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短編物語「バレバレ裁判」

今となっては昔の話。西アフリカのナイジェリアに、一人の百姓の男がいた。
 
その男の畑には、黍(きび)のほかは何も育たず、富を蓄えることができなかった。大きな富にあこがれる男は、満たされぬ欲求のために夜中に泣くこともしばしばだった。妻をめとるのに充分な金さえも、いまだに手にしたことは一度もなかった。
 
男は、まいにち通りの向こうの、金持ちの男の暮らしぶりを眺めていたが、心は妬みでいっぱいだった。その男の世話を、四人の美しい妻たちがして
いる様子や、畑の手入れをする姿をうかがっていた。また、たくさんの子どもたちが庭で遊んだり、畑で仕事を手伝ったりしている景色をじっと見つめていた。
 
そこで貧しい男は、もしかすると、妻を手に入れるのに必要な金を貸してもらえるかもしれないと期待して、金持ちの男と友だちになろうと決心した。そうすれば、自分の暮らし向きも、だんだん良くなっていくだろうと考えたのだ。
 
貧しい男は、貯えの大部分を懐に入れて町へ行き、できるだけ奮発して、美しい衣装を買った。そして翌日、それを金持ちの男のところへ持っていって、贈った。
「あなたのお友だちになりたくて、やって参りました。どうぞ、私の贈り物を受けとってください」
金持ちの男は微笑んで、その衣装を受けとったが、通りの向こうの家を眺めて、その家がどんなに見すぼらしいかが分かると、くるりと背を向けて
言った。
「あなたのお心づかいは、せっかくのご厚意だから、お受けしておきましょう。でも、あなたのような貧しい人間は、金持ちの友だちにはなれっこありませんよ」
 
貧乏な男は、川へ行って岸辺に座り、激しく泣いた。涙が水の中へ落ちると、驚いたことに、美しい女性が姿を現した。
「おまえの涙が、私を呼び寄せたのです。私は、
川の女神。おまえの要望を叶えます。何が欲しいのですか?」
その問いかけに、男は答えた。
「ああ、女神さま。私は貧乏で、一人ぼっちで、
妻をめとるお金もないのです」
すると女神は、袋を男に渡して言った。
「さあ、この豆の入った袋を取りなさい。家に帰りついたら、袋はお金でいっぱいになっていることでしょう」
 
貧乏な男は大喜びし、女神になんども礼を言い、袋をしっかり抱いて、鼻歌まじりに家に帰ってきた。すると、豆はほんとうにお金になっていた。男は
さっそく、向かいの金持ちのところへ走っていき、うれしそうに叫んだ。
「見てください! いまの私は、あなたと同じように金持ちですよ! これで、妻をもらうことができるし、あなたともお友だちになれますよね! このお金を、倍に増やすこともできますよね!」
「ああ、それはおめでとうございます」
と金持ちは言った。
「けれど、お金を二倍にしたいのなら、わたしに任せることです。一か月後に、もういちど来てください。一人じゃなくて、二人の妻をめとるだけのお金を手に入れられますよ」
これを聞き、愚かな男は、妻を二人持てたら二倍も幸せになれると考えて、目を輝かせた。そうして、お金の入った袋を金持ちの男に渡して帰り、ひと月が経つのを、今か今かと待ちわびた。
 
そして、約束の日がきた。預けたお金を受けとりに、男は金持ちの家へ行った。ところが驚いたことに、その男は、耳も聞こえないし、口も利けなく
なっていた。その代わりに、
「バ、バ、バ、バ、バー」
と、意味不明な声を発することしかできなくなっていた。金を預けた男は、身振り手振りで対話を試みたり、ついには大声をはり上げたりもしてみたが、金持ちの男は何も分からないといった様子で、ただただ頭を振るだけだった。もはや法律の力を借りるしかないと考えた男は、金持ちを裁判所へ引っぱっていった。
 
だが裁判官も、耳も聞こえず口も利けないこの男と、意思の疎通を図ることはできなかった。そこで、聴覚障害者の手振りや声なら何でも理解できる賢い男を呼んだ。この通訳は、金持ちの男に
手振りで
「おまえは、この貧乏な男から、お金を受けとったか」
と訊ねた。すると相手は
「バ、バ、バ、バ、バー」
と答えて、手と頭を振った。そこで通訳は、裁判官のほうを向いて言った。
「この男は、あなたがバカで、能なしの裁判官だと言っています」
すると即座に
「そんなこと言わなかったよ!」
と、金持ちの男は叫んだ。この瞬間、男の聞こえ
ないふり、話せないふりは、大嘘だとバレた。
 
裁判官は笑って、原告と約束した金額を支払うよう、被告に言い渡した。そして、原告には
「愛情を通わせた一人の妻のほうが、愛情の薄くなる二人の妻よりも、ずっと素晴らしいのだよ」
と、親しみをこめて戒めた。
 
 
 
(多妻。食費を引くよ。「しいさ」だ。)
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※「しいさ」は、関西弁(とくに滋賀や奈良)で
使われる、「しなよ」の意味の語尾。
 

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