大人の涙
うちの夫はドラマが好きだ。特に恋愛ドラマはちゃんとドキドキして見るタイプで、キスシーンや主人公が結ばれるシーンはテレビに向かって「わぁ〜」とか「くっついた〜」とか言いながら、いつも騒がしく見ている。そして、もれなく夫はハマったドラマの主題歌にもセットでハマる。
特に「100万回 言えばよかった」(2023年:井上真央さん主演)というドラマにハマった時は、主題歌が夫の好きなマカロニえんぴつの曲だった事もあり、ドラマが終了した後も、しばらくの間ずっと我が家のテレビからYouTubeの「リンジュー・ラブ」のMVがヘビロテで流ていた。
「♫さいごの夜にぃ〜なりそっなぁ〜気がして〜」
気づくと長男が耳コピで、意味を理解せぬまま切ない歌詞を歌えるようになっていた。自分の推し曲を長男も気に入り嬉しくなった夫は、「ヤフオクでアルバム買っちゃった♡」と、スマホを片手に隣でウキウキしながら落札していた。
夫「これで長男とドライブしながら聴ける♫」
私「いくらで落札したの?」
夫「三千円」
私「中古で?ちょっと高いねぇ」
夫「...たしかに。状態がいいんかな?」
私「今はなんでも高いんだねぇ」
私も夫もCDを買うことなど久しくなく、今のアルバム相場がどれくらいなのか分かっていなかった。よって、「なんか高い気がするけど、こんなもんか」くらいで話は終わってしまった。
後日―――。
夫が購入したアルバムが自宅に届いた。
(ん?!なんか...デカいな...??)
私の違和感は的中した。届いたアルバムはCDアルバムではなく、レコード盤アルバムだった。
我が家にレコードプレーヤーはない。そしてもちろん車にレコードプレーヤー機能があるはずもなく、当初の夫の “ リンジュー・ラブを聴きながら息子とドライブ計画 ” も、真っ白な白紙に戻った。
夫は届いたレコードを握りしめ、私が DIY で適当に作ったリビングの なんちゃって神棚をしばらく見つめ、無言のままレコードをそっとそこに飾った。アルバムタイトルは「大人の涙」。ジャケ写には涙を流した女性のイラストが描かれている。
夫「やってもうた...これがホントの大人の涙や」
私が横目でチラリと見ると、なんちゃって神棚の前で呆然と立ち尽くし、レコードを見上げる寂しい夫の背中が確認できた。
さらに後日―――。
夫が購入したアルバムが自宅に届いた。(2回目)
程よいサイズだ。次はCDの方のアルバムだった。
なんやかんやあったが、無事に車内でCDアルバムの方の「大人の涙」より、夫と長男のお気に入りの曲「リンジュー・ラブ」を流し、ドライブする事ができた。このアルバムは他にも良い曲が沢山入っているので、せっかくだから他も聴こうとそのまま次の曲を流した途端、長男がすかさず「♫さいごの夜にぃ〜(リンジュー・ラブの歌い出し)が、いい!」と言ってきた。
私 「他にもいい曲あるよ?」
長男「♫さいごの夜にぃ〜がいい!」
夫 「アルバムやで?他にも曲あるで?」
長男「♫さいごの夜にぃ〜がいい!」
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長男 「♫さいごの夜にぃ〜がいいよぉぉおお!」
私と夫 「もう分かったよ!!」
結局それから今日まで長男(5歳)が他の曲を聴きたがる事はなく、「♫さいごの夜にぃ〜かけて」と言われたら最後、一曲永遠にリピートという地獄のコースが出来上がってしまった。もう正直「リンジュー・ラブ」は聴き飽きた。「ヤングアダルト」とか他にもいい曲あるし、シングルじゃなくてアルバムとして聴きたい。買った夫も飽きているし、次男(1歳)もこの曲で良く寝るようになったので多分飽きている。長男だけが毎回フレッシュな反応で歌いながら、永遠にノッている。
ちなみに、夫がヤフオクで三千円で買ったレコードアルバムは、半額で売れたそうだ。夫は利益の出せない転売ヤーになってしまったが、嬉しそうに私に報告してくれた。
1,500円という中古CDアルバムに絶妙に近くなった値段の中古レコードアルバムが、新たなる犠牲者(兼)未来の転バイヤーを生んだのでは?と、私はちょっと心配になった。
またどこかで「大人の涙」が流れていないことを、心から願っている。

#賑やかし帯 (いつきさん、いつもありがとうございます)
