「ルール」を作るのは誰か ── 八代市庁舎建設談合事件から考える公共事業とGR
こんにちは。日本GR協会 事務局です。
代表理事の吉田雄人が毎月お届けしているメールマガジンを、 noteでもご紹介する新シリーズ「吉田雄人のGR徒然」をはじめます。
第1回となる今回は、2026年5月に明らかになった、 熊本県八代市の新庁舎建設工事をめぐる事件がテーマです。 「談合」「収賄」という報道の言葉の裏で、 GR(ガバメント・リレーションズ)に関わる私たちが 本当に考えるべきことは何なのか。 代表理事・吉田の視点から書き起こしています。
それでは、どうぞお読みください。
■仕様書を作るのは誰か―八代市庁舎建設談合事件から考えるGRの境界線―
2026年5月、熊本県八代市の新庁舎建設工事をめぐり、現職市議や建設会社役員があっせん収賄容疑で逮捕されました。特定の建設会社が作成した「評価基準案」をそのまま市側に採用させるよう議員が働きかけ、落札後には工事利益を約11億円増額するよう市の幹部に指示し、その見返りに現金6000万円を受け取った、というものです。
この事件、報道では「談合」「収賄」という刺激的な言葉で語られますが、官民連携やGRに取り組む私たちにとって本当に大事なのは、「何が一線を越えてしまったのか」を構造的に理解することだと思います。まだ収束・終息していない事件と認識していますが、この機会に振り返ってみたいと思います。
■「自分の提案が採用されやすくなるように働きかけたい」という気持ちは、誰にでもある
「自社の技術や提案が採用されやすい仕様書・評価基準にしてほしい」という気持ちそのものは、何も特別なことではありません。むしろ「自社の強みを正しく評価してもらいたい」と考えるのは、ごく自然な経営判断です。問題は、この「働きかけたい」という気持ちをどこに向けるか、です。
一つは、自社が落札できるように、自社にしかできない条件を仕様書に埋め込んでもらうという方向。これは結果として競争を歪め、最終的に「その事業が本当に解決したかった社会課題」からズレていきます。今回の事件で問題視されているのは、まさにこの形です。もう一つは、この事業が本来達成すべき目的に照らして、より良い基準にしてもらうという方向。たとえ結果的に自社が有利になる場面があったとしても、その正当性の根拠が「事業目的への合致」にある点が決定的に異なります。日本GR協会がGRを「『社会課題解決のための』政治行政との関係構築の手法」と定義しているのは、まさにこの違いを強調するためです。
なお最近では、民間事業者が行政に対して技術的な提案や市場動向の情報を事前に提供することは広く行われています。サウンディング型市場調査や意見招請プロセス(RFO:Request For Opinion)、対話型の事業者選定など、民間の知見を仕様書作りに活かす制度は、むしろ官民連携を進める上で自治体側も積極的に活用すべき手法です。
■「議員にお願いすること」自体は、ダメではない
今回の事件を踏まえて「議員に物事をお願いすること自体が良くない」と捉えてしまうのは、行き過ぎた反応です。地域課題の解決のために、議員に状況を説明し、政策提案を行い、必要な制度改正を働きかけることは、民主主義のプロセスの中で正当に認められた行為です。
ただし、ここで一つだけ、絶対に譲ってはいけない線があります。それは、お願いや働きかけの見返りに、金銭やそれに類するものを求められても、毅然として断る、という姿勢です。
今回の事件は、この一線が破られたケースでした。提案や働きかけそのものは正当な行為であっても、それが「見返り」を伴った瞬間に、関係性の性質は一変します。GRはあくまで公益のための関係構築であり、私的な利益供与とは似て非なるものです。
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