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”瀬尾の休日コラム”他人の讃辞で首を括るな、己の泥水を啜れ ノーベル文学賞作家ヨン・フォッセが暴く、創作と自己欺瞞の真実

世間の雑音を遮断し、未明の静寂の中で己の内なる声だけを殴り書け。



他人の讃辞で首を括るな、己の泥水を啜れ



ノーベル文学賞作家ヨン・フォッセが暴く、創作と自己欺瞞の真実




早朝5時。葛飾の街がまだ重い泥のような闇に沈んでいる刻限、俺は机に向かう。

世間が甘い夢をむさぼっているか、あるいはSNSの浅しい承認欲求の海で溺れている時間に、ペンを握る。まだ覚醒しきっていない脳みそ、夢と現実の境界線が不鮮明なその瞬間こそが、言葉の皮を剥ぎ取る唯一の好機だからだ。

2023年にノーベル文学賞をかっさらったノルウェーの劇作家、ヨン・フォッセという男がいる。「言い表せないものに声を与える」なんて高尚な選考理由がついているが、この男の執筆スタイルを聞いて膝を打った。

彼もまた、夜が明ける前の漆黒の朝5時からペンを走らせるという。夢の残り香が消えないうちに、意識の深層へとダイブする。「ライティングに関する最高のアドバイスは何か?」と問われたフォッセの答えは、驚くほどシンプルで、それ故にどこまでも毒を含んでいた。

「他人の意見に耳を傾けるな。良い評価であれ、悪い評価であれ、だ」

現代の自称・創作者どもはどうだ?

投稿ボタンを押した瞬間から、いいねの数に一喜一憂し、コメント欄の批判に顔を蒼白にし、見知らぬ他人の顔色を窺いながら文章をこねくり回している。そんなものは創作ではなく、ただの「市場への媚び売り」であり「精神的な自傷行為」だ。

フォッセだって、23歳でデビュー作『Red, Black』を出した時はクソミソに叩かれた。ボロカスに言われた批評を真に受けていたら、彼はそこで筆を折っていただろう。だが彼は、世間の耳目をゴミ箱に放り投げた。自分が持っている泥臭いもの、自分の中にしか存在しない不格好なビジョンだけに固執し、内なる声の残響だけを追い続けたのだ。

そして面白いのは、彼が「賞賛」すらも毒だと断じている点だ。

ノーベル賞まで獲り、世界中から持ち上げられている今でも、彼は他人の褒め言葉を脳内に一滴も入れない。良い評価に気を良くして「みんなが喜ぶ物語」を書き始めた瞬間、作家の魂は死に、ただの製紙工場の作業員へと成り下がるからだ。

他人の声に脅かされず、自分のできること、書かねばならぬことにのみ集中する。フォッセが40年間、一度も「ライターズ・ブロック(スランプ)」に陥らなかった秘訣がここにある。

スランプなんてものは、才能の枯渇じゃない。「他人からどう見られるか」という下心と自尊心が、ペンの進みを止めているだけなのだ。

さらに、このノーベル賞作家もまた、万年筆と上質なノートを愛用しているという。インクの色を切り替えながら、手書きで紙に文字を刻みつける。デジタル画面の向こうにいる見えない群衆を意識する暇があったら、ペン先が紙を噛む感触に没頭しろということだ。

他人の讃辞は、甘い毒薬だ。批判は、ただのノイズだ。

書くべきものは、流行りのテーマでも、誰かが望む感動ポルノでもない。自分自身の底に溜まった、言葉にならない沈殿物だけだ。

夜明け前の静寂の中、紙の上にインクを走らせる。他人の声をすべて叩き割り、己の深淵から湧き出る声だけに耳を澄ませろ。それができないなら、今すぐペンを捨ててキーボードを閉じ、誰かの投稿にいいねでも押して一生を終えればいい。

〈了〉



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