童話【羊たちの柵の向こう】
昔々、広い草原に、たくさんの羊たちが暮らしていました。

羊たちは高い柵に囲まれた中で、草を食べ、昼寝をし、同じ方向を見ながら群れをなして歩きます。
その柵の外には、見たことのない世界が広がっていると噂されていました。
そしてそこには、「狼」がいるのだ、と。
ほとんどの羊たちは、狼の姿を見たことがありません。
でも、物語や古い歌の中で、狼はいつも牙をむき、羊を襲う存在として語られていました。
だから羊たちは、柵の外から来るものを、まず疑い、恐れました。
ある日、柵の向こうから、一匹の犬がやってきました。

犬は狼によく似ていました。
長い脚、鋭い目、そして柵の外の風の匂いをまとっていました。
しかしその背中には、羊の群れを守るための古い傷が刻まれていました。

犬は言いました。
「ここで暮らしたい。柵の中で、あなたたちを守ることもできる。」
羊たちは集まり、こそこそと話し合いました。
「でも、あの目を見てごらん。狼に似ているじゃないか。」
「利用できるかもしれない。外の世界のことも知っているし…」
「けれど、もし牙をむいたらどうする?」
結局、犬は柵の中に入ることを許されましたが、条件がありました。
— 柵の外のことを話してはいけない。
— 牙を見せてはいけない。
— 走るときは、羊の速度に合わせること。
犬はその条件を受け入れ、羊たちと暮らし始めました。
けれども、時折、犬が空を見上げて風の匂いを嗅ぐと、羊たちはざわめきました。
「あれは狼の仕草だ。気をつけろ。」

やがてある夜、本物の狼が柵を破って現れました。
風の向こうで低く唸る声がした。
その音は、羊たちが何世代も前から物語でしか聞いたことのない「終わり」の音だった。

羊たちは混乱し、逃げ惑います。
狼へ向かって走り出す前、犬は一瞬だけ足を止めた。
自分を恐れ続けた群れのために、なぜ牙を使うのか。
けれど、守ると口にした約束だけは、まだ胸の奥で折れていなかった。
群れの温もりと、柵の外の風の記憶が、胸の奥で激しくぶつかった。
しかし迷いを振り切るように犬はついに狼へと駆け出した。
唸り声と荒い息が入り乱れ、夜の空気が張りつめた。
土と血の匂いが混じり、月明かりの下で二つの影が激しく揺れた。

そして、長い闘いの末に狼は柵の外へと退いた。
息を切らせながら、犬は血のついた牙を引っ込め、群れに戻ります。
しかし、その姿を見た羊たちは、互いにささやきました。
「やっぱり牙がある。あれは犬ではなく、狼なのかもしれない。」
次の日、犬は柵のそばに立ち、風の吹く方を見つめました。

柵の外には、恐怖と自由が入り混じった匂いが漂っていました。
そして犬は静かに、柵を越えていきました。
羊たちは、その背中を見送りながら、しばらく黙っていました。
やがて一匹が言いました。
「狼は怖い。でも、あの犬は……もっと怖いのかもしれない」
「なぜなら、あの犬は、柵の向こうを知っているから」
羊たちは
その夜から
柵の外を見るたびに
狼のことを思い出しました
けれど
ときどき
狼ではないものの背中も
思い出すようになりました
それは
自分たちを守った牙でした
そして
自分たちが最後まで
信じることのできなかった背中でした
柵は
外のものを遠ざけるためにありました
けれどその日から
羊たちは少しだけ知りました
柵はときどき
外を閉め出すだけでなく
自分たちの心まで
内側に閉じこめてしまうのだと
羊たちの柵の向こう — 教訓
• 境界は、外を拒むだけでなく、内を閉じ込めもする。
• 守る力は、ときに脅威の形をしている。
• 柵の向こうを知った者は、いつか内側に留まれなくなる。
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