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半導体の基幹素材、シリコンウエハーを解説

こんにちは、化学業界を解説するごりおです。

今回は、半導体産業の基幹素材「シリコンウエハー」について解説します。

シリコンウエハーとは、半導体を作る際に使われる、いわば“土台”となる素材。
その世界市場では、信越化学工業SUMCOの日系2社が、半分以上のシェアを握るという、驚異的な寡占状態が続いてきました。

しかし今、そのウエハー市場が、大きな岐路に立たされています。

AI関連の需要が急増する一方で、それ以外の半導体分野は低迷から抜け出せず、市場全体は二極化
さらに台湾や中国メーカーの台頭から、競争も激化しています。

その背景を、わかりやすく紐解いていきます。


そもそもシリコンウエハーとは

まずは、シリコンウエハーの基本から押さえておきましょう。

シリコンウエハーとは、あらゆる半導体の土台となる素材です。
薄くて丸い円盤状の形をしており、サイズは主に「12インチ(300mm)」と「8インチ(200mm)」の2種類があります。

このウエハーの上に、ナノレベルの極小パターンで電子回路が刻まれていきます。
その工程を経て、スマートフォンも、AIチップも、自動車の制御システムも動いているのです。

少しくだけた表現をするなら、シリコンウエハーは**「寿司のシャリ」**のような存在です。
ネタ(=回路)がどれほど豪華でも、シャリ(=ウエハー)がなければ寿司(=半導体)は成立しません。

また、どのお寿司にもシャリが欠かせないように、ありとあらゆる半導体製品に、シリコンウエハーは不可欠
ゆえに半導体材料のなかでもシリコンウエハーの市場規模は圧倒的に大きく、
実際、前工程を担うウエハーメーカーは、材料メーカーの中でもトップクラスの売上を誇っています。

半導体材料メーカーの売上規模(出所:レゾナック)

しかし、この「基幹素材」としての特徴は、弱点にもなり得るのです。

ウエハーの製造には、巨大な装置と大規模な投資が欠かせません。
いわば装置産業そのものであり、設備投資の負担は極めて大きくなります。
さらに、あらゆる半導体分野に関わるがゆえに、景気や需要の変動に非常に敏感です。

このため、シリコンウエハー市場には、シクリカル(景気変動に左右される)な性質がつきまといます。
そして今、まさにその波の“下側”に差し掛かっている状況なのです。

どんな逆風が吹いているのかは、後半で詳しく見ていきます。

製造プロセスについて

さて、続いてはシリコンウエハーの製造プロセスについて解説します。

一見するとシンプルに見えるシリコンウエハー。
しかしその中身には、ぶっ飛ぶレベルの化学技術がギュッと詰まっています。
むしろこここそが、化学メーカーの“腕の見せどころ”なのです。


原料は石

ウエハーの原料は、地球上にいくらでも存在するケイ石
化学式で言えば、河原の石ころとそう大差ありません。

このケイ石をウエハーに仕上げるためには、大きく分けて次の2つの工程が必要になります。


第一工程:純度を極限にまで高める

最初に行うのは、高純度化のプロセスです。

  1. まず、ケイ石を還元して「金属ケイ素」を作ります。
     これは98~99%程度の純度で、まだ半導体には使えません。

  2. 次に、この金属ケイ素に塩酸を反応させてトリクロロシランに変換し、蒸留により超高純度にまで精製します。

  3. 最終的に得られるのは、「多結晶シリコン」。
     その純度は、なんと99.999999999%(イレブンナイン)

出所:Semi journal

この高純度化の流れ、ざっくり言えば「スピリタス(高濃度アルコール)を作るような工程」とも言えるでしょう。


第二工程:単結晶化とスライス

高純度な多結晶シリコンができたら、次は「単結晶化」と「スライス加工」です。

  1. 多結晶シリコンを溶かし、円柱状の単結晶インゴットに引き上げます(チョクラルスキー法)。
     この工程は、チョコレートのテンパリングに似ているかもしれません。結晶の質が超重要です。

  2. さらにここで、電気特性を調整するための「**ドーピング(添加剤)」**も施されます。

  3. 完成した円柱状の単結晶を薄くスライス・研磨すると、ようやく「シリコンウエハー」が出来上がります。


どのメーカーが担っているのか

さて、ここからが面白いところです。
この工程のどこに、どんなメーカーが関与しているのかを見ていきましょう。

  • 金属ケイ素の製造
     とにかく電力をバカ食いする工程のため、いまや日本国内では作っておらず、海外生産が主流。
     信越化学はオーストラリアの子会社で自前生産しています。

  • 多結晶シリコンの製造
     この工程で高いシェアを誇るのがトクヤマ
     また、SUMCOは三菱マテリアルからこの工程を買収し、内製化を進めています。

  • 単結晶化・ウエハー製造
     ここは日本の2強、信越化学工業SUMCOが圧倒的な存在感を誇ります。

  • 周辺材料(るつぼなど)
     単結晶を育てる“るつぼ”の原料を支えているのが、三菱ケミカルグループです。

このように、ウエハー1枚にも多くの化学・素材メーカーが関わっており、グローバルかつ分業的に製造が進められているのです。

関連企業を解説

今回は、シリコンウエハーの製造に関連して、トクヤマ、信越化学工業、SUMCOの3社について解説します。

トクヤマ

まず紹介するのは、半導体用多結晶シリコンを手がける化学メーカー、トクヤマです。

この分野において、トクヤマは**世界シェア約20%**を誇る有力プレイヤー。
世界のウエハー産業を、原料側からしっかりと支えている存在です。

トクヤマの最大の強みは、自社インフラを活かした製造体制にあります。

多結晶シリコンの製造には、以下のような要素が不可欠です:

  • 金属ケイ素(原料)

  • 大量の電力

  • 水素

  • 塩素

通常、これらの多くは外部から調達するのが一般的です。
ところがトクヤマは、金属ケイ素を除くすべてを自社内で供給可能となります。

なぜそれが可能なのか?
その理由は、トクヤマが有する以下のような設備にあります:

  • 自社の石炭火力発電所
     → 安定した大電力供給を確保

  • 電解設備
     → 副生する水素や、塩素を活用

  • パイプラインによる供給網
     → 不純物混入リスクを抑えつつ、製造プロセスへダイレクト供給

このエネルギー・原料の一体運用が、コスト競争力だけでなく、品質の安定性や純度向上にも大きく貢献しているのです。

このようにトクヤマは、化学メーカーとしての精製技術力に加え、
**インフラを自社で抱える“装置産業的な強さ”**を併せ持っているのが大きな特徴です。

シリコンウエハーの二大巨頭

続いて紹介するのは、シリコンウエハー市場の二大巨頭、「信越化学工業」と「SUMCO」です。


世界トップシェア:信越化学工業

信越化学といえば、塩化ビニル樹脂フォトレジストなどでもおなじみ。
日本を代表する化学メーカーですが、実はシリコンウエハーでも世界トップシェアを誇ります。

その強さは、「高純度」「高精度」の追求だけでなく、後述する“対応力”にもあります。


世界2位:SUMCO(サムコ)

一方のSUMCOは、ウエハー専業メーカー
三菱マテリアル、住友金属工業、コマツ電子金属などの事業が統合され、2002年に誕生した“連合軍”です。

知名度は信越化学に及ばないかもしれませんが、世界シェア2位
ウエハーというニッチ分野で、世界を相手に戦う精鋭企業です。

この**信越化学とSUMCOの2社で、世界シェアの約50%**を占めています。

シリコンウエハー二社、何がそんなにスゴいのか?

もちろん、極限までの高純度化技術や、
ナノレベルでの平たん化加工といった基礎技術は世界トップクラス。

ですが、それだけではありません。
この2社の真骨頂は「顧客ごとの超繊細なカスタマイズ力」。

実は、同じ5ナノプロセスのウエハーであっても、顧客ごとに仕様が異なります

たとえば、5ナノウエハーでも、TSMC向けとサムスン向けは異なります。
また、3ナノプロセス向けと28ナノプロセス向けでは、求められる品質もまるで違うのです。

なぜ、こんなにも細かく作り分けるのか?

理由はひとつ。歩留まりの最適化です。


歩留まり=命

半導体の製造には、膨大なコストと時間がかかります。
ほんの1〜2%の歩留まりの差が、コスト差に直結します。

そのため信越化学では、4,000種類以上のウエハー仕様が顧客ごとに存在するとも言われています。

普通の製造業なら、製造部も品質保証部も「ふざけるな」と言いそうですが、それを“当たり前”としてやり切る、まさに職人技の世界ですね。


スピードも勝負

もうひとつ、競争力のカギを握るのがスピード感

半導体業界では、開発サイクルが年々加速。
「顧客の要望に、いかに早く対応できるか?」が企業の命運を分けます。

実際、SUMCOは「ファーストコールを取れる関係性が重要」と明言しており、
信頼関係とスピードこそが、彼らの最大の武器でもあるのです。

このように、信越化学とSUMCOは、
ウエハー技術の高さだけでなく、“超微細な対応力”と“顧客密着のスピード”で差別化しているわけですね。


シリコンウエハー市場はいまどうなっているのか

最後に、シリコンウエハー市場の動向を整理しておきましょう。
市場を読み解くには、「需要」と「供給」の2つの軸から見るのがポイントです。


【需要側】5年間の変遷と現在地

まずは需要面の変化から。

  • 2020~2022年
     巣ごもり特需や地政学リスクを背景に、半導体需要が一気に拡大。
     それに伴い、シリコンウエハー市場も拡大期に入りました。

  • 2023年
     需要が一巡し、在庫が積み上がる中で、出荷面積・市場規模ともに後退。ブレーキがかかり、調整局面へ。

  • 2024年
     AI半導体だけが立ち上がり、他分野(自動車、民生機器など)は依然として低調という
     やや珍しい「部分的回復」の状況に突入しています。

ボリュームゾーンの回復が鈍いなか、ウエハー需要は全体として本格回復には至っていません。


企業見通し 信越化学は前向き、SUMCOは慎重

では、今後の見通しはどうか。

実はここが本題。
企業によって「見ている景色」が異なるのです。

■ 信越化学の見方:回復シナリオ

2025年4月の決算説明会で、信越化学はこう述べています:

「複数のお客様から“受注が底打ちした”という声が聞こえるようになってきた。
出荷は徐々に回復すると見ており、過去のサイクルからしても、
今後は右肩上がりを期待している。」

──ということで、段階的な回復シナリオを描いています。


■ SUMCOの見方:在庫が壁

一方のSUMCOは、慎重なトーンです。

決算資料で公表されたデータでは、2022年後半から投入量が減少し、在庫量が急増
つまり、ウエハーは買われているけれど、使われていない。**“ウエハーの過剰在庫”**状態にあると説明しています。

たとえウエハーが腐ることはなくとも、スペックの陳腐化リスクは避けられません。

なぜこうなったかというと、背景には長期供給契約の存在があります。

  • 好景気だった2021〜2022年、ウエハーメーカーは大量の長期契約を締結

  • しかし2023年に入り、需要が急減

  • 契約通りに供給した結果、倉庫がウエハーだらけに

SUMCOはこうした状況を踏まえ、繰り延べ要請に応じるケースが増えているとしています。
2025年2Qの業績予想も「利益ゼロ」という厳しい見通しです。


【供給側】中国の内製化、グローバル競争

需要の回復が鈍い中で、供給側はむしろ増加傾向にあります。

  • 中国メーカーの台頭
     特に200mmウエハーではキャッチアップが急進。
     かつての需給バランスには戻らないとの見方も。

  • 台湾GlobalWafersの拠点拡大
     世界3位のウエハーメーカーであるGlobalWafersは、米国で新工場を建設
     グローバルな供給競争も激化しています。

このように、**「需要は低迷」「供給は拡大」**という、二重の圧力がかかっているのが現在のウエハー市場です。


トクヤマは意外と強気予想

そんな中、やや意外な存在がトクヤマです。
2025年度は電子材料事業で増益予想を掲げています。

トクヤマは、半導体用多結晶シリコンというサプライチェーンの最上流に位置する企業。
ウエハーの在庫がだぶついているなかでのこの強気な見通しは、ちょっとしたサプライズでした。


最後に:生き残るウエハーメーカーの条件とは?

中長期的には、中国メーカーの成長や海外勢の投資拡大によって、競争環境はより厳しさを増すと予想されます。

そんな中で問われるのは、次の2点です:

  • 短期的な“需給の波”をどう耐えるか

  • 中長期的な“成長の軸”をどう立てるか

たとえば、

  • SUMCOは、汎用品から先端グレードへの切り替えを進行中

  • 信越化学は、ロジックもメモリもパワーもこなす“オールラウンダー戦略”を掲げる

それぞれの企業が、異なる地図を描きながら、
“その先”を見据えたサバイバル戦略を選び始めているのです。


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