【bon26:香川県_金比羅船々と“踊りに羅針盤を求める男”】
「こんぴらふねふね〜 追い手に帆かけて〜♪」
夜の瀬戸内海を望む港町。
月明かりが水面にゆらぎ、盆踊りの音が静かに広がっていた。
……が。
「右か!? 左か!? 踊りの方向がわからん!」
またしても、踊りの輪の“風流”をぶち壊す声が響いた。
もちろん、雄大である。
「ちょっと待って!? なんで盆踊りで“方角”にこだわってるの!?」
美琴がビシィィとツッコむ。
「いや……“船の歌”って聞いたら、俺……“羅針盤”持ちたくなる性分なんだよ!!」
「性分のせいでリズム迷子になってるからね!?」
場がざわつく中、静かに登場したのが耀二。
周囲にポジティブな影響を与える男で、妙に爽やかな笑みを浮かべていた。
「いいねぇ〜。自分なりに“船出”してる感じ。応援したくなるよ」
「うわ、肯定されたけど全然方向修正してくれないタイプだ!」
そのとき、横からスマホ片手にすっと現れたのが亜侑美。
情報通な彼女は、すでにその場の“混乱度”をSNS分析済みだった。
「はいはい。今、踊りの方向性が“三つに分岐”してるらしいわよ」
「え、もうみんな迷子になってるの!?」
「原因の9割、あなたね」
踊りの輪は――いまや“北組”“南組”“雄大組”の三派に分裂していた。
雄大組は「こっちが船の進行方向だ!」と主張しつつ、
右へ左へと舟漕ぎステップで全力疾走中。
「見てくれ! 俺のターン! 風を切ってるぅぅ!」
「それ、盆踊りじゃなくて“自転車の練習”だから!」
怒鳴ったのは、まさかの冷静な拓朗だった。
「いや、俺も割と型崩して踊る方だけどな? これはもう“踊り”を超えて“航行”だよ」
その後方で、小百合が頭を抱えながら呟く。
「お願いだから……どこにも着かない旅はやめてぇ……」
そこへ、場の空気を一変させるように登場したのが星来。
他者に感謝を伝え、共に前進する姿勢を貫く人物で、今回の“踊りの舵取り役”だった。
「雄大さん、今ここにいるみんな、進む先なんて決めなくても、一緒に輪になってるのが嬉しいんですよ」
「えっ……そっか……方向なんていらないんだ……!」
「ようやく気づいたーッ!」
場が少しだけ和らいだ、その瞬間――
再び現れたのが奈津佳。素直に謝れる女、もとい、苦労人。
「すいません! 皆さん、今夜の混乱の一因は、うちの“踊り方自由推奨ポスター”にもあります!」
そこにはこう書かれていた。
『こんぴらふねふね、自由な風に乗ってください(方角指定なし)』
……つまり、この混乱は主催側の意図的放置プレイだった。
「どうりで自由すぎると思った!!」
「そりゃ方向見失うよね……!」
その後。雄大も輪の中に戻り、
静かに、ただ手を上げてリズムを取った。
「“港”ってさ……きっと“誰かと繋がれる場所”なんだな……」
「いや、なんかうまいこと言おうとしないで?」
港町に夜風が吹き、
「こんぴらふねふね」の音頭が、静かに潮の香りとともに流れていった。
(bon26:End)
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