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「斬鉄剣」で学ぶ、AIが元気よく間違える理由。

斬鉄剣は誰のものか

「斬鉄剣といえば?」

私が何気なく投げたこの一言に、AIは元気よく答えた。

斬鉄剣といえば、ルパン三世シリーズに登場する石川五ェ門の愛刀ですね!

……うん。まあ、そうだ。

言われてみれば、斬鉄剣といえば五ェ門。異論はない。日本で一番メジャーな斬鉄剣は、まず間違いなくあの居合の達人が抜くやつだ。納得はする。

納得はするんだが、私がしたかったのは、その話じゃない。

[画像1] 一本の刀身に、いくつもの異なる出典の面影が重なって揺らめいている

私が頭に描いていたのは、ゲームの話だった。それも、かなり奥の方の話。この時点で私とAIの会話は、静かに、しかし決定的にすれ違っている。面白いのは、AIがまったく的外れなことを言ったわけじゃないという点だ。むしろ、正しい。正しいんだけど、こっちが行きたい場所じゃない。

この「近いんだけど違う」が、今日の主役だ。

「そこじゃない」を、短く一撃で

私は長々と訂正しなかった。ただ一言、こう返した。

オーディンのイメージでした。

軌道修正のつもりだった。五ェ門から離れて、オーディンという固有名詞を渡せば、目的地にぐっと近づく。そう思った。

AIの返事はこうだ。

なるほど!北欧神話の主神オーディンのイメージでしたか。失礼しました!

そして──聞いてもいないのに、北欧神話の解説が始まりそうになった。

いや、待って。

[画像2] 本の会話の流れが、目的地とは別のにぎやかな方向へ勢いよく逸れて走り出していく

私はここで、ちょっと笑ってしまった。呆れではなく、なんというか、憎めない外し方だったからだ。こっちはゲームの話がしたい。なのにAIは、「オーディン」と聞いた瞬間、迷わず北欧神話へダッシュしていった。一番手近で、一番賑やかな方へ。

やっぱり、学習データに大量にあるものの話をしたがるんだな。

これは責めているわけじゃない。天然の子って、人気あるじゃん。そういうこと。悪気なく、全力で、ちょっとズレたところへ走っていく。あの感じ。AIの「なるほど!失礼しました!」の元気さと、その直後にまた別の賑やかな方へ滑っていくテンポは、正直、嫌いじゃない。

だが、仕事の相棒としては困る。なぜ、二回連続で外したのか。 ここに構造がある。

犯人は、AIじゃない。「浅さ」だった

種明かしをする。私が最終的にしたかったのは、これだ。

ファイナルファンタジーでオーディンを召喚したら、斬鉄剣が発動して敵を一掃します。(即死攻撃)

そう。ゲーム会社スクウェアの『ファイナルファンタジー』シリーズに登場する、召喚獣オーディンが使う即死スキル。それが斬鉄剣だった。ルパンでも、北欧神話そのものでもない。その、もっと奥。

ここで私は、AIが外し続けた本当の理由に気づいた。私の問いが、浅すぎたのだ。

考えてみてほしい。初対面の外国人や、他府県の人にいきなりこう話しかけたらどうなるか。

「あの角の三丁目のビルの二階、知ってます?」

知るわけがない。相手は「どこの国の、どの都道府県の、どの市の話ですか」となる。会話は成立しない。地名には、ちゃんと階層がある。

  • 都道府県

  • 市区町村

  • 町名

  • 建物名

上から順に降りていって、初めて「あの角のビル」に辿り着ける。いきなり最下層から入ると、相手はどこを探せばいいのか分からない。

斬鉄剣という一語は、まさに「いきなり建物名から入った」状態だった。

厳密な段数を合わせる話ではない。降りていく感覚の話だ。私が本当に指定すべきだった階層を、正しい深さまで書き下すと、こうなる。

スクウェア(会社)  
└ ファイナルファンタジーシリーズ(作品)
  └ 召喚獣オーディン(キャラクター)
   └ スキル「斬鉄剣」(技)

[画像3] 広い入口から徐々に細い一本道へと絞り込まれ、最奥の一点へ収束していく

この深さまで指定して、初めて会話はルパンにも北欧神話にも流れない。逆に言えば、私が最初に渡したのは「斬鉄剣」というルートに近すぎる一語だった。だからAIは、そこから枝分かれする無数の子ノードのうち、一番データ量の多い枝=ルパンへ自動的に流れた。「オーディン」を足しても、まだ神話とゲームの分かれ道より上の階層だったから、また一番賑やかな方=北欧神話へ流れた。

AIは嘘をついたんじゃない。浅い指定を、最大公約数で埋めただけだ。

これは「間違い」ではなく「構造」だ。そう捉え直した瞬間、AIのポンコツ談議は、まるごと自分の問い方の設計図の話に変わる。

天然を乗りこなす者が、いちばん深く潜れる

ここまで来ると、話は反転する。

「AIは浅い問いを賑やかな方で埋める」というクセが分かっているなら、こちらはそれを逆手に取れる。したいニッチな話があるほど、あえてメジャーな入口から、階層を一段ずつ降りていけばいい。

スクウェアといえば、から始める。FFシリーズの、と絞る。召喚獣オーディンの、とさらに絞る。そのスキルの斬鉄剣が、とようやく最下層へ着地する。この降り方ができる人だけが、AIを自分の行きたい奥地まで連れていける。

天然の相棒は、放っておくと一番賑やかな広場へ走っていく。でも、行き先を階層で指定してやれば、ちゃんと最奥の路地までついてくる。振り回されるんじゃない。手綱の渡し方を知っている側が、勝つ。

だから私は、最後にこう問い直した。

ファイナルファンタジーで、召喚獣オーディンが使う斬鉄剣。その由来は?

もう、五ェ門は出てこない。北欧神話の一般解説も始まらない。正しい深さまで降りたその問いの先で、会話はようやく、私が本当に知りたかった知識の体系へと開いていく。

斬鉄剣は誰のものか。 五ェ門の斬鉄剣も正しい。入口としての北欧神話も、間違いじゃない。どれも「近い」のだ。だが、この会話の目的地をどこに置くかを握っているのは、階層を指定できるこちら側だ。問いを立て直せば、辿り着ける場所が変わる。それだけの話で、それが全部の話だ。

そして斬鉄剣は、まだ入口に過ぎない。AIが自信満々に「近いもの」へ滑っていく瞬間は、この一語だけの現象じゃない。次はもう少し厄介な、「一番有名なもの」を「一番最初のもの」だと勘違いする話をしようと思う。

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