奇跡の日。
朝。ホームルームが始まる前の教室はいつもの様にやかましい。
その中でひとり。
秀才『黒駒 鹿之助』は、参考書と向かい合う。
度の強い眼鏡が似合う黒駒は、学校生活1度も笑ったことがない。
『おーい、みんな静かにしろー!』
教室の引き戸を開けて、先生が入ってくる。
ひとりではなくふたりで入ってきた。
見知らぬ制服の女子。
『転校生が今日からこのクラスに入るからなー!自己紹介するからちゃんと聞くように!』
『○○から来ました……【紅葉鳥あられ 】です。変わった名前ですけど……よろしく……』
物静かで頭の良さそうな彼女の声はどんどん小さくなって最後は、ほとんど聞こえなくなっていた。
チョークを持って黒板に文字を書き始める先生。
もちろん彼女の名前を紹介するためだ。
【紅葉鳥あられ】
何の気なしに顔を上げて黒板の文字を見る黒駒。
授業でノートをとる習性が完璧な黒駒の癖か。
名前を見て熟考……。
『プッ!!!』
突然吹き出す黒駒にクラス全員が驚きの声をあげた!
ろくに喋りもしない黒駒が……笑った!
途端に紅葉鳥が顔を赤くする。
『あんた!今、私の名前見て笑ったわよね!!』
黒駒を指差し大声を上げる紅葉鳥。
自己紹介の時とは雲泥の差だ。
『あ、いや……つい……紅葉鳥とあられの組み合わせが……』
黒駒を睨みつけて紅葉鳥が被せるように言う。
『鹿せんべいっていいたいんでしょ!』
紅葉鳥=鹿の異名。
あられ=煎餅の異名。
『プッ!紅葉鳥は鹿の異名であられでしょ。見事な組み合わせだと思って……』
それを遮るようにクラスの男子が言う。
『黒駒っ!お前だって鹿之助って名前じゃねぇかよ!』
笑いが起こる教室内。すると今度は……。
『プッ!!』
紅葉鳥が吹いた。
『あんただって馬鹿之助じゃない!!』
黒駒=馬。
クラスのみんなはピンと来てない様子だが、黒駒が墓穴を掘る。
『うるさいっ!!黒駒が馬だなんて誰も気づいてなかったのに!!余計な事言うな!!』
ネタが割れた教室内は大騒ぎだ。
『うるさい!バカの助!』
『その呼び方をするな!鹿せんべい!』
ふたりの間に先生が入ってもなかなか止まらず、喧嘩でホームルームが終わった。
『黒駒 鹿之助』
学生生活で初めて笑って喧嘩をした奇跡の日。
『紅葉鳥あられ』と長い付き合いになるのは、また別の話ーー。
[完]
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