Gemini 活用で高校の探究的な学びの質が向上!三重県立名張青峰高等学校に学ぶ、生成 AI 活用事例
こんにちは、Google の AI「Gemini(ジェミニ)」の公式 note 編集部です。
教育現場では、生徒一人ひとりの多様な興味関心に向き合う「探究的な学び」において、そのサポートのあり方が新たな課題となっています。
同時に、急速に進化する AI を前に、教育での活用への期待が高まる一方で、「何から始めればよいのか」「生徒たちにどう使わせれば、安全かつ効果的なのか」と言った声も多く聞かれます。
そうした中、三重県立名張青峰高等学校では、探究的な学びに Gemini を導入し、生徒と教員双方の能力を拡張する試みに挑戦しています。同校の情報科教員として取り組みを牽引する向山 明佳先生は「生成 AI は相棒」と語っています。
本 note では、向山先生に、生成 AI 導入までのリアルな道のり、生徒たちが Gemini と共に学びを深める具体的な方法、そして「AI は人間のやりたかったことを実現する相棒」という教育観に至るまで、詳しくお話をうかがいました。「百人百色の探究的な学び」を支える Gemini の可能性と、これからの AI 時代の教育のヒントが満載です。
記事の最後には、向山先生が実際に学校で活用されているガイドラインやプロンプト集もご紹介。教育現場で生成 AI の導入を検討されている先生方にとって、すぐに役立つ情報をお届けします。
生成 AI 導入には「丁寧な説明」と「体験」のファーストステップが重要
- まず、教育現場に生成 AI を導入する上で、どのようなハードルがあると感じていますか?
三重県立名張青峰高等学校 向山 明佳先生(以下、向山):生成 AI に対して、多くの人が「得体の知れなさ」を感じているのが最初のハードルだと思います。特にこの一年で AI の性能が急速に向上し、「これは使わないといけない」「社会が大きく変わる」と感じる人がいる一方で、「怖い」「触ってはいけないもの」と感じる人もいます。これは教員も保護者の方々も同じで、意見が二分しているのが現状です。

- やはり、最初は抵抗を感じる方が多いのですね。
向山: はい。「AI に頼ると、人間の考える力を失ってしまう。使わずに勉強するのが本来の勉強だ」といった考えを持つ、「食わず嫌い」な部分が大きいですね。ですから、まずは体験してもらうことが大切だと考えています。
実際、研修などを通じて生成 AI を実際に使ってみることで、「なるほど、こう使えばいいんだ」「これは教育に活かせそうだ」と感じる先生が着実に増えてきている実感があります。丁寧に、根気強く説明することが最初のステップとして重要でした。
本校では、まずは保護者や生徒、そして全職員に向けて、生成 AI のメリットだけでなく、リスクや禁止事項について丁寧に説明しました。その上で保護者の方々に同意書をいただき、利用を開始しました。幸いなことに、保護者の方から「使ってはダメだ」という声は一件もありませんでした。むしろ、学校で正しい使い方を教えてもらえるのはありがたい、と感じていただけているようです。

- 学校全体で導入を進める上では、管理職の先生方の理解や役割も重要になりますね。
向山:非常に重要です。特に、管理職の影響は最も大きいと感じています。
本校は 10 年前に開校し、当初から全員 ICT を活用するという方針でスタートしました。そのため、転勤してくる先生も、ある程度 ICT をやる覚悟ができているので、得意不得意はあっても、ICT を絶対に使わないという人はいません。これは非常に恵まれている点だと思います。
他校では、若い先生が新しい ICT 活用を提案したときに、ベテランの先生が反対するという話をよく聞きます。そして、そのベテランの先生を説得する役目を、若い先生に任せてしまう。これは違うと思っています。
管理職には、「若い先生が挑戦しようとしているんだから、みんなでやってみようよ」「どうなるかわからないけど、まずは試してみよう」と後押しする雰囲気が求められるでしょう。管理職自身が生成 AI に詳しくなくても全く問題ありません。新しい教育に挑戦しようとする教員を支える姿勢が大切だと思います。
- 情報科の先生や、ICT 担当の先生に負担が集中してしまう問題もありますね。
向山:これも大きな問題ですね。現状、授業で ICT や 生成 AI を使うことは必須ではありません。だからこそ、「使ってみようかな」と思った先生が孤立しないよう、周りがサポートする文化が重要になります。
私自身も情報科の教員として、他の先生からツールの使い方についてよく質問を受けます。学校現場では、ICT を使える人が苦手な人を支え、教え合っていく雰囲気を醸成することが、結果的に学校全体の活用推進につながると信じています。
Gemini との対話が探究的な学びの深堀りにつながった
- 三重県立名張青峰高等学校では、どのように、生成 AI の活用を実践されているのでしょうか。
向山:アルファ碁(AlphaGo)が話題になった頃から AI によって世界が変わるなと感じて、情報の授業では 6 年以上前から AI を取り上げています。また、今年からは 1 年生全員にアンケートを取り、生成 AI の認知度や使用頻度の実態を把握して、授業の参考にしています。
特に親和性が高いと感じているのが「探究的な学び」での活用です。「総合的な探究の時間」では、生徒が一人ひとり、自分の興味関心に基づいてテーマを設定します。スキンケアからゲーム、アニメまで、そのテーマは多岐にわたり、まさに百人百色です。しかし、教員が 1 学年 240 人全員の多様なテーマすべてに対して、専門的な視点から「こういう深掘り方ができるよ」「こういう観点もあるんじゃない?」と助言するのは、現実的に難しいものがあります。
- たしかに、幅広い分野をすべてカバーするのは限界がありますね。
向山: そこで役立つのが、生成 AI です。生徒自身が、「このテーマについて、もっと違う観点はありませんか?」「発表のまとめ方はどうすればいいですか?」と Gemini に相談して、自分の思考を整理したり、アイデアを練ったり壁打ちしていきました。
これまでは着眼点が良くても、発表の段階で内容を深堀りできていない生徒も少なくありませんでした。しかし、生成 AI を使い始めた昨年は、生徒の発表内容がより深くなり、上手に活用できているなと感じました。
- 生徒さんは、すぐに生成 AI を使いこなせるものなのでしょうか。
向山: やはり、最初のうちはプロンプトをどう作成すればいいかわからない生徒がほとんどです。いきなり「生成 AI を使ってごらん」と促すだけでは、うまくいきません。
そこで、まずは情報の授業で「生成 AI とは何か」という基本的な知識から、ハルシネーションを生成してしまう特性まで、体系的に学びます。その上で、私が作成した探究を深めるための「AI 活用プロンプト集」を Google Classroom で共有し、それを参考にしながら使わせています。ちなみに、このプロンプト集のベースは Gemini と一緒につくりました(笑)。
プロンプトを作成するスキルは、やはり使っていくうちに身についていくものです。こうした例を参考にして、生徒にもスキルを磨いていってほしいなと思います。
- ハルシネーションについて学んでもらうために、何か工夫はされていますか?
向山: 情報の授業では「ハルシネーション探し」に取り組みました。生徒にはまず、自分の「推し」について、Gemini に質問を投げてもらいます。アイドルでも、アニメのキャラクターでも、スポーツ選手でも何でも構いません。そして、その回答の中から「事実と違う部分」を探して、Google フォームに報告してもらうんです。
「脱退していないメンバーが脱退したことになっていた」「アニメに出てこない服を着ていた」など、面白いハルシネーションがたくさん集まります。これを全員で共有することで、「AI は平気で嘘をつくことがある。だからこそ、情報の真偽を自分で確かめることが重要だ」と、楽しみながら体感的に学んでもらっています。
- 先生方への情報共有はどのように行っていますか?
向山: 3 〜 4 年前から、職員会議の最後に「プチシェア」という時間を、3 分間設けています。ICT 活用の工夫などを、先生方に持ち回りで共有してもらう取り組みです。最近は、私が生成 AI の最新情報をお伝えすることが多く、Gemini Live のデモを実践したり、NotebookLM を紹介したりしています。
特に先生方が驚くのは Deep Research ですね。例えば、生徒の成績や希望進路といった匿名のペルソナデータを入力し、「この生徒におすすめの大学を、公立と私立に分けてリサーチしてください」と指示すると、何百ものサイトを調査して、最適な大学をリストアップしてくれるんです。これを見た先生方は「すごい!」と感動されます(笑)。
これまで進路指導で教員がやっている情報収集を、AI が肩代わりしてくれるようになる。これは教員の働き方改革だけでなく、経験の浅い若い先生方が知識や経験を補う上でも、心強いツールになると思います。
生徒一人ひとりに寄り添った指導が Gemini で実現
- Gemini の活用によって、生徒や先生にどのような変化がありましたか?
向山: 生徒については、AI に対する関心の高さですね。食いつきがまったく違います。
私の情報の授業では、最後に「疑問タイム」という時間を設けて、生徒から授業の中で感じた様々な疑問を投げかけてもらっています。
AI をテーマにした回は、生徒から寄せられる疑問の量が圧倒的に多くなりました。「人間はどうなっていくんだろう」「AI は友達になってくれるだろうか」といった、本質的で深い問いがたくさん出てきます。自分たちの未来につながるテクノロジーだと感じているのかもしれません。
実際、AI を使い続けていくことで、「現在の AI はすさまじい速さで進化している」という進化のスピードに気付いてもらえたことは良かったと思っています。また、「困ったときの AI」といった感じで、生徒にとっての選択肢が増えました。使い方には気を付けて指導していく必要がありますが、それも含めての「学び」だと考えています。
- 向山先生ご自身には、何か変化はありましたか?
向山: 私がずっとやりたかった「一人ひとりに寄り添った、きめ細かい指導」が、Gemini のおかげで実現できるようになってきています。
例えば、情報デザインの授業で生徒が提出したレポートに対し、以前は時間的な制約から点数を付けて返すのが精一杯でした。しかし今は、私が作成したルーブリックの評価基準と生徒のレポートを Gemini に読み込ませ、「このルーブリックに従って評価し、さらに良くなるためのアドバイスを 200 字で作成してください」と指示すれば、具体的なフィードバックを生成してくれます。
そのうえで Gemini が生成したコメントをチェックしていきますが、「こういうことを生徒に伝えたかった」という私の思いがきちんと反映されていて、一人ひとりにコメントを付けることが可能になりました。
- それは素晴らしい変化ですね。
向山: まさに、自分の能力を拡張してくれると実感しています。
他にも、レポートのフィードバックだけでなく、生徒全員に少しずつ違う課題を出したいと考えた時も、Gemini がアイデア出しを手伝ってくれます。自分で数個アイデアを考えた後、Gemini に「これに準ずるような課題を、あと 27 個考えて」と頼めば、それに沿った課題を提案してくれます。「なるほど。こう考えればいいのか」と非常に参考になって有難いですね。
このように、自分のやりたかった教育が Gemini という相棒を得て、ようやく実現できるようになったと感じています。他の教科の先生から「Gemini を活用してみたい」といった相談を受けて、一緒に取り組むこともあります。
目指すのは「AI を相棒として、自分の能力を拡張できる人」
- AI がますます普及するこれからの社会で、生徒たちにどのような力を身につけてほしいとお考えですか。
向山: これからの人間は、大きく 3 種類に分かれると思っています。一つ目は「AI を使いこなせない人」。二つ目は「AI に丸投げし、考える力を失って能力が落ちていく人」。そして三つ目は「AI を相棒として、自分の能力を拡張できる人」です。私が育てたいのは三番目の生徒たちです。
- 「AI を使って能力を拡張できる人」を育てるために、何が重要になるのでしょうか。
向山: まずは、使い方を知らなければ話になりません。生成 AI の正しい使い方とリスクを教えた上で、「楽をするだけでなく、自分の能力を一段階上げるためにはどうしたらいいのか」を考えさせることが重要です。
そのためには、まず「自分のやりたいことは何か」という問いを立て、目的や夢を明確にしなければいけません。
そして、AI の進歩に合わせて、自分の「やりたいこと」や「理想」のレベルもどんどん高めていく必要があります。去年は AI が半分しか手伝えなかったことが、一年後には AI がすべてできてしまうかもしれない。だからこそ、自分の理想や夢もどんどん高めていかなければならない。これが、これからの教育において大事なところだと考えています。
- AI にも届かないような理想を持ち続けるには、どんな心構えが必要でしょうか。
向山: それこそ好奇心だと思います。疑問タイムで、「これだけ AI が賢くなったら、人間は何をしたらいいんですか?」という疑問がありました。私は、「遊ぶこと」、つまり「面白いと思うことを自分でやっていくこと」だと思います。
AI なら一瞬で描ける絵を、自分は面白いから 一ヶ月かけて描く。新幹線なら一時間で着く場所を、面白いから歩いて行く。誰かに「非効率だ」と言われても、「自分が好きだから、面白いからやっているんだ」と胸を張って言える。そんな探究心や好奇心を持ち続けているかどうかが、これからの時代を生きる上で重要だと考えています。
生徒たちが自分の「好き」や「面白い」を見つけ、それを夢中で追いかけられるような教育をしていきたいですね。
- ありがとうございました。
生徒・教員向けガイドラインとプロンプト集を公開!
今回、向山先生のご厚意により、学校で実際に活用されている生徒用・教員用の「ガイドライン」と「生成 AI 活用プロンプト集」を、特別に共有いただきました。これらの資料は、向山先生が Gemini と対話しながら効率的に作成されたものだそうです。ぜひ、学校現場でもお役立ていただけたら嬉しいです。
※三重県立名張青峰高等学校 ICT 教育推進委員会が作成したものより抜粋
・生徒向けガイドライン「生成 AI を使う上での注意点」
Gemini に、「生成 AI を使い始めるときに、生徒が知っておくべき事柄を 1 枚にまとめて」といったプロンプトでたたき台を作成してもらい、向山先生が編集して完成させたガイドラインです。

・教員向けガイドライン「授業や校務で生成AIを使う際に」
教員用ガイドラインでは、文部科学省の研修や、全国の先生方が公開されている YouTube 動画等の URL 一覧も、参考資料として掲載されています。

・授業用「AI 活用プロンプト集」
探究的な学びの授業用に、向山先生が作成したプロンプト集です。
「AI って何ができるの?」「上手に話すコツ」といった基本的な知識から、探究を深めていくためのプロンプトが段階的に紹介されています。
※2024年

