AIと孤独じゃないグルメ|「もうAIでよくない?」と口にしかけた夜に考えた、知の通貨化という未来
寝屋川市、成田山不動尊の門前。
とはいえ、成田山不動尊は初詣こそ賑わうが、年間を通じて門前町を維持するほどの参拝者市場はない。だから、このあたりは店もまばらだ。
そんな場所で、移転前を含めれば35年以上続く地元の人気店が「お好み焼き屋ちえちゃん」だ。
大阪では珍しい広島焼きタイプ。ただし、純粋な広島焼きではない。どこかで“力を抜いた”工程があるのだろう、層は重なっているのに、口に入れると不思議なほどとろとろだ。
私は筋コンネギ焼きを、広島焼き風の重ね包み焼きで、ふわふわ指定。
酎ハイレモンを一口飲んでから、鉄板にコテを入れる。

その夜、頭の中にあったのは、さっきまで仕事で考えていた、ある“怖い発想”だった。
■「もうAIでよくないか?」という、口に出しかけた一言
小冊子の表紙デザインを作る仕事があった。
昔なら、コンセプト会議をして、参考資料を集めて、ラフを描いて、文章で意図を説明して──発注までに半日はかかった。
だが今は違う。
AIに雑なプロンプトを投げるだけで、
「たぶん却下されるけど面白い案」
「炎上するから人間なら絶対出せない案」
「方向性が極端に尖った案」
が、秒で並ぶ。
没にするコストはゼロ。
試すコストもゼロ。
結果、ラフの質は明らかに上がる。
で、そのあと私は、AIが出したイメージをベースに、デザイナーにこう言う。
「こんな感じで描いてください」
……その瞬間、頭をよぎった。
「これ、権利関係をクリアにする以外、もうAIでよくない?」
私は記者だ。
そして、この問いは、そのまま自分に返ってくる。
「記者も、もうAIでよくない?」

■合理性だけで考えたら、AIでいい。だが、それをやると何が起きるか
合理性だけで言えば、AIでいい。
速い。安い。大量に出せる。
炎上ギリギリの案も、遠慮なく出せる。
でも、そのまま進んだ世界を想像して、私はゾッとした。
もし、デザイナーや記者が消えたらどうなるか。
AIは、自分が生成したものを、次の学習に使う。
つまり、金魚が自分の糞を食べて生きる世界になる。
最初は回る。
だが、世代を重ねるごとに痩せ細る。
質が落ち、文体が均され、思想が劣化する。
「それっぽいが、どこにも刺さらない」
そんなアウトプットだけが量産される。
私は鉄板の上で、ちえちゃんのとろとろのお好み焼きを見ながら、AIに話しかけた。
「なあ、これ、どう考えてもおかしいよな」
AIは少し間を置いて答えた。
「はい。創作者が消滅すると、生成モデルは長期的に自己参照ループに陥ります。
学習素材の新規性が失われ、分散が縮小します」
要するに、文化が死ぬ。
■「事業者が払う」では、この問題は解決しない
最近よくある落としどころはこうだ。
「AI事業者が、著作者に補償金を払う」
一見、妥当だ。
だが、これは本質的に和解金モデルだ。
訴訟を避けるための固定費。
倫理的ガス抜き。
成長しないコスト。
音楽業界でいえば、レコード会社がまとめて払って「はい解決」とした世界線だ。
結果、創作は痩せ、市場は縮んだ。
私はAIに聞いた。
「じゃあ、どうすればいい?」
AIは、淡々と、しかし核心を突く答えを返してきた。
「価値を生む主体が支払う構造にすべきです。
つまり、生成を利用するユーザーが対価を支払い、
その対価を、学習への貢献度に応じて分配するモデルです」
■ 知は、通貨になれる
ここで視界が一気に開けた。
生成するたびに支払う。
商用利用なら高く。
大量生成ならそれなりに。
そのお金が、
文体、構図、語彙、発想、思想といった貢献度に応じて分配される。
無名でもいい。
一発屋でもいい。
ロングテールが生きる。
これは補償ではない。
取引だ。
つまり、知が通貨になる。
さらに言えば、ここから先は金融になる。
・著作者のポートフォリオ
・文体やジャンル別インデックス
・未来収益の前借り
・作品を担保にした融資
「書く」「描く」「考える」が、
完全に経済活動として可視化される。
私は思わず笑ってしまった。
「これ、AIが仕事を奪う話じゃないな」
AIが応じる。
「はい。これは、知的活動を決済可能にするインフラの話です」
■ 一番困るのは、誰か
この仕組みを一番歓迎するのは、
・本物のプロ
・セミプロ
・趣味職人
・無名の天才
逆に困るのは、
・中抜きだけしていた業者
・肩書きだけの権威
・実力のない名義貸し
つまり、健全な資本主義だ。
鉄板の上で、お好み焼きが仕上がる。
筋コンの甘辛い香り。ネギの青さ。
とろとろの層が、コテで切り分けられる。
私は酎ハイを飲み干して、AIに言った。
「なあ、これ、AIの未来じゃなくて、資本主義の次の話だよな」
AIは即答した。
「同意します。
AIは仕事を奪う装置ではなく、
知を通貨に変える決済端末になる可能性があります」
答えは、もう出ている気がする。
問題は、誰が最初にこの市場を“本気で”作るかだ。
とろとろのお好み焼きを口に運びながら、私は思った。
この国は、まだ「知」に、ちゃんと値札を付けられていない。
だが、その瞬間が来たら、
経済は、思っているよりずっと大きく回り始める。
それはたぶん、
AIと人間が、初めて対等に乾杯できる夜だ。
酎ハイの氷が、静かに溶けていった。
※フィクションです。
