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短編物語「死の用心」

今となっては昔の話。アフリカのジンバブエという国に、ヤギとライオンがいた。
 
ある日、外を歩いていたヤギが夕立にあい、ずぶ
濡れになった。その姿を、家の窓からライオンが
見ていた。頭からも、ツノからも、ざあざあと雨が
たれている。そこで、ライオンはヤギに
「うちに入って、雨宿りをしないかね」
と、声をかけた。大きな、偉いライオンが呼んで
くれたのだ。ヤギは、ありがたいことだと思って、ライオンの家へ入れてもらった。
 
すると、ライオンは大声で言った。
「ヤギくん、座りたまえ。雨宿りのあいだ、バイオリンを弾いてあげよう」
ヤギは、ますます、ありがたいことだと思って、
椅子に腰をかけた。ライオンは、バイオリンを取りだし、手に取ると、弾きながら歌いだした。こんな歌だった。
 
♪   雨のふる日は うちにいて うちにいて
       おいしいお肉の おいでを待つさ   ♪
 
それを聴いたとたん、自分がその美味しい肉だと
分かったので、ヤギの毛は恐ろしさのあまり、
一本残らず逆立った。しかし、あわてながらも
ヤギは対策を考えた。そうして、落ちついて
言った。
「ライオンさん、いいバイオリンをお持ちです
ねえ。私にも、ちょっと弾かせてくださいま
せんか」
「もちろんだとも。さあさあ、どうぞ」
ライオンは上機嫌で、バイオリンを貸してくれた。ヤギは、それを手に取ると、弾きながら歌い
だした。こんな歌だった。
 
♪   おととい 殺した 一万匹のライオン
    きのう 殺した 一万匹のライオン
    きょうは 何匹 殺そうか   ♪
 
ライオンは、耳をピンと立てて聴いた。なんだか、おかしな具合になってきたぞと感じた。
「ヤギがライオンを殺すなんて、ほんとう
だろうか?」
そう呟きながら、首をかしげたライオンだったが、用心するに越したことはないと考え、奥さんに
声をかけた。
「おい、焚き木を取ってこい」
この雨の中を、焚き木を取りにいけと言われて、
奥さんは驚いた。それでも仕方なく出かけようと
すると、夫のライオンは、小さな声で言いそえた。
「帰ってくるなよ」
 
ヤギは、聞こえないふりをしていたが、こんどは
もっと大きく、早口で歌いだした。
 
♪   おととい 殺した 一万匹のライオン
    きのう 殺した 一万匹のライオン
    きょうは 何匹 殺そうか   ♪
 
それを聴き、ライオンは、こんどは息子に声を
かけた。
「森へ行って、母さんが何をぐずぐずしている
のか、見てこい」
そして、小声で、付けたした。
「帰ってくるなよ」
 
ヤギは、なんにも聞こえなかったふりをしていた。そして、ものすごい大声と早さで、歌いつづけた。
 
♪   おととい 殺した 一万匹のライオン
    きのう 殺した 一万匹のライオン
    きょうは 何匹 殺そうか   ♪
 
あまりにも早口でわめいたので、ヤギはへとへとにくたびれた。しかし、それでも、歌うのをやめな
かった。とうとうライオンは、恐くて恐くて、
居ても立ってもいられなくなった。
「ヤギくん、失礼。ちょっと、うちのやつらを
探しにいってくるよ。どうぞ、ゆっくり、休んで
いてくれたまえ」
そう言うと、ライオンは、大急ぎで家から出て
いってしまった。
 
ライオンの姿が見えなくなったとたん、ヤギは、
バイオリンを放りだして、一目散に逃げだした。
それからというもの、ヤギはけっしてライオンの
家の前の道を、通らなかったという。
 
 
 
(力がだ、弱いわよ。だから、勝ち。)
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