コロナ後遺症の人(PS9の時の私)の「歯磨き」は健康な人の「全力疾走」と同じでした――健康な人との運動強度の決定的なズレを、理学療法士が数字で証明する
皆さんお疲れ様です。読んでいただきありがとうございます(^^)
前回までの記事では、私が実際に使っている「バイタルデータの記録・グラフ化、分析報告書の出し方」についてお伝えしてきました。
今回は、なぜ私がそこまで徹底して「数字」にこだわったのか。理学療法士としての視点と、寝たきり(PS9)だった当時の私の体験から、その切実な理由をお話しします。
「そんな、寝るほど苦しいの?」
「たいしたことしてないのに、大げさじゃない?」
コロナ後遺症やME/CFS(慢性疲労症候群)を抱える方々が、何度となくぶつけられてきた無理解な言葉です。見た目は普通に座っているように見えても、体の中では大変なことが起きています。
理学療法士である私が、その正体を「METs(メッツ)」という数字を使って解説します。
1. そもそも「METs(メッツ)」ってなに?
METsとは、「横になって静かにしている時(安静時)」を「1.0」としたとき、その動きが何倍のエネルギーを使うかを示す世界共通の物差しです。

METs活動の内容(健康な人の感覚)1.0横になって静かにする(すべての基準)2.0歯磨き、洗顔、座って着替え3.0料理、洗濯、ゆっくり歩く5.0かなり速く歩く、子どもの世話8.0階段を上る9.0重い荷物を持って階段を上る、全力ランニング
2. リハビリ現場でのMETsの使われ方
私たち理学療法士は、リハビリテーションを実施する際、その人にとって「ちょうど良い強さ」の運動を設定するための判断基準の一つとして、このMETsを参考にすることがあります。
リハビリとは単に体を動かすことではなく、その方の体が安全に耐えられる負荷の境界線を正確に見極める作業でもあります。
3. 健康な人との間に生じている「運動強度の決定的なズレ」
健康な人にとって、座ることはわずか 1.3 METs の活動です。
しかし、後遺症を抱えた体では、この「運動強度の物差し」に決定的なズレが生じています。
ただ起き上がって座るだけで、脈拍が100、120と跳ね上がる。これは医学的な数値で見れば、「重い荷物を背負って階段を全力で駆け上がっている(9.0 METs)」のと全く同じ心臓の負担です。
あなたが座って肩で息をしているとき、体の中ではアスリートが心臓破りの坂を猛ダッシュしている時と同じ地獄が起きています。この「運動強度のズレ」があるため、周囲からはなかなか理解してもらえないのです。
「動くどころじゃない」のです。
全力疾走している真っ最中の人に「もっと動け」と言うのがどれほど無茶なことか、想像してみてください。
4. 「眠る」ことは、回復への一つの選択肢
実際のところ、私はコロナ後遺症で動けなくなってからの約1年間、次のような状態にありました。
息苦しさ、動悸、息切れ、倦怠感、過眠、胸の痛み、頭痛、めまい、喉の痛み。特に息苦しさが強く、吸っても空気が入ってこない、吐ききれないもどかしさ。横になっていても肺が潰されそうなほどで、「辛い」なんて言葉では生ぬるい、本当に窒息するか突然死するんじゃないかと思うほどでした。
起きれば脈拍は120を超え、会話もままならない。歯磨きや洗濯物を干すといった動作だけでも、苦しくて死にそうになっていました。
そのため、食事やトイレなど、どうしても外せない最低限の動作以外は、とにかく横になって無理矢理にでも眠るようにしていました。「これ以上、心臓と肺を動かさない」ことが、当時の私にできる回復のために唯一できることだったからです。
この「目に見えない苦しさ」を周囲に理解してもらうには、やはり日々のバイタルデータの記録が有効でした。
ここで述べていることは、あくまで私の経験に基づく個人的な感想です。すべての患者さんに当てはまるものではなく、特定の治療効果を保証するものでもありません。体調については必ず主治医と相談してください。
ただ、理学療法士として、そして一人の当事者として私はこう感じました。
歯磨きさえ「全力疾走(9.0 METs)」になってしまう今の体にとって、横になって眠ることは決してサボりではありません。壊れた体を回復させ、再び動けるようになるための、私なりの近道だったのです。
これ以上動いたら体が壊れてしまう。その限界点ギリギリでブレーキを踏み、あえて「動かない」ということを死守する。それこそが、当時私が選んだ最も正しい選択だったと思います。
