マーケも営業も正しいことをしている。それでも受注は増えない

マーケは「今月も目標MQL数を達成した」と言う。営業は「今月も商談を精力的にこなした」と言う。どちらも嘘ではない。だが受注は増えない。

この状況の本質は、どちらかが「悪い」のではない。両者の間に「誰も所有していない空白」があることだ。

結論を先に書く。マーケが「リード数」、営業が「成約数」をそれぞれの指標として追いかける構造では、MQLからSQLへの転換——つまりパイプラインの核心部分——を誰も責任をもって管理しない。Gartner(2024年、412名の上級リーダー対象)の調査では、マーケと営業が共同で取り組んでいる商業活動は15項目中わずか3項目だった。80%の重要な商業活動に、どちらかの部門の関与が欠けている。


「中間」を誰も持っていない

BtoB企業のマーケ部門は多くの場合、リード数・MQL数・CPL(リード獲得単価)を報告する。営業部門は商談数・成約率・平均受注額を報告する。

問題は「報告の間」にある。

MQLが営業に渡った後、どうなったか——この質問に即答できるマーケターは少ない。Forresterによれば、マーケが生成したリードの最大80%が、営業から一度もフォローアップを受けないまま消える。一方で、73%のBtoB企業がマーケと営業の間にSLA(サービスレベルアグリーメント)を持っていないという(HubSpot 2025)。

SLAがなければ「誰がいつまでに何をする」という合意がない。リードが熟成する前に冷え、フォローが遅れ、誰も責任を取らない。この「中間の空白」が、受注を静かに侵食している——そう考えると、多くの組織で感じる「なんとなく詰まっている感」の正体が見えてくるのではないだろうか。

協働の構造的限界: 15項目中3つ

Gartnerの2024年調査では、マーケと営業が共同で取り組んでいる商業活動は15項目中わずか3項目だった。バイヤージャーニーのマッピングを共同で行っているのは全体の17%のみ。60%は共有されたバイヤーインサイト自体を持っていない。

さらに、90%のマーケ・営業のエグゼクティブが「互いの優先事項が衝突している」と回答した。

この数字が示すのは、アライメント(連携)の失敗ではなく、アライメントの設計自体が最初から存在しない会社が多いという実態だ。

マーケは「どのリードを営業に渡すか」を一方的に定義し、営業は「このリードは使えない」と別の基準で判断する。49%のチーフセールスオフィサーが「マーケと営業でリードの定義が大幅に異なる」と報告している(Gartner 2025)。

購買委員会という「見えない壁」

問題はリード品質だけではない。BtoBの購買プロセス自体が多層化している。

Forresterの2025年 Buyers' Journey Survey では、BtoB購買の平均関与人数は内部13名+外部9名。13人の社内意思決定者が関わる購買で、マーケがカバーしているのは多くの場合「問い合わせをした窓口担当者」一人だけだ。営業もチャンピオン(担当窓口)としか関係を築いていないケースが多い。

そのチャンピオンが最終承認会議に一人で乗り込み、残り12人の意思決定者に説明する。彼らは情報不足のまま決断を迫られ、リスクを感じ、「今は時期ではない」と言う——これが"no decision"(無決定)だ。

40〜60%の適格パイプラインが、競合他社ではなく「無決定」で終わる(Forrester/6sense)。競合製品に負けているのではなく、買い手が社内で合意形成できずに止まっている——このパターンは、思いのほか多くのBtoB組織に当てはまる可能性があるのではないだろうか。

C-suiteは「連携している」と信じている

Forresterの2024年調査で際立つのが認識のギャップだ。C-levelの82%が「マーケと営業は効果的に連携している」と答えている。一方で、実際に現場で働く人々の65%が「連携不足を経験している」と報告する。

経営層が「うちは大丈夫」と思っている間に、現場では毎月リードが漏れ、商談が止まり、パイプラインが積み上がらない。この認識の乖離は、問題の修正を遅らせる構造的な要因になり得るだろう。

Strong alignment(強い連携)を達成しているのは、調査対象企業のうちわずか8%(Brainstorm Club 2025)。つまり92%の企業が何らかの形でこの問題の中にいると推察できる。

では何を変えるべきか

問題の構造が分かれば、解決策は自ずと絞られる。

① 「中間」の責任者を定義するSLA

MQLが営業に渡った後、何営業日以内にファーストタッチをするか、フォローアップが完了しない場合の扱いはどうするか——これをSLAとして文書化する。HubSpotの2025年調査では、SLAを持つ企業は持たない企業より34%高い収益達成率を報告している。

② 共通のパイプライン指標で会話する

マーケはMQL数、営業は成約数ではなく、両者が「パイプライン貢献額(Pipeline Sourced)」という同じ数字で会話する。マーケが生み出した商談機会が最終的にいくら受注につながったかを追跡することで、初めて「マーケの投資対効果」が営業にも見える形になる。

③ 購買委員会全体をカバーするコンテンツ

チャンピオン一人に最適化したコンテンツ(デモ・提案書)だけでなく、IT部門・財務・法務・経営層それぞれが「自分にとって何が変わるのか」を理解できる情報を届ける設計が必要だ。バイヤーシグナル(Buyer Signal)——具体的には競合比較ページへのアクセス、複数部門からのサイト閲覧——を検知し、購買委員会が「動き始めた瞬間」を捉える。

多くのBtoB組織では、マーケと営業がそれぞれ孤立した「正しさ」を持つ限り、受注は増えない。収益は誰も所有していない空白で失われ続ける——このことに組織として気づき、設計を変えた会社が次の一手を打てるのではないだろうか。

出典


・Gartner, "Marketing and Sales Functions Collaborate on Only Three Out of 15 Commercial Activities," 2024年6月(412名の上級リーダー対象調査)
・Gartner Newsroom, "84% of Marketers Report Experiencing High Collaboration Drag," 2024年5月
・Forrester, "The Truth About B2B Sales and Marketing Alignment," 2024
・Forrester, Buyers' Journey Survey, 2025(平均BtoB購買関与者: 内部13名+外部9名)
・Forrester, State of Business Buying, 2024
・HubSpot, State of Marketing Report, 2025
・6sense / Matthew Dixon, "Sellers Are Losing Up to 60% of Pipeline to No Decision," 2025
・Brainstorm Club, "33 Sales & Marketing Alignment Statistics," 2025

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