつりと漏らす。
小百合も頷く。
「たぶん、風に抗わず、でも飲まれもせず……そんな踊りが、三国節に合ってるんだよ」
そして気がつけば、輪の中心で踊っていたのは雄大でも啓でもなく――
はづきだった。
「ちょっ……え、はづきさん……いつの間に⁉︎」
拓朗が驚く。
彼女はずっと端で動きを観察し、風の流れと輪の重心を読んでいた。そして今、自然な形で“誰よりも安定した踊り”をしていた。
無言のリスペクト。身ぶり手ぶりの中に、誰より深くこの地のリズムを吸収していた。
「……やるなあ。さすが商人。空気読む力、商談力だけじゃないんだな」
ジャニヤが笑い、ケイデンが小さく拍手を送る。
その時、空に虹がかかった。
風はやみ、潮の香りが戻ってくる。
「……踊ったなあ」
雄大が空を仰ぎながら言った。どこか、清々しい顔だった。
――なお、タスキはまだ見つかっていない。
「そのうち、海岸で誰かが“謎の勇者タスキ”拾うんじゃない?」
「それはそれで、新たな勇者が生まれそうで怖いんだけど……」
(bon07:End)
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