薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集
◆内容紹介&著者・訳者紹介
・内容紹介
官能的な寓話「薔薇とハナムグリ」、眠り続けるモグラの怪物の夢に操られる島民の混乱を描く「夢に生きる島」。ほかに「部屋に生えた木」「ワニ」「疫病」「蛸の言い分」など、シュールで風刺のきいた世界が堪能できる20世紀を代表する作家モラヴィアの傑作短篇15作。「読まねば恥辱」級の面白さ!
・著者紹介
アルベルト・モラヴィア Alberto Moravia
[ 1907 - 1990 ] イタリアの作家。ローマ生まれ。9歳で患った脊椎カリエスで自宅とサナトリウムで長い療養生活を送る。療養所を出て執筆を始めた処女作『無関心な人びと』(1929刊)が大きな話題となり、以後、多くの長短篇小説のほか、評論、戯曲、旅行記など多岐にわたるジャンルで精力的に執筆活動を行った。またイタリア共産党から欧州議会に立候補して当選するなど、積極的に社会参加を行った。主な著書に長篇『無関心な人びと』『軽蔑』『倦怠』がある。
・訳者紹介
関口英子 Sekiguchi Eiko
埼玉県生まれ。旧大阪外国語大学イタリア語学科卒業。翻訳家。児童書から映画字幕までイタリア語の翻訳を幅広く手掛ける。主な訳書に『マルコとミルコの悪魔なんかこわくない!』『猫とともに去りぬ』(ジャンニ・ロダーリ)、『神を見た犬』(ブッツァーティ)、『天使の蝶』(プリーモ・レーヴィ)、『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』(ロダーリ)、『月を見つけたチャウラ ピランデッロ短篇集』(ピランデッロ)、『霧に消えた約束』(ジュゼッペ・ペデリアーリ)、『きっと天使だよ』(ミーノ・ミラーニ)、『イタリアの外国人労働者』(フォルトゥナート、メスナーニ)、『最後に鴉がやってくる』 (イタロ・カルヴィーノ)、『帰れない山』(パオロ・コニェッティ)など多数。『月を見つけたチャウラ』 (ピランデッ口)で第1回須賀敦子翻訳賞受賞。
◆収録作品
部屋に生えた木/怠け者の夢/薔薇とハナムグリ/パパーロ/清麗閣/夢に生きる島/ワニ/疫病/いまわのきわ/ショーウィンドウのなかの幸せ/二つの宝/蛸の言い分/春物ラインナップ/月の"特派員"による初の地球からのリポート/記念碑
◆特に好みだった作品
・薔薇とハナムグリ
まずハナムグリって何?ってとこからスタート。
調べたら黄金虫みたいな虫らしい。
黄金虫よりちょっと平べったい。
漢字で書くと花潜り。なんだか雅。
作中では薔薇を探してやってきた母娘のハナムグリが登場。
わたしたちハナムグリは薔薇の花を食べるために生まれてきたの。逆に言うと、ハナムグリが栄養を摂れるように、神様は薔薇の花をお造りになられたんだわ。さもなければ、薔薇の花なんて、いったいなんの役に立つか見当もつかないものね。
ハナムグリはどうやら誇り高く高貴な種族(少なくとも母むぐりはそう思ってるみたい)で、その美しさは薔薇を食すことによって支えられている、らしい。
でも娘ハナムグリは自分が他のハナムグリとは違った性癖を持っていることを自覚していた。
多くのハナムグリが綺麗に咲いた薔薇に惹きつけられるのに対し、娘は薔薇には一切の魅力を感じず、硬く筋張った葉を持つキャベツに心惹かれるのだった…。
幻想譚かと思って読んでたら途中で急に"普通"、"多数派"を良しとする風潮への風刺がぶっこまれてびびる(そういえばタイトルに思いっきり風刺って入ってた)。
ハナムグリが陶酔してるところの文章がめちゃ官能的だった。
↓このへんとか。
ミルクをたっぷり含んで重たくなった大きな乳房を思わせる、幅広で肉厚の、甘美な肌だった。
気高く無防備な白い肉のあいだに、頭を低く垂れて突進していき、嚙みつき、引き裂き、傷つけることによって、我こそが最初の所有者であることを誇示したいという衝動に駆られる。
終わり方も好みだった。
や〜面白かった!
・夢に生きる島
その島は、人とモグラの交接の末に生まれた怪物クルウーウルルルの支配下にあった(モグラと人の交接ってなんか最近読んだ気がする。男爵と魚だったかな…?)。
島民はこの怪物に翻弄され続けていた。というのも、この怪物の見た夢は現実のものとなるからである。
これもかなり風刺が効いてた。
島民は信心深く、怪物の夢が厄災であると頭では理解していても誰も政権転覆を考えない。なぜならクルウーウルルルは王の血を引いているから。
結局島民がとった手段は怪物が悪夢を見ないように心地よい空間を整えること。
そして怪物が老いて衰えて夢が現実に及ぼす影響力が少なくなることを祈るのみ。
うわ〜今の現実ともリンクする部分があるよね。
色々考えさせられた。
・疫病
謎の奇病が大流行。それに感染した人はみんな腐った肉の匂いを発し始めるという…。
進んだ医療技術を持つその国でも治療法は確立されておらず、その病の治療方針をめぐってさまざまな派閥が生まれていた。
お、面白い…!
これも風刺。
ずっとあ〜、、、ってなりながら読んでた
「嗅覚の不一致による離婚」。
字面だけ見ると滑稽に見えるけど、家族や親しい人が突然思い込みが激しくなって激昂しやすくなって、理性的な話し合いができなくなるのってかなり怖い。
実際コロナが流行った時は反ワクチン、陰謀論に傾倒した人が家族と不仲になった、ってニュースでよくやってたもんね。
モラヴィアさん、人間のこと本当によく分かってるんだなぁ…。
◆感想
なんとなく手に取った一冊だったけどめちゃくちゃ面白かった。
モラヴィアさん、人間を描くのうますぎる。
翻訳もとても好き。海外文学って訳者さんによって合う合わないがあったりするけど今回はずんずん読めた。
どの話も描写が緻密で、ファンタジーな内容なのにめちゃくちゃリアル。
解説に"見慣れた日常の中にシュールな要素を潜ませて、そのどちらも写実的に描くことで、私たちが当たり前のこととして見過ごしている光景の中にじつは計り知れない矛盾や恐ろしさが含まれていることに気付かせてくれる"、みたいなこと書いてあったんだけど、まさにそれ!って感じだった。
最初は現実にはありえないストーリー(架空の世界の疫病とか、架空の島の支配者の巨人とか)だからファンタジー小説として読んでるんだけど、見てきたの?ってくらい詳細な情景描写を眺めてるうちに、だんだん現実とリンクし出すんだよね。あれ、なんか身に覚えが…ってなる。
特に「疫病」はコロナ禍の後に読むと凄すぎ。
未知の病気にかかった登場人物の行動が筋道立ってて違和感がない。見てきたとしか思えない。
あと解説の"寓話のなかに盛られた猛毒を偽装するために何よりもリアルな描写が求められたに違いない"。これもその通りすぎる。
リアルな部分も非現実的な部分もどっちもびっくりするくらい写実的に書かれてるから風刺が風景に溶け込んでるというか、馴染んでる。
その毒は読んでるうちにだんだん体に回ってくる。遅効性。
どのお話もかなり好きだった。
幻想的な雰囲気の根底に巣食う現実…みたいなのが好みなのかも。
読後の「面白い!」の方向性としては、プリーモ・レーヴィの天使の蝶読んだときの似てるような気がする。
…と思ってたら!
最後に作者と訳者さんの紹介を引用しようと思って光文社のサイト見てたらなんと、訳者の関口さん、天使の蝶の訳者さんだった!びっくり。
今回はここまで!
