高血圧を放置するとどうなる?症状がなくても怖い理由と治療の必要性を薬剤師が解説
薬局で高血圧の薬を受け取りに来る患者さんに、私はいつも同じようなことを聞いてしまいます。
「血圧はいくつでしたか?」「めまいやふらつきはないですか?」「飲み忘れはありませんか?」
毎回おなじ問いかけ。これはこれで大事なことではあるんですが、ある日ふと思ったんです。
「私自身、高血圧という病気のことをちゃんと患者さんに伝えられているんだろうか?」と。
そこで今回は、
高血圧ってそもそも何なのか、なぜ放置しておくと怖いのか、そして薬で治療することで何が変わるのかを、あらためて整理してみました。
「高血圧」って、何mmHgから?
まず基本のところから。
高血圧の診断基準は、診察室での測定で収縮期(上)140mmHg以上、または拡張期(下)90mmHg以上とされています。これは日本高血圧学会が定めた基準で、2024年や2025年になっても変わっていません。
ちなみに2024年ごろ「診断基準が変わった」という話がSNSで広がりましたが、あれは誤解です。変わったのは、協会けんぽ(健康保険組合)が未治療者への受診勧奨を送る基準の話で、高血圧の診断そのものではありません。日本高血圧学会も「混乱が広まっている」と注意喚起しています。
家で測る場合(家庭血圧)は、135/85mmHg以上が高血圧の目安です。朝晩の緊張がない状態で測れるので、より日常の血圧を反映しやすいとされています。
そして2025年に発表された最新ガイドライン(JSH 2025)では、治療目標が「診察室血圧 130/80mmHg未満、家庭血圧 125/75mmHg未満」に統一されました。以前は年齢や合併症によって目標が細かく分かれていたのですが、シンプルになりました。
なぜ治療が必要なのか——「痛くも痒くもない」から怖い
高血圧が「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれるのには、理由があります。
血圧が高くても、ほとんどの場合は症状がないんです。頭が痛い、めまいがするという人もいますが、それは高血圧が相当進んでいるサインであることが多く、普段はノーサイン。気づかないまま、血管はじわじわとダメージを受けていきます。
血管に高い圧力がかかり続けると、血管の壁が厚く硬くなっていきます。これが動脈硬化です。そして動脈硬化が進むと、ある日突然に脳や心臓で深刻なことが起きます。
脳出血・脳梗塞(脳卒中)
心筋梗塞・狭心症
心不全
腎臓の機能低下(腎不全、最悪の場合は透析)
眼底出血(視力低下)
収縮期血圧が10mmHg上昇するごとに、脳卒中のリスクは男性で約20%、女性で約15%高くなると言われています。
脳卒中は、一度なってしまうと後遺症が残りやすい病気です。運動障害、言語障害、認知機能の低下——自分の体が思い通りに動かなくなることのつらさは、想像するだけでも胸が痛くなります。
また、横浜市立大学などによる約8万人を対象とした最大9年間の追跡調査では、「少し高い血圧(収縮期 120〜129mmHg程度)」の段階からすでに脳・心血管疾患の発症リスクが約2倍に上昇することが確認されています(Hypertension Research, 2024年)。
「まだ140いってないから大丈夫」ではないんです。
薬で治療すると、何が変わるのか
「薬を飲み始めたら一生やめられない」とよく聞きます。確かに、本態性高血圧(原因が特定できない高血圧)の場合、生活習慣が改善されなければ長期的な服薬が必要になることが多いのは事実です。
でも、もう少し視点を変えてほしいんです。薬を飲むことで、何が守られるのかを。
降圧薬を使ったメタ解析(Lancet 2021年、約34万人規模)では、収縮期血圧が5mmHg低下するだけで、主要な心血管イベントが10%低下し、脳卒中は13%、心不全も13%低下することが示されています。
さらにSPRINT試験(NEJM 2021年)では、収縮期血圧の目標を140mmHg未満から120mmHg未満に厳格化すると、主要な心血管イベントや全死亡が有意に低下することが確認されました。ただしその一方で、低血圧や急性腎障害などの有害事象も増えるという側面があり、より厳しく下げれば必ずしも良いというわけではなく、個人の状態に合わせた管理が大切です。
要するに、降圧薬は血圧の数値を下げるためだけに飲むのではなく、脳卒中や心筋梗塞を防ぐために飲むのです。
薬を飲み続けるのがしんどいのは分かります。でも薬をやめることのリスクは、それとは比べものにならないことが多い。
生活習慣でも、血圧は変わる
ここが一番伝えたいところです。「薬を飲んでさえいれば、あとは関係ない」は違います。逆に「薬なんて飲みたくない、生活習慣で治す」にも、正しい方向性と限界を理解することが必要です。
生活習慣の改善で期待できる降圧効果には、ちゃんとエビデンスがあります。
減塩(食塩6g未満/日)
日本人の平均食塩摂取量は約10g。日本高血圧学会は1日6g未満を推奨しています。まずラーメンの汁を残すだけでも約3g減らせます。
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)
野菜・果物・低脂肪乳製品を増やし、脂身の多い肉類や甘い飲み物を減らす食事法です。アメリカのハーバード大学・ジョンズホプキンス大学による8週間の臨床試験では、DASH食を実践した人で収縮期血圧が平均11.4mmHg、拡張期血圧が5.5mmHg低下したと報告されています。この数値は、降圧薬1剤分の効果に近いものがあります。
(参照:Sacks FM, et al. N Engl J Med. 2001;344:3-10.)
有酸素運動
習慣的な有酸素運動により、高血圧患者の収縮期血圧を8.3mmHg、拡張期血圧を5.2mmHg低下させる効果があったとする報告があります。毎日30分の早歩きから始めるだけでも、続ければ変わります。
体重を減らす
減量1kgあたり収縮期血圧は0.5〜2mmHg程度低下するとされており、大規模研究では4.5kgの減量で有意な降圧効果が得られたと報告されています。
これらを組み合わせると、降圧薬を減らせる可能性が出てくることもあります。「生活習慣を整えたら薬の量が減った」という患者さんも、実際にいます。
通院・服薬が「めんどくさい」と思ったときに
「血圧なんて、症状ないのにわざわざ病院に行くのが面倒」という気持ちは、正直なところだと思います。忙しい中で毎月薬局に来ることも、負担に感じる人がいるのは当然です。
ただ一つだけ、覚えておいてほしいことがあります。
高血圧は、症状が出てからでは手遅れになることがある病気です。
脳卒中は前触れなく突然来ます。薬をやめてから数ヶ月後に何か起きても、「あのとき続けていれば」とは言えない。
だからこそ、「病気を治すために通う」ではなく、「今の健康を守るために通う」という視点に切り替えてみてほしいんです。
毎月薬を受け取るとき、血圧の記録を見ながら「数値が安定していますね」と言える。それは、あなたの生活習慣と薬が、きちんと働いている証拠なんです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考資料
日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」https://www.jpnsh.jp/guideline.html
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」一般向け解説冊子 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
厚生労働省 e-ヘルスネット「脳血管障害・脳卒中」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html
Sacks FM, et al. N Engl J Med. 2001;344:3-10.(DASH食の臨床試験)
Lewis CE, et al. N Engl J Med. 2021;384:1921-1930.(SPRINT試験最終報告)
Lancet 2021;397:1625–36(降圧薬メタ解析)
Hypertension Research 2024(横浜市立大学・J-ECOHスタディ)https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2024/20240411kuwahara.html
