壊れない仕組み 第5話 命令だけでは動かない
37兆個の細胞は、どうやって情報を共有しているのか
~37兆個の細胞から学んだ設計の法則~
前回は、私たちの体には異常な細胞を見つけ出し、排除する仕組みがあることを書きました。
では、その細胞たちはどうやって異常を知るのでしょうか。
37兆個もの細胞が、それぞれ勝手に動いているだけでは、生命は成り立ちません。
実は細胞たちは、お互いに絶えず情報をやり取りしています。
まるで会社のように。
ある細胞が
「ここで炎症が起きています。」
と知らせます。
すると周囲の細胞が集まり始めます。
必要ならさらに応援を呼びます。
そして役割の違う細胞たちが、それぞれ自分の仕事を始めるのです。
この連絡役をしているものの一つが「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質です。
名前は難しく聞こえますが、私は会社のメールやチャットのようなものだと思っています。
「応援してください。」
「こちらは終わりました。」
「敵を発見しました。」
そんな情報が、体中を飛び交っているのです。
もちろん実際は、もっと複雑で精密な仕組みです。
しかし本質は、情報共有です。
私は長年、組織づくりに携わってきました。
その中で何度も感じたことがあります。
問題が起きる組織は、能力が低いのではありません。
情報が伝わっていないのです。
現場は困っている。
でも管理職は知らない。
他の部署も知らない。
だから誰も助けられない。
生命は、そんなことを許しません。
異常が起きれば、すぐに周囲へ伝える。
必要なら全身へ知らせる。
だから対応が始まるのです。
これは、まさに理想的な組織だと思います。
もう一つ面白いことがあります。
体の中には社長がいません。
「右手を動かせ。」
「白血球を増やせ。」
そんな細かな命令を出す人はいません。
一人ひとりの細胞が、自分の役割を理解しています。
だから現場で判断できます。
だから動けます。
私は若い頃、
「良い組織とは、優秀なリーダーがいる組織だ。」
と思っていました。
しかし今は少し違います。
本当に強い組織とは、
一人ひとりが自分で考え、自分で動ける組織なのではないでしょうか。
そう考えるようになりました。
これは私が富士通で経験したこととも重なります。
成果を出している職場には、共通点がありました。
管理職が優秀だからではありません。
現場が考えていました。
若手が意見を言っていました。
困った時には自然と助け合っていました。
生命も同じです。
一つの細胞がすべてを支配しているのではありません。
37兆個の細胞が、それぞれ考え、それぞれ働き、必要な時には互いに助け合っています。
だから生命は壊れません。
私はこの仕組みを知った時、
「生命とは究極の自律分散型組織なのではないか。」
と思いました。
実は、この考え方はその後、私自身が組織づくりやデザイン思考を考える上で、大きなヒントになりました。
生命は命令だけでは動いていません。
信頼と情報共有によって動いています。
人間社会も、きっと同じなのだと思います。
では、37兆個もの細胞は、どうして勝手な行動を取らないのでしょうか。
どうして暴走せず、自分の役割を終えることができるのでしょうか。
そこにも、生命の驚くべき設計思想が隠されていました。
次回は、
「細胞は、なぜ自ら死を選ぶのか」
という少し不思議なお話をしてみたいと思います。
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