『絶叫マシン、乗るだけバイト』
それは、今から三日前のことだった。
「なあ、遊園地でさ、日給三万円のバイトあるって知ってる?」
大学の昼休み、唐揚げ弁当にご執心だった俺の前で、友人の杉本が唐突に言った。
「え、何それ、裏カジノか臓器提供か?」
「ちげえよ。『絶叫マシン耐久試乗アルバイト』ってやつ。ひたすらジェットコースター乗るだけ。めっちゃ楽らしいぞ」
俺は唐揚げを喉につまらせた。
杉本によると、地方の寂れた遊園地「たま川ドリームパーク」で、新しく導入される絶叫マシン「スカイ・ゲロッパ」を試運転するバイトがあるらしい。
「ひたすら乗って、感想を言うだけ」
その言葉に、時給900円で牛丼屋の皿洗いをしていた俺の脳は、カチリとギアが入った。
翌日、応募フォームを埋め、当日現地へと向かった。スーツ着用の係員に案内された控室には、俺を含めて5人の若者がいた。
「本日はご参加ありがとうございます。スカイ・ゲロッパ、通称“SG”は、360度7回転・最大傾斜88度・最高速度時速137kmの“精神リセット型”アトラクションです」
係員が言った。
隣の女の子が口をパクパクしていたが、たぶん言葉が出てこなかったんだろう。
最初の搭乗者は俺だった。
「うぉああああああああああああ!!!!!」
何が起きたのか正直覚えていない。
ただ、スタートして0.8秒後に靴が飛んだ。
2秒後に人生が走馬灯のように流れ、5秒後には口から何か出そうになり、着地時には足が逆方向に曲がってる感覚があった(実際には曲がってなかった)。
係員がニコニコして言った。
「ご感想は?」
「……骨が、笑ってます」
あまりの衝撃に、俺はその後の4周をこなした記憶がない。だが、休憩中に他のメンバーと「これはバイトじゃない、洗礼だ」「あと3回で解脱できそう」などと言い合うことで精神を保っていた。
午後、最後の搭乗直前。事件は起きた。
「うう、ちょっとお腹痛い……」
バイト仲間の一人、ぽっちゃり系男子がしゃがみ込んだ。
係員が言った。「補充要員がいませんので、どなたか代わってもらえませんか?」
沈黙。誰もが目をそらす。
そんな中、杉本が、まさかの一言。
「俺、いきます!」
なぜか自信満々だった。
……3分後。
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!」
杉本の顔面は見事なまでの土色だった。目は乾いた魚のように虚ろで、手には何かを握りしめていた。
「……やべぇ、さっきの唐揚げ出たわ……」
「どこから?」
「鼻から」
その場の全員が「ああ……」と納得したようなため息をついた。
最終的に、全員が奇跡的に無事で、バイトは終了した。帰り際、係員が何気なく言った。
「あっ、ちなみにこの絶叫マシン、来月から稼働しますが……最初の1週間は“絶叫音声採集モード”で営業します。今日の皆さんの声、全部使いますんで♡」
「え、録音されてたの?」
「もちろんです♪ ほら、これが“叫び波形ログ”」
そこには、俺の「母ちゃーーん!」と叫ぶ波形が美しく記録されていた。
その後、遊園地の公式HPに掲載されたプロモーション動画では、俺の「やめてええええ!」という叫び声がBGMとして採用された。
再生数:28万回。
コメント欄には、
「叫びがリアルすぎて笑ったwww」
「この人、絶対“鼻から唐揚げ”の人でしょ」
「行く勇気が出ません」
など、称賛(と恐怖)に満ちた感想が並んでいた。
俺は今でも、その動画を見ると膝が震える。
でも、もう一度乗れと言われたら?
「……日給4万なら、考えてもいい」
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