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睡眠薬はクセになる?マイスリー・デエビゴ・ロゼレム等の違いを薬剤師が解説

「睡眠薬はクセになりそうで怖いです。あまり飲みたくない。」

薬局でそういう相談してくる方は、今も多いです。

睡眠薬には、依存性や転倒リスクに注意が必要な薬がある一方で、
まったく異なる仕組みで眠りを助ける薬も存在します。

「睡眠薬」という一括りで怖がるのではなく、
それぞれの薬が「どうやって眠りを助けているか」を理解することが、
安全に使うための第一歩になると思い、今回記事にしようと思い立ちました。



睡眠薬の主な分類

まず、現在日本で使われている主な睡眠薬をざっくりと整理しておきましょう。


BZ系睡眠薬

レンドルミン、ハルシオン、サイレースなど

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、
脳の抑制性神経伝達物質であるGABAの働きを受容体を介して増強することで、眠気を促します。
脳全体にブレーキをかける」薬と言っていいかもしれません。

薬として実績が長く、一定の効果が得られやすいですが、注意点も多いのです。

主な副作用・リスク

  • ふらつき、転倒(特に高齢者)

  • 翌朝への持ち越し(前日の眠気が翌日まで続く)

  • 健忘(服用後の出来事を覚えていない)

  • 依存と離脱(やめようとすると眠れなくなる反跳性不眠)

「BZ系を飲んでいると認知症になる」という話を耳にすることがあります。
これについては、現時点では因果関係が確立しているとは言えません。
2024年に発表されたオランダの前向き研究(対象5,400人以上)では、
BZ系薬の使用と認知症リスク増加の間に有意な関連は認められなかったと報告されています(Alzheimer's & Dementia誌掲載)。
ただし、脳の構造に長期的な影響を及ぼす可能性が示唆されており、
「完全に無関係」とも断言できないとのことです。

高齢者では、転倒・骨折・せん妄のリスクが実際に上がります。
これは認知症との関係以上に、現場でより切実な問題です。

BZ系は「出口を考えながら使う薬」であり、
漫然と長期で内服することはあまり推奨されることではないものではあります。


非BZ系睡眠薬

マイスリー、アモバン、ルネスタ

「BZ系ではない」という名前から、
「依存しにくい安全な薬」と思われやすいのですが、
残念ながらそうとも言い切れないお薬です。

非ベンゾジアゼピン系は、構造こそBZ系と異なりますが、
作用点は同じベンゾジアゼピン受容体。
「別の名前がついた、同じ鍵穴を使う薬」と考えるとわかりやすいかもしれません。

代表的な薬を並べておきましょう。

  • マイスリー(ゾルピデム):作用時間が短く、寝つきに使われることが多い

  • アモバン(ゾピクロン):やや苦味を感じることがある

  • ルネスタ(エスゾピクロン):ゾピクロンの光学異性体。アモバンより作用時間がやや長く、中途覚醒にも使われる

BZ系と比べて筋弛緩作用が少ないとされる点は、一定の利点があります。
しかし「ふらつきがない」「依存しない」ということではありません。

主な副作用・リスク

  • 健忘(服用後の行動を記憶していない)

  • もうろう状態での行動(いわゆる「夢遊」的な状態)

  • 翌朝の眠気、ふらつき

  • 依存・離脱・反跳性不眠

特にゾルピデムでは、服用後に起き上がって食事や電話をした記憶がない、というケースが臨床上ときどき見られます。
「非BZ系だから安心」ではなく、
「BZ受容体に作用する薬として、同様の慎重さで使う」という姿勢が正しいかもしれませんね。

オレキシン受容体拮抗薬

ベルソムラ、デエビゴ、クービビック、ボルズィ

この10年で登場した、睡眠薬の中では「新しい考え方」をもつグループです。

脳には、覚醒状態を積極的に維持しようとする仕組みがあり、
その中心的な役割を担うのが、神経ペプチドの「オレキシン」という物質です。
オレキシン受容体拮抗薬は、このオレキシンの受容体をブロックすることで、起きていようとする力を弱める作用があります。

BZ系や非BZ系が「脳にブレーキをかける薬」だとすれば、
こちらは「アクセルを踏むのをやめさせる薬」に近いというイメージです。

国内承認の経緯

  • スボレキサント(ベルソムラ):2014年承認(世界初のオレキシン受容体拮抗薬)

  • レンボレキサント(デエビゴ):2020年承認

  • ダリドレキサント(クービビック):2024年9月承認

  • ボルノレキサント(ボルズィ):2025年11月承認

依存性については、
BZ系・非BZ系と比べて有意に少ないと考えられています。
ダリドレキサントの日本人を対象とした第III相試験(Uchimura N. et al., Sleep Medicine, 2024)でも、
治療中止後の離脱症状や反跳性不眠は認められなかったと報告されています。
ただし、副作用がゼロというわけではないので、ご注意ください。

主な副作用・リスク

  • 翌朝への眠気の持ち越し

  • 悪夢、鮮明な夢(REM睡眠に影響するため)

  • 睡眠麻痺(金縛り)様の症状(頻度は低いが報告あり)

  • 薬物相互作用:CYP3A4を強く阻害する薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)との併用は禁忌(添付文書記載)

クービビックは半減期が比較的短いため(約8時間)、
翌日への持ち越しが少ない可能性が期待されています。

一方でベルソムラ(スボレキサント)は半減期が長め(約12時間)のため、翌朝の眠気に注意が必要なケースがあります。


メラトニン受容体刺激薬

ロゼレム(ラメルテオン)

ロゼレムは、これまでの薬とはまったく異なる立ち位置にあります

体内時計を調整するホルモン「メラトニン」の受容体(MT1、MT2)に作用することで、睡眠と覚醒のリズムを整える作用があります。
「すぐ強く眠らせる薬」ではなく、
眠り始めのタイミングを体内時計レベルで引き込む薬」です。

乱れた時計の針を正しい時刻に合わせ直すようなイメージに近いです。

依存性は低く、ベンゾジアゼピン系の薬が使いにくい高齢者や、依存リスクを特に避けたいケースで選択肢になりやすいです。

主な副作用・注意点

  • 眠気、めまい、倦怠感

  • 効果が実感されるまでに数週間かかることがある

  • フルボキサミン(SSRI系抗うつ薬)との併用禁忌:代謝が著しく阻害されるため(添付文書記載)

「飲んですぐ眠れるはず」と期待して「効かない」と感じる方は多いです。
ロゼレムは、即効型の睡眠薬ではなく、効果の現れ方が穏やかな分、副作用プロファイルも穏やかで、長く使いやすい薬と言えるかもしれません。


依存性について

睡眠薬の依存で特に注意が必要なのは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬です。

「BZ系」だけでなく、
マイスリー・アモバン・ルネスタのような「非BZ系」もここに含まれます。この点は、先ほども説明したことと重なる部分ですね。

長期使用によって起こりやすいこと:

  • 耐性(同じ量では効きにくくなる)

  • 精神的依存(薬がないと眠れないという不安)

  • 中断時の反跳性不眠(やめたら以前より眠れなくなった)

  • 離脱症状(不安、発汗、動悸など)

これらが起きると、自己判断で薬を急にやめることは危険です。
中止したい場合は、必ず医師と相談しながら段階的に減量する必要があります。


認知機能への影響

高齢者でBZ系・非BZ系を使う際に気をつけたいのは、
「認知症になるかどうか」という議論より、
使っている間の認知機能低下・転倒リスクの問題です。

日中の眠気、注意力の低下、健忘が重なれば、転倒、骨折、せん妄のリスクは確実に上がります。
高齢者施設での夜間転倒と骨折の背景に、長期の睡眠薬使用が関与するケースは臨床でも少なくないのです。

オレキシン受容体拮抗薬(特にレンボレキサント)は、
BZ系・非BZ系と比べて翌朝の認知機能への影響が少ないとする臨床データが蓄積されてきており、高齢者への選択肢として見直しが進んでいます。
(実際、国内の認知症病棟でレンボレキサントへの切り替えを推進した取り組みも複数報告されている)。
ただし、過信は禁物で、眠気やふらつきは起こりうることを念頭に入れておいてほしいです。


使う前に確認したいこと

薬を出すとき、私が患者さんに必ず確認していることがあります。

  • 何時に飲んでいる

  • 飲んだ後、すぐに横になっているかどうか

  • 翌朝に眠気が残っていないか

  • 夜間にトイレで立ち上がる際、ふらつきはないか

  • お酒と一緒に飲んでいないか(厳禁)

  • 自己判断で量を増やしていないか

  • 何年も続けていないか

お酒との併用は、どの睡眠薬でも避けるべきです。
鎮静作用が相加的に強まり、ふらつき・健忘・転倒のリスクが跳ね上がるからです。


まとめ

「睡眠薬」と一言でいっても、様々な種類があるのをご理解いただけたでしょうか。

大切なのは、「どの薬が新しいか」ではなく、
「自分の不眠のタイプに合っているか」
「年齢や併用薬と合っているか」
「出口のある使い方ができているか」だと思います。

睡眠は、暮らしにとって切り離すことができないことです。
だからこそ、寝れないこと、途中で起きてしまうことはとてもきつく、悩みの種になりますよね。
けれど、薬の性格を知ることで、その不安は少し和らぐと思います。

適切な睡眠のリズムを整えるために、
必要な場合は内服を検討してみるのも大事なことだと思います。

「眠れないことのつらさ」
「続けることの怖さ」
をどうか一人で抱え込まず、
医師や薬剤師に声をかけてほしいと思います。

貴方の大切な人生のために。
そして、貴方をことを大切に思う人のためにも。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


本記事は、公的機関・添付文書・査読済み論文をもとに作成しています。個々の薬の使用については、必ず担当医・薬剤師にご相談ください。

主な参考資料

  • 各薬剤の日本国内添付文書(PMDA添付文書情報、2024年版)

  • Uchimura N. et al., "Daridorexant in Japanese patients with insomnia disorder: A phase 3, randomized, double-blind, placebo-controlled study." Sleep Medicine 122, 27-34 (2024)

  • CareNet.com「ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は認知症リスクの増加と関連せず」(2024年7月) ※元論文:Alzheimer's & Dementia 掲載

  • J-STAGE「オレキシン受容体拮抗薬推進活動が睡眠薬・抗精神病薬の処方動向に与える影響」薬誌 145(7), 2025

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