店名:中華そば 無名の風(仮)

※この記事は約1040文字です。

評価:★★★☆☆(3.0)

訪問日時:2025年6月某日(水)

書いた人:胃の声が聞こえる人


12:34 着⭐︎丼

回転ドアを抜け、木目調の引き戸をくぐる。
狭いカウンターの6席目。壁のメニューに“塩”と“醤油”の二択が潔く、問答無用で「塩」を指差す。

着席から8分43秒後――
私の前に、それはそっと着⭐︎丼した。

どんぶりの着地は音もなく、
店主はすでに別の鍋に意識を移している。
無視されたのではない。
これは、信頼の放置だ。
そう思いたい。

12:35 啜り、隣、事件

レンゲでそっと表面をすくうと、黄金色のスープはまるで哲学者の沈黙。

ごくりと一口。

……うむ、静かに沁みる

いや、沁みるという言葉が申し訳なくなるほどの物体の無私

と、そこへ

私の右隣、ビジネスリュックを背負ったままの男性が、突然むせた。

「……ぶっ!!」

耳から汁が…そして鼻から麺が出た。

文字通り、吹き出した。

私はすぐさま自問した。

私は、何を着⭐︎丼させてしまったのだろうか。

12:37 無言の麺線

男性は黙ったまま、麺を鼻から引き抜いた。
私は見ていないふりをしたが、
どんぶりの上に静かに反射する光のゆらぎが、
彼の体内から出てきた“ラーメンの余剰”を何よりも正直に語っていた。

私のラーメンは、まだ手付かず。

だが、スープはすでに知っていた。

“お前の番も近い”と。

12:42 罪と追いスープ

私はその後も慎重に啜った。

一口ごとに、私の中の倫理と食欲が交差する。

「耳から出すほどの旨さだったのだ」

と思いたい反面

「食事は本来、そうではない」

という理性がスープの奥から湧いてくる。

そして私は気づいた。

私が食べていたのは、ラーメンではなく、世界の輪郭だったのだ。

12:53 退店(未完の決着)

食べ終えて立ち上がると、例の男性がふとこちらを見た。

鼻も耳も、もう平静を保っていた。

しかしその目は、私に向かって「それでもあなたは、もう一度この店に来ますか?」と問いかけているようだった。

私は黙って会釈し、店を出た。

食べログには「★★★☆☆」とだけ、記しておいた。

総評:

麺の味は覚えていない。

だが、この世界に麺があり、人がいる限り、事件は起こる。

そして私は再びラーメン屋に行くだろう。

「耳から出すほどのうまさ」を求めて。

それが、我々の“啜る存在”としての宿命なのだから。

このレビューを読んで、この店に行く人は注意してほしい。ラーメンは旨い。だが、人間がいる

──それだけが、この物語の“防げなかった伏線”である。

※なお、この話は全部嘘である。

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