短編物語「しつこい死神」
今となっては昔の話。スコットランドに、ローリーという名前の男がいた。田舎にある貴族の家の焚き木運びをして暮らしを立てていたが、その仕事ゆえ「小束(こたば)のローリー」と呼ばれていた。
彼は、毎日、朝早くから夜遅くまでせっせと働いたけど、自分自身とも、世の中とも、しっくりいかなかった。つまり、自分の運勢に腹を立てていたのである。
ある日のこと。ローリーは貴族の家へ行く途中で、焚き木を背中にたくさんしょって運んだものだから、すっかりくたびれてしまった。そこへ、黒っぽい服装をした男がやってきて、訊いた。
「ローリーさん、あくせく働いてますね。ほんとうに大変なことだ。朝から晩まで焚き木を運ぶばかりの毎日に、嫌になったりしませんか?」
ローリーは答えた。
「はい、仰せの通りで。とうに、くたびれていますよ。なにか、ほかの仕事でも見つかったら、ほんとうにありがたいことなんですけどね」
すると、男は、口調を変えて言った。
「実は、俺は、死神なんだ。おまえが俺に奉公すれば、医学博士にしてあげるよ。しかし、おまえが
俺をだましたら最後、すぐにでも俺のもの。すなわち、死人にならなければいけない。どうだ、分かったか?」
その言葉にうなずき、ローリーは死神と契約を取り交わした。これから先も、ずっと焚き木を運びつづけるより、人生がどこか良い方向に向かってくれればと思ったからだ。
それから死神は、ローリーに、こう教えた。
「おまえが病人のところへ行ったら、死神が病人の枕もとにいるかどうか、気をつけるんだな。枕もとにいたら、もう病人をどうすることもできない。もうすぐ死ぬんだから。だけど、もしも死神が病人の足のところにいたら、手当てをしてやることだ。
病人は助かるから」
ローリーは、死神に言われた通りにした。それで、何もかもうまくいった。ローリーが助かると告げた者はだれでも助かったし、死ぬと告げられた者は、やっぱりほんとうに死んだ。ローリーは素晴らしい博士として、名誉と富を得ていった。
あるとき、王さまが重い病気にかかって、容態が
悪くなる一方だった。王さまの使者がやってきて、ローリーはお城へ上った。ところが、中へ入り、
王さまのベッドのほうへ行ってみると、死神が王さまの頭のそばにいた。それで、もう手当をするのはよそうと思った。ところが侍従や重臣たちが、治してくれと必死に頼むものだから、なんとかしてみる気になった。
まず、ローリーは
「王さまの体の向きを変えなさい」
と言いつけた。つまり、王さまの頭のあったところへ足をもっていくように指示したのだ。まわりの者たちがそのようにしたとたん、王さまはみるみるうちに良くなった。ところがローリーには、死神が
王さまの頭のほうへ這っていくのが見えた。そこで、王さまの体の向きを元通りにするよう命じた。そんなことをしばらく続けているうちに、死神は
カンカンに怒って、部屋から出ていってしまった。
王さまの病気がすっかり治ると、ローリーは褒美の金をたくさん受けとり、城を出ていった。ところが、すこし行くと、向こうから死神がやってきた。
「さあ、捕まえたぞ」
と、死神は言った。
「なにしろ、おまえは俺との約束を守らなかったんだからな。おまえは、俺をだましたんだ。覚悟は
できているだろうな」
「まことに、おっしゃる通りで。だけど、せめて、私が最後のお祈りをするまで、殺すのを待っていただけないでしょうか」
と、ローリーは懇願した。死神は、しぶしぶ、それを許してくれた。するとローリーは、いきなりその場から駆けだし、全速力で走りながら後方の死神に
言った。
「殺されてたまるか!」
それを聞くと、死神は走り去っていくローリーに
すっかり腹を立て、なにがなんでもあいつをひっ
捕らえて殺してやると、強く自分に言い聞かせた。
さてローリーは、自分の思うように事が運び、死神の姿を見ることもなくなって、国じゅうでも評判の名医として尊敬されるようになった。そんな、ある日のこと。ローリーが街をぶらぶらしていると、学校の子どもたちが二、三人、やってくるのに出会った。彼らは、見たところ、とても元気がなさそう
だった。もともと気だてのやさしいローリーは、
子どもたちのそばへ寄って、
「きみたち、なにか心配事でもあるのかい?」
と訊いた。すると、
「おらたちは、お祈りの暗誦ができないんだ。だから先生がいつも、おらたちを叱るんだよ」
との返事。ローリーは、それを聞くと、放っておけなくなった。そして、道ばたに腰を下ろし、子どもたちをまわりに集めて、お祈りについて、やさしくていねいに教えてやった。
「どうも、ありがとう!」
礼を言いながら彼らが行ってしまったとたんに、
死神が現れた。
「こんどこそ、おまえを捕まえたぞ。もう逃げ道はないぞ」
怒りのこもった声だった。だがローリーは、言葉を返した。
「まったく、たいしたやつだ、おまえさんは。おそらく、世界中に、おまえさんのいない場所はあるまいな。噂によれば、おまえさんはビンの中に隠れていて、死人が出そうになると、そこから現れて、
仕事を続けるそうだね」
「その通りだ」
と、死神。
「それでだな。私はここに、たまたまビンを一本
持っている。入れるかどうか、やって見せてくれないか」
ローリーがそう言うと、死神はビンの中へするりと入った。するとローリーは、目にもとまらぬ早業で、栓をしっかり差しこんだのち、言った。
「そのまま、ずーっと、中に入っていな」
それからローリーは、ビンを湖に持っていき、遠く沖のほうへ投げこんでしまった。そうしてまた、
気ままに、自分の好きなように暮らした。
しばらくしてから、ビンが陸に上がり、割れた。中から死神が出てきて、町へ行き、こんどこそ、ローリーを始末した。
(死神の、危機来るかと軽く聞き、飲みか、二時。)
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