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短編物語「そらみたことか!」

今となっては昔の話。インド北西部のパンジャブ
地方に、一匹の亀が棲んでいた。
 
亀は、しばしば池のへりに座って、鳥たちが飛ぶのを眺めていた。そうするうちに、亀は自分も飛びたくなって、どうしたらうまくいくか、いろいろと
考えてみた。それは、亀にはとても解けない、むずかしい謎だった。
 
筆者の知る限りでも、空を飛んだ亀は、昭和40年代の子どもたちのヒーローだった怪獣ガメラのほかはいない。ふつうの亀にとって、飛行術を身につけるほど困難なことはあるまいと思われるのだ。
 
さて、先ほどの亀が空を眺めつづけていると、数羽の野鴨が飛んできて、亀のすぐ近くに舞い降りた。そこで、亀は訊ねてみた。
「野鴨くん。僕は空を飛びたくて、しかたがないんだ。どうすればいいか、教えてくれないか」
野鴨たちは答えた。
「どうしようもないよ。翼がないんだから、飛ぶことなんかできやしない。君にとって一番いいのは、この池で暮らすことさ。ときどき岸に座りこんで、涼しいそよ風に吹かれ、のんびりと毎日を楽しむことだね。どうやったって飛ぶことなんかできないんだし、それを習うことだってできないんだから」
 
しかし、亀は頼みつづけた。
「飛び方を教えてくれよ」
野鴨たちは断りつづけた。
「ぜったいに無理だから、あきらめなよ」
こういうやり取りを来る日も来る日も繰り返したのち、亀はついに空を飛ぶ方法を発案し、池のそばから木の枝を拾ってきて、野鴨たちに見せながら
興奮気味に言った。
「この枝の両端をくちばしでくわえて飛んでくれれば、僕が真ん中を口でくわえる! そうすれば、僕もいっしょに飛べるわけだよ!」
すると、野鴨たちが言った。
「いい思いつきだけど、危険すぎる。もしも失敗したら、お陀仏だからね。悪いことは言わない。やめておいたほうがいいよ」
「危険なのは、百も承知さ。たとえ失敗しても、それが自業自得なのは、覚悟の上。君たちに責任はない。それほど僕は、大空に憧れているんだ」
亀の並々ならぬ決意を知り、野鴨たちはついにその願いを受けいれた。
「亀くん、ひとつだけ気をつけてもらわなくちゃならないことがある。飛んでいる間は、しっかり口を閉じておいてくれ! 口を開けたら、一巻の終わりだからね!」
 
そして野鴨たちと亀は、枝をくわえて飛びはじめた。道や牧場や野原を越え、とある村の上空まで
きた。それを見た村人たちは、なんておかしな姿をした鳥だろうと、不思議がった。彼らが喋れば喋るほど、その声は大きくなり、とうとう飛んでいる
野鴨と亀の耳にまで届いた。
「そうか! 二羽の野鴨と一匹の亀がいっしょに飛んでいるのか! 素晴らしい発明だ! 考えついたのは
いったい誰だろう!?」
 
亀は、繰り返し誉められるのを聞くと、うれしくてうれしくて、もう我慢ができなくなり、口を開けて
「僕だよ!」
と言った。
瞬時に、大地に向かって、亀は墜落していった。
空見たことか!
 
 
(詰めし技、開発し、亀だ! 飛ぶと、駄目か。失敗か。ざわ……自滅。)
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