つまり課
「つまりをお持ちですか」
女が言った。
私は鞄を探した。
財布。
鍵。
眼鏡。
どれもあった。
つまりだけがなかった。
「失くされましたか」
「分かりません」
「分からない方は多いです」
女は頷いた。
机の引き出しから、
細い管を一本取り出した。
「こちらへ」
私は口を開けた。
女は管を喉の奥まで入れる。
苦しくはなかった。
何かが懐かしそうに
こちらを見ていた。
女はゆっくり管を引き抜く。
透明だった。
何も入っていない。
「ありませんね」
「つまりが」
「いいえ」
女は首を振った。
「原因が」
私は黙る。
女は紙を一枚めくった。
「最近
『つまり』を使われましたか」
「何度か」
「そのたび
原因は提出していただいております」
「覚えがありません」
「皆さん
覚えておられません」
私は壁を見る。
額が並んでいる。
賞状ではない。
どれも原因だけが飾られていた。
割れた茶碗。
読まれなかった手紙。
左だけの靴。
止まった腕時計。
どの額も空だった。
「中身は」
「つまりになりました」
女は静かに言う。
「原因は保存できません」
「どういうことですか」
「人が『つまり』と言った瞬間、
途中は必要なくなるんです」
私は喉へ手を当てた。
何か一つ、
抜かれていた。
「返してもらえますか」
「もう無理です」
女は受付簿を閉じた。
「原因は一度つまりになると、
二度と途中へ戻れません」
そのとき、
廊下を老人が歩いていく。
胸の札には、
原因
と書かれていた。
女は立ち上がった。
「お迎えです」
老人は私を見なかった。
まっすぐ奥の部屋へ入る。
扉が閉まる。
中から、
誰かが言った。
「つまり」
女は受付簿へ一本線を引いた。
「次の方」
