CEOは売上で評価し、CMOは認知で評価する。営業がマーケを信じない理由

「で、売上は?」

理由は単純だ。マーケが報告する数字と、営業が直面している現実が接続されていない。McKinseyの2025年調査では、CEOの70%が「マーケの成果を収益成長で評価する」と答えているが、同じ基準で自分たちを測っているCMOは35%にとどまる。この35ポイントの乖離が、営業部長の不信感の構造的な根拠だ。

マーケは「MQL(Marketing Qualified Lead)を何件創出したか」で報告し、経営は「で、いくら売れたのか」を聞いている。この断絶が、CMO平均在任期間4.3年(Spencer Stuart, 2024)というC-suite最短の数字に表れている。Gartnerの2024年調査では、CMOの47%が「マーケティングは戦略投資ではなく経費として扱われている」と回答した。

前回の「リードの墓場」では、営業がMQLの70%を無視する構造と、その処方箋を書いた。そのうちの一つが「MQL数ではなく、パイプライン貢献額で会話する」だった。この記事では、その具体的な指標 —— Pipeline Sourced / Pipeline Influenced —— の定義、計測方法、ベンチマーク、実装までを深掘りする。

Pipeline Sourced / Pipeline Influenced —— 正確な定義

Pedowitz Groupが提唱するこの2つの指標は、それぞれ異なるものを測っている。

Pipeline Sourced(マーケ起点パイプライン)は、マーケティングが最初のタッチポイントとなって創出したパイプラインの金額だ。見込み客が営業の視界に入る前に、マーケティングが「ホワイトスペース」から発掘した案件が対象になる。展示会での初接触、コンテンツ経由のインバウンド問い合わせ、広告クリックからのデモリクエストなど。CRM上では、Opportunityレコードの「Lead Source」フィールドがマーケティングチャネルになっているかどうかで判定する。アトリビューションモデルはファーストタッチ。最初にその見込み客をデータベースに連れてきたチャネルが、100%のクレジットを得る(Leadspace / Pedowitz Group)。

計算式: Marketing Sourced Pipeline % = マーケ起点パイプライン金額 / パイプライン総額 × 100

Pipeline Influenced(マーケ加速パイプライン)は、営業やパートナーが起点で作った案件に対して、マーケティングが途中から関与して購買プロセスを加速したパイプラインの金額だ。アトリビューションモデルはマルチタッチ。リニア(全タッチに均等配分)、タイムディケイ(成約に近いタッチほど加重)、W型(ファーストタッチ・リード転換・商談化の3点に重点配分)などが使われる(Pedowitz Group / Forrester)。

計算式: Marketing Influenced Pipeline % = マーケ関与パイプライン金額 / パイプライン総額 × 100

Jeff Pedowitzは著書「F the Funnel」(Forbes Books, 2021)で、マーケティング部門は「コストセンターから、経営における恒久的な席を持つレベニューセンターに変革しなければならない」と書いた。その変革の起点は「マーケと営業のアラインメントの会話を、MQLの定義から収益アウトカムに移すこと」だ。

重要なのは、SourcedとInfluencedは排他的ではないということだ。両者を一つの数字に合算してはいけない。合算するとダブルカウントになり、CFOに即座に見破られる。Pedowitz Groupは「SourcedとInfluencedは常に別のメトリクスとして並べて報告せよ。Sourcedは需要創出力を、Influencedはディール内の加速力を測っている。目的が違う」と明示している。

セグメント別ベンチマーク —— 「何%なら合格」は一律ではない

「Pipeline Sourcedは何%あればいいのか」。この質問に対する答えは、自社のGTM(Go-To-Market)モデルによって大きく変わる。

SiriusDecisions(現Forrester)が2013年に発表したモデルは、BtoB企業のGTMタイプ別に明確なベンチマークを示している。

ダイレクトエンタープライズ営業型(大企業向けフィールドセールス主体): Sourced ~10% / Influenced 75%超。営業が既存リレーションで案件を作る。マーケの役割は「発掘」ではなく「加速」。

インサイドコマーシャル型(従業員100-1,000名の中堅企業向けインサイドセールス主体): Sourced 15-25% / Influenced 60-75%

SMB / チャネル型(小規模企業向け、パートナー経由含む): Sourced 30-45% / Influenced 50-60%。ハイベロシティ営業モデルで、マーケが需要創出の主役。

案件単価でも変わる。ASP(平均販売単価)が$50K以下の企業ではマーケ起点比率が59%に達するが、$50K超では47%に下がる。Pedowitz Groupの2026年ベンチマークでは、Stage 4(Revenue Marketing段階)に到達した組織でSourcedが40-55%、成約案件の80-90%にマーケティングタッチが紐付いている。Stage 4に到達しているB2B企業はわずか16-20%だが、74%が「パイプラインまたは収益を主要指標にしている」と自称している。自己認識と実態のギャップは大きい。

Dave Kellogg(Kellblog)は、$50M規模のエンタープライズSaaSにおけるパイプラインの4つのソースと推奨配分をこう示した。マーケティング/インバウンド 60%(±10%)、SDR/アウトバウンド 10%、アライアンス/パートナー 20%、セールス/アウトバウンド 10%。ただしKelloggは、割合ではなく絶対数(ソース別のOpportunity件数)で目標を設定すべきだと強調している。

Sourcedだけでは足りない —— Forresterの警告

Pipeline Sourcedへの過度な依存は、逆にマーケティングの評価を歪めるリスクがある。Forresterの Ross Graber(VP, Principal Analyst)は、この指標に対する見方を段階的に厳しくしてきた。

2016年: Sourcedだけでなく、Influencedとのバランスを。当時Sourcedを追跡していた企業は70%、Influencedは48%(2013年から65%増加)。

2019年: Sourcedのトラッキング率は47%に低下。バイインググループ6名以上、マーケティングインタラクション30回以上が発生する環境では、ファーストタッチ1点にクレジットを帰属させること自体が非現実的だと指摘。

2022年: 「Sourcingメトリクスを捨てるときが来た」と宣言。高いSourced比率と高い成約率・案件単価・コスト効率との間に相関は見つからなかった。同僚のBrett Kahnkeは、B2B収益の75%は既存顧客からの拡大であり、マーケ起点の比率は構造的に10%未満になると指摘。「Sourcingは、CMOをクビにするために作られた指標だ」と書いた。

Forresterが代替として提唱しているのがRevenue Liftだ。ベースライン: 成約率20%・案件単価$50K。マーケティングインタラクションが8回以上に達した場合: 成約率25%・案件単価$60K。結果、Opportunity1件あたりの収益が50%増加する。この差分がマーケティングの「リフト」だ。Forresterの予測では、Sourcedを追跡する企業は2025年には14%まで下がる。

Pedowitz Groupの答えは明確だ。「Sourcedだけでは需要創出以外のインパクトを過小評価する。Influencedだけでは低価値のタッチを過大評価する。両方を一つのスコアカードで追跡すべきだ」。

計測のガバナンス —— 「何をタッチと呼ぶか」を決める

Pipeline Influencedの計測で最も危険なのは、定義の曖昧さだ。Influ2は「広告クリック1回以上、または15日以内にインプレッション15回以上」を基準とし、この水準に達したアカウントはコンバージョンが80-100%高い(60万件以上のアカウントを3年間分析)。逆に、ウェビナーに登録しただけ、メールを受信しただけ —— こうした低シグナルを「タッチ」に含めると、Influencedの数字は膨張し、信頼性が崩壊する。

Pedowitz Groupは計測ガバナンスの4要素を提示している。(1) Qualifying Touch Rulesを文書化しマーケ・営業・ファイナンスの合意を得る。(2) CRM上のContact-to-Opportunity紐付けの精度を担保する。(3) アトリビューションモデルを一つに統一する。(4) ダッシュボードにSourced + Influencedの重複ビューを公開する。「混同して報告すると、信頼性は瞬時に崩壊する」。

アトリビューション・ウィンドウと実装ステップ

実務上のウィンドウの目安は平均セールスサイクルの1.5倍。Salesforceの場合、Campaign InfluenceのContact Role設定が必須で、これが機能しないと計測全体が破綻する。HubSpotはMarketing Hub Enterpriseで8つのアトリビューションモデルが使えるが、Influenced Pipelineのネイティブレポートは存在せず、カスタム設計が必要だ。クリーンなデータが蓄積されCFOレベルのレポートが信頼に足るようになるまで最低90日。エンタープライズでは6-9ヶ月は見ておくべきだ。

事例 —— 切り替えた企業で何が起きたか

Reltio(データ統合プラットフォーム、平均セールスサイクル9ヶ月)は、MQLベースからOpportunity中心のバイインググループ戦略に移行した。移行前のMQL→Closed-Won転換率はわずか1%。移行後は「Stage 0 Opportunity」を先行作成し、バイインググループの3名以上を特定・エンゲージ・検証してからでなければ次ステージに進めない仕組みにした。結果、パイプラインの進行スピードが24%高速化し、Closed-Lost(失注)が50%減少。「アトリビューション戦争」がなくなった。

Demandbaseは、AI SDRを導入した最初の2ヶ月でPipeline Sourcedが2倍、ターゲットアカウントからのミーティング獲得が2倍、月間工数を100時間以上削減し、$80Kの節約を実現した。

米国では、SiriusDecisionsのDemand Waterfallを設計した本人がMQLの解体を訴え、ForresterはSourcedの先にあるRevenue Liftを提唱し始めている。Pipeline Sourced / Influencedは「MQLの次」の指標であると同時に、すでに「その先」への移行も始まっている。日本ではまだ、SourcedとInfluencedの定義すら体系的に語られていない。このギャップは、裏を返せば巨大な伸びしろだ。

この記事が参考になったら「スキ」を押していただけると励みになります。BtoBマーケの最前線を発信中。フォローして次回もぜひチェックしてください。

#マーケティング #BtoB #パイプライン #デマンドジェネレーション #SaaS📚 関連記事: 本記事で引用した英語一次文献をすべて収録
https://note.com/grand_clover4572/n/nf6ca7a10f798

――――――

なぜファネルもMQLもスコアリングも、同時に効かなくなったのか。その答えを一冊にまとめました。

『MQLはもう効かない——BtoB購買がチーム戦になった時代のマーケティング再設計』。ファネル・MQL・リードスコアリングが効かなくなった構造を、Gartner・Forrester等の一次データで診断した21章+付録の一冊です。

Amazonで見る →

この記事が役に立ったら、スキを押していってもらえると、次にどのテーマを掘るかの判断材料になります。

BtoB Marketing Labでは、米国BtoBマーケの最前線と、それを日本の現場で試すとどうなるかを書いています。フォローしておくと、次の記事が届きます。

いいなと思ったら応援しよう!