愛のおこぼれ
「まぁでも…優しい子なんで、よろしくね。」
結婚の挨拶をしに夫の実家へ初めて行った日、義父から言われたセリフが忘れられない。
照れる事なくまっすぐに、他人と本人の前で『優しい子』と言い切る義父に、少し驚いた。
仏のように穏やかな雰囲気で、リビングにある座椅子にちょこんと座る義父。その座椅子の後ろに置かれたソファでは、大阪生まれ大阪育ちでゴリゴリのお笑い好きである義母が、1つもボケを見逃すまいと真剣な顔でお笑い番組を観ている。
今となっては1mmも想像できないが、夫いわく、昔の義父はそれはそれは厳しかったそうだ。
『優しい子』だと言い切ったのは、義父の厳しく育ててきたという自負だったのか、その先にある息子への信頼から出た言葉だったのか。
いずれにせよ、その言葉を聞いて私は、あぁ夫は愛されているんだなぁと思ったのを覚えている。
*
「お酒もっと飲むやろ?」
「まだご飯足りへんやろ?」
酒飲みで大食いだということが早々にバレた私は、毎度この質問を義両親から受ける。答えはもちろん「はい」しかない。
こんなに良くしてもらえるのは、私ができた嫁だから…では断じてない。私が夫の嫁だからだ。
言ってみりゃこの優しさは、愛のおこぼれ。
そして私は、毎回このおこぼれを有り難く ひと粒残さず頂戴している。
義実家では、冬は鍋、夏はホットプレートが大活躍する。義母は「皆で食べられるし、楽やからねぇ」と言いながら、決して楽ではなかったであろう大量の買い物をして用意してくれた豪華な食材たちを、豪快に調理していく。それを皆でつついて頂く。
義両親はこちらが気を遣わない程度にかけてくれる気遣いが絶妙で、時々1周回ってもの凄く気を遣われているのでは?とも思う。
そして、私はこの状況に胡座をかけるだけかく。立ってお手伝いするどころか、義実家のダイニングテーブルのいつもの席に座って、ずっと食べるか飲んでいる。我ながら、とんでもない嫁だなぁと思う。
もうすぐ年末年始、帰省シーズンがやってくる。
帰省時にはまたきっと、いつもは冷蔵室に夫婦で飲むビール缶のみが常備しているだけのガランとした冷蔵庫に、夫と息子達の好きな物が、愛と一緒にパンパンに詰まっている事だろう。
雑食の嫁は、また愛のおこぼれを頂戴しに、愛する家族と共に義実家へとウキウキしながら向かう。
