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【シリーズMemories:第6夜】『約束のウイスキーは、ソーダ割りで』

小説企画案
タイトル
『約束のウイスキーは、ソーダ割りで』
サブタイトル
~三十二歳で人生(ゴールテープ)をすっぽかした友へ~


掌編小説:『約束のウイスキーは、ソーダ割りで』


「そこにたどり着く」、か。陳腐な言い回しだが、今朝ほどその言葉が腑に落ちたことはない。

電話の着信表示は「元妻」。ろくでもない知らせの専門家だ。そして今朝も期待を裏切らなかった。俺たちの共通の友人であり、娘のゴッドファーザーの一人でもある男が死んだ、と。三十二歳。俺と同じように、どうしようもないロマンチストで、作家くずれで、金にだらしなくて、そして今は亡き人。そこだけが、俺とは違う。

奴は登山家で詩人だった。いや、自称、が正しいか。とはいえ、その肉体は本物だった。無駄口を叩きながら、俺が息を切らす坂道を鼻歌交じりに登っていくような男だ。それが、心臓発作。病院に着く前に「たどり着いた」らしい。人生のゴールテープを切るには、あまりにも早すぎる。しかも、コースを盛大に間違えてやがる。

奴は結局、最初の小説を出版できなかった。一本の脚本もカネにできなかった。有名作家になる夢も叶わなかった。だが、悔しいほどに奴の言葉は純粋で、その文章はそこらの凡百の作家よりよほど魂を揺さぶる力があった。だからこそ、俺は嫉妬し、そして誰よりその才能を信じていた。

奴は優しい心の持ち主だった。その優しさゆえに、世渡りが絶望的に下手だったが。酒が好きで、哲学的な話を始めると朝まで帰さない悪癖があった。博識だが、その知識のほとんどは明日のパンの足しにもならないことばかり。自分のことを深刻に考えすぎるきらいがあるくせに、肝心なところでは驚くほど軽率。繊細なくせに、無神経。要するに、最高に面倒くさい、愛すべき友人だった。

八年ほど前、奴は「迷える魂」を卒業した。一人の素晴らしい女性が、GPSも持たずに人生の荒野を彷徨っていた奴を捕獲し、その首に鈴をつけてくれたのだ。彼女のおかげで、奴の人生はようやくまともな軌道に乗り始めた。数年前には、俺たちが這いつくばっていた都会をあっさりと捨て、山の麓で静かな生活を始めた。周囲には山頂、丘、谷。小さな川。のんびりとした小川。俺に言わせれば、熊くらいしか話し相手のいないド田舎だ。

最後に奴と会ったのは、2023年の春だった。安物のウイスキーをロックで呷り、湿気た葉巻をふかしながら、古き良き時代――つまり、互いに才能があると勘違いし、根拠のない自信だけで生きていた貧乏な時代――を肴に語り明かした。

「なあ、覚えてるか?初めて会った時、お前、俺の小説読んで『天才かと思った』って言ったよな」

「ああ、言ったな。そのあとすぐ『ただのバカだった』って気づいたけどな」

「ひでえな。でもお前、その時、俺に言ったんだ。『俺たちはどっちが先にたどり着くかな』って」

「……ああ」

あの時、俺たちが話していた「たどり着く」場所は、文壇の頂点だったはずだ。まさか、こんなにあっけない終着駅のことだったとは。

あの夜の奴は、陽気で、時折、遠い目をした。だが、その全身が「人生の絶頂期」を謳歌していると叫んでいた。瞳には野生の火が宿り、冗談を言っては自分で腹を抱えて笑っていた。

「おい、約束しろよ」と奴は言った。「俺たちがヨボヨボのジジイになっても、こうして一緒に飲もうぜ。お互いのくだらない小説の悪口を言い合って、どっちの孫が可愛いか自慢し合うんだ。最高の人生だろ?」

俺たちは固く、そして酔っ払った勢いで、そのどうでもいい約束を交わした。妻や子供、孫たちに呆れられながら、縁側で葉巻をくゆらせる二人の老作家。悪くない未来図だった。

加齢による最大の恩恵は、そもそも年を取れることだ。なんて陳腐な真理だろう。だが、三十二歳でコースアウトした奴を思うと、その言葉がずしりと重い。年を取る。それは、数えきれないほどの小さなサヨナラと、時折訪れる耐えがたい別れを乗り越え、それでも道の終点まで歩き続ける権利を得るということだ。

俺たちはこれからも、道の脇に友を埋葬し続ける。愛しい人を失い、そのたびに心の一部が死んでいく。それでも、ふとした瞬間に彼らを思い出し、胸を締め付けられながら、歩き続けなければならない。

なぜなら、俺たちは生き残ってしまった幸運なろくでなしだからだ。

奴はいつもそうだ。大事な約束を平気ですっぽかす。だが、人生そのものをすっぽかすなんて、最高のジョークだぜ。笑えもしないがな。お前がたどり着けなかった場所で書くべきだった物語。お前が見るはずだった風景。お前が聞くはずだった孫の産声。それら全部を、俺が背負ってやるなんておこがましいことは言わない。

ただ、俺は俺の道を歩く。時々お前のことを思い出して、悪態をつきながら。お前が書けなかった物語の代わりに、俺は俺の物語を書く。それが、残された人間の特権であり、呪いでもあるのだろう。

今夜は一人で乾杯だ。お前の好きだった、あの安物のウイスキーで。

なあ、そっちに着いたら、先に一杯やっててくれよ。最高の酒を用意しとけ。俺が「たどり着く」まで、まだ当分かかるだろうからな。その時は、約束通り、くだらない話をしよう。今度は、ソーダ割りで勘弁してやる。

俺の目は乾いている。だが、心は静かに、お前のための言葉を紡いでいる。

幸運を数えよう。今日、このろくでもない世界で、まだ息をしている幸運を。






表紙絵の詳細な内容と構成案


コンセプト: 「不在の存在感」と「静かなる献杯」 構図: 前景: 古びた木製のカウンターテーブル。手前に、ロックアイスが少し溶けかけたウイスキーグラスが一つ置かれている。グラスの向こう側、少しぼやけて、もう一つ空のグラスが逆さに伏せられている(故人のための席、あるいはもう飲むことのないグラスの表現)。その横には、火が消えたばかりの葉巻が一本、灰皿に置かれ、細く白い煙が立ち上っている。 中景: カウンターの向こうは薄暗いバーの店内。ボトル棚のウイスキーボトルが、鈍い光を反射している。人物は描かない。 後景: 店の小さな窓。窓の外は、夜明け前の深い青色。遠くの山の稜線がうっすらと白み始めている。この「夜明けの光」が、悲しみの中にある静かな希望を象徴する。 色彩: 全体的に彩度を抑えたダークトーン。セピアやブルーブラックを基調とし、ウイスキーの琥珀色と、窓から差し込む夜明けの光だけが色を持つ。重厚で、フィルム・ノワールのような雰囲気を出す。 タッチ: オイルペインティングのような、少しざらついた質感のあるイラスト。光と影のコントラストを強く意識し、静かで文学的な雰囲気を醸し出す。 タイトル配置: 画面下部、カウンターテーブルの木目に溶け込むように、控えめなセリフ体(明朝体)で白抜き文字でタイトルとサブタイトルを配置する。


ハッシュタグ案(10個)


  1. #掌編小説

  2. #約束のウイスキー

  3. #友よ安らかに

  4. #作家の独白

  5. #人生の終着駅

  6. #喪失と再生

  7. #ハードボイルド未満

  8. #生きることの意味

  9. #三十二歳の地図

  10. #幸運なろくでなし



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