見出し画像

【オマージュ短編】今日も春の雨が

こちらは大好きなnoterさんでいらっしゃる、四四田鹿辰/奥津雨龍|noteさんのお話、『春の風』のオマージュ作品です。
設定をお借りして書いております。

いえ、控えめに言いました。
まるっと影響されて書いております!!!


いや、ちょっと聞いてもらっていいですか。

素敵すぎるんです四四田さんのお話。


落ち着いて話しましょう。(TO自分)

先日、大好きな四四田さんが短編を投稿されておりました。

それがもう、なんというかすごく刺さってしまいまして…。
いやいつもどの記事も素敵ですし、ストーカーばりにほぼ全記事にリアクションしております。
(四四田さん、いつも重くてすみません)

でもこのお話はね…なんかど真ん中だったんですよ…
特に最後のセリフがね!!!

もう説明とかできないんで(おい)、いいからちょっとみんなこれ読んできて!!


せ、切なくない…??
執着ってこんな美しく表現できるものなの…?(衝撃)

すっかり心奪われてしまい、四四田さんに続編を熱望しているところなのですが。


気づいたら自分でも書いてました。



「私もこの設定で書いてみたい!」という衝動が抑えられず、初めて書いたオマージュ作品。

書いている間、四四田さんのお話がずっと頭のなかにあって、書いているのと同時に読んでいるような、私にとっては今までにない創作時間。

とても、とても楽しい時間でした。

作品として成立しているのかはあまり自信がないですが、、、
大好きなお話と少しでもつながれていたら嬉しいな、と思います。

四四田さん、投稿にご快諾いただきありがとうございました!
あのお話がなければ生まれなかった作品です。
この作品に出会わせてくださって、とても感謝しております。

そしてこれからも、素敵な記事のご投稿、めちゃくちゃ楽しみにしております!!
(『春の風』の続編も、もちろん…!!)

それでは、以下本編です。

*********************************************************************************

タイトル:今日も春の雨が



 始まりは何だったろう。
 カーテンを透かして届く淡い朝の気配。無防備な寝姿をぼんやりと眺めながら、そんなことを思う。
 艷やかな細い髪。ふれればさらさらと流れて、指に心地良い。
 髪から耳に、頬に、顎にと指を滑らせる。爪が唇にふれたところで、ゆっくりと瞼が開いた。
「…なに」
 掠れた声には不満と愉悦が同居して、耳と心をくすぐる。もう少し寝たい、とシーツを被ろうとするのを制して唇を重ねると、濡れた瞳が笑う。
「…寝たいって言ってるのに」
 許す口調。呆れたように、困ったように。優しく、柔らかく、…その奥でかすかに、寂しさが揺れる。受け入れる痛みに、震えるように。
 抱きしめれば黙って目を閉じる。その瞼に唇を落としながら、湧き上がる心の声を聞く。
 やっと捕まえた。もう、離さない。

 音もなく、春の雨が降り始める。

 この関係の始まりも、雨の降る春の日だった。
 春の終わりの雨は嫌いだ。しとしととまとわりつくようで鬱陶しい。何もかもが霞んで、いつの間にか水が浸み込んでくるような気がする。気づかないうちに、普段は大切にしまってあるものまで濡れてしまうような。…心の奥の、自分でも忘れていたところまで、音もなく浸み込んでいくような。
 そんな気がするから、春の終わりの雨は嫌いなのだ。
 その日は出先で降られてしまい、仕方なく喫茶店の軒下に佇んだ。店に入ろうか悩んでいたところで、同じように雨を避けて辿り着いた彼に出逢った。
 目が合った瞬間、見つけたと思った。
 見つけた。ようやく。…ずっと、探していたんだ。
「…なにか?」
 凝視する俺に戸惑うように、彼はわずかに眉を寄せた。瞳が揺れている。
 ああそうだ。この瞳。あの時もそうだった。
「すみません、知り合いに似ていたので。人違いでした」
 白々しい言い訳にも、彼は微かに笑ってみせた。軒先を濡らす雨の音は聞こえない。春の、浸み込むような雨。あの時と同じ。
「やみそうにないですね」
 そうですね、と戸惑いが滲む返事。警戒には至らない、わずかに面倒に思う気持ちが潜む声。
「良かったら入っていきませんか。やむかわからないけど、しばらく」
「…ナンパですか?」
 男ですけど、と小さく笑って、彼は空を見る。
「雨がやむかどうかって、どうやってわかるんでしょうね。雨宿りって苦手で」
 思いがけず言葉を継いで、彼は真っ直ぐに俺を見た。
「初めてかも。雨宿りに店に入る、って」
 そうやって、この関係は始まった。

 彼は瑞希と名乗った。初めて知った、彼の名前。
 俺はハルと名乗った。名前なら春樹だけど、ハルのほうがいい。あの時、彼はそう呼んだから。
「え、7つも下なのか…」
 困ったように笑った顔が、兄のような優しさを帯びるのがもどかしかった。俺が望むのはそんな関係じゃない。人間同士が距離を縮めていくというのは、なんてもどかしくてじれったいんだろう。言葉が通じるはずなのに、なぜこの想いは伝わらないんだろう?
 焦れて詰め寄る俺に、瑞希はいつも戸惑うように笑った。
 俺といて何が楽しいの?
 なんでそんなに、俺といたがるの?
 わかんないよ、ハル。俺に何をしてほしいの?
 そう言われる度に心が裂けそうだった。こんなに待ったのに。ようやく見つけたのに。今、こんなにも近くにいるのに。
 出逢うだけじゃダメだなんて思わなかった。出逢えさえすれば、叶うと思っていたのに。

 瑞希が「折れた」のは、冬を迎えた頃だった。俺を思い出さない瞳で、俺の居場所がない心のまま、瑞希は困ったように笑って、俺の存在を許した。
 例えそれが年長者の優しさでしかなくても、とうに砕け散っていた俺の心には充分だった。二度と離れたくない。いつでもこの手が届く場所に。それさえ、叶うなら。

「なんでいつも、そんなに泣きそうなの?」
 そう言った瑞希のほうが泣きそうだったはずだ。俺にはその理由がわからなくて、答えられなくてとても困った。
「俺にどうしてほしいの、ハル。ここにいるだけじゃ、君は満足してないみたいだ」
 そんなことはない。だって瑞希は、俺が望めばいつでも傍にいさせてくれる。手を伸ばせばふれられる近さに、いつも置いてくれる。
 許されさえすれば、ふれられる距離に。すぐ傍に。だから、それだけで…
「…むりだ。どうしても、瑞希にふれたい」
 絞り出した言葉に、瑞希の瞳が大きく揺れた。驚きと、恐怖と、諦めが混ざり合う瞳。
 言われてしまったと、その瞳が言っている。…もう、引き返すことはできない。
「お願いだ瑞希、俺に許して。…ふれてもいいと言ってくれ」
 ああ、言ってしまった。もう戻ることはできない。弟のように愛しむ存在として傍にいることは、もうできない。
 失ってしまうかもしれない。また長い長い時を、ひとりで過ごす。次にまた、逢える時まで。
 次。
 その言葉が心を刺す。痛みで息ができない。
 次なんてあるのだろうか。あったとしても、また同じなんじゃないか。今までみたいに、何度だって、俺は瑞希を、彼を、あの子を、君を求めるのに。君はいつも、君の心にはいつだって俺は、
 …ならいっそもう、出逢わなければ…、
「いいよハル。君がそれを望むなら」
 意味を理解するのに時間がかかった。言葉のない俺に、瑞希はふわりと笑って手を伸ばした。
 俺の頬にふれる指先。そのまま包み込むように、手のひらの熱が伝わる。眇められた瞳が近づいて、額がぶつかる。
 ふれている。瑞希の肌に。
「いいよ、ハル。…おいで」
 その言葉に引かれるように、手を伸ばした。

「ずっとこうしたかった」
 言い募る俺に、瑞希は目を閉じたまま小さく笑う。伝わっていない気がして、もどかしさに心が灼かれる。…こうしてふれていてもまだ、心が裂けそうだなんて。
 いったいどうしたら、俺の心は瑞希を捕まえたと思えるんだろう。
「…わかってるよ、ハル。大丈夫だから」
 眠りに落ちようとする瑞希にキスを降らせる。彼が寝てしまうことが怖い。今のこの状況が、夢のように消えてしまいそうで。
 そんな俺の焦りに気づかないように、瑞希は唇に微笑を浮かべたまま深く息を吐く。
 寝てしまう。…消えてしまう。
「瑞希」
「…大丈夫だよ、ハル。もうなんの心配もいらない。ここにいるから」
「瑞希」
「…いつもそうやって君は…泣きそうな顔をして…」
 声が小さくなっていく。眠りが彼を捕まえる。俺から、彼を連れて行ってしまう。そんな不安から逃れられない。
「…みずき、」
「だいじょうぶだよ…もうどこにもいかなくていい…やっと…きみを、…」
「みずき?」
「いっただろう、つぎは…」
 俺のものになる、って。
「…え?」
 訊き返したけれど、瑞希はもう答えなかった。かすかな寝息。
  言っただろう、ハル。次に逢う時は…
「瑞希?」
 春の雨が音もなく降っている。カーテンを透かして、雨の気配だけが、ゆっくりと部屋を満たしていく。


 その身体で出逢った時、自分の命がもう長くないことを、俺はなんとなくわかっていた。だから『彼』を見た時、真っ先に心を占めたのは静かな絶望だったのだ。
 ああ、遅すぎた。今回もまた、離れてしまう。
「その子、元気ないの?」
 『彼』は俺を見てそう言った。『彼』の友人、俺の主人である少年に。
「うん。もう、おじいちゃんだから」
 主人は寂しそうに笑って、俺の頭を撫でた。
 俺はその手が好きだった。この人と過ごした時間、この人に愛おしんでもらえた時間、俺はとても幸せだった。
 それでも『彼』を見た瞬間、心が灼けるのを感じた。
 見つけた。見つけた。…ずっと待っていたのは、ずっと求めていたのは…
「…そうなんだ。おじいちゃん、なんだね」
 ああ、見つけたのに。ようやく出逢えたのに。俺はもうすぐ去らなければ。また君を置いて。またふたりの間に、長い長い時が横たわる。
 いったい何度、こうやって別れなければならないのだろう。
「なまえは?」
 『彼』は真っ直ぐに俺を見ながら訊いた。俺はただ小さく鳴く。
 ああ、答えられたら。言葉で通じあえたら。
 待っていたと、探していたと、伝えられたら。
「ハルだよ。…春に、ここにきたんだ」
 俺の代わりに、主人の柔らかな声が答える。『彼』は「そう」と小さな声で呟き、俺と目線を合わせた。
 揺れる瞳。澄んだその奥に、いつも少しだけ寂しさが揺れている、美しい瞳。いつ以来だろう。この瞳が俺を映すのは。この前に出逢った時、『彼』は、『俺』は…
「…ハル」
 『彼』がそっと呼んだ、俺の名前。その響きを、どうしても忘れることができない。


 『彼』に出逢った時、僕は小さな男の子だった。『彼』は大好きな友達の家で、とても大切にされていた。
 もうおじいちゃんだから。友達はそう言って、お日さまが暖かい、綺麗な庭がよく見える部屋で、『彼』を愛しそうに撫でていた。
 濡れた瞳は真っ直ぐに僕を映して、何か言いたそうに見えた。僕はその言葉を聞いてみたくて少し待ったけれど、『彼』は何も言わず、瞳を揺らすだけだった。
 ああ、話すことができたら。今何を思っているのか、『彼』の言葉で聞けたら。
 名前を訊くと、友達はハルだと教えてくれた。優しい季節。柔らかい季節。…出会いと、別れの季節。
 僕はそっと『彼』の名前を呼んだ。伝わることを、願いながら。
 『彼』がどう思ったのかはわからない。ただその瞳が、大きく揺れたような気がして。
 どうしても、その瞳が忘れられなくて。
 だから言った。友達が少しだけ席を外した、ほんの一瞬。世界が、僕と『彼』だけのように思えた、あの一瞬に。
「ハル。ねぇ、今度また逢えたら、そのときは…」
 僕のものに、なって。


 その身体で出逢った時、僕はぼんやりと、「これじゃだめだ」と思った。これじゃあ、『彼』はきっと気づかない。
 でも本当は、こうやって出逢うのは初めてじゃなかった。『彼』が気づかない姿で、僕は何度も、『彼』の前に現れていたから。
 何度も、何度も。
 僕が目の前に降り立つと、『彼』は一瞬だけちらりと目線を向けて、すぐに興味を失った。
 ああ、また。君は僕に気づかない。
 濡れた黒い瞳で、『彼』は遠くを見つめている。待っているのだ、と思った。あまりにも小さな僕の胸は、突かれたように鋭く痛む。
 『彼』は待っている。探している。僕を。『彼』の、『あの子』を。
 ねぇ、ここにいるよ。
 僕は囁く。届くことを願いながら。けれど濡れた瞳はうるさそうに細められるだけだ。
 ねぇ気づいて。ここにいる。君の僕は、ちゃんと会いにきたよ。…君にまた、会いにきたよ。
 うるさそうに、君はついに瞳を閉じる。僕の小さな胸が、潰れそうに痛む。
 ああ、またこうして別れるしかない。君の瞳に映ることができないまま、僕の小さすぎる身体は、きっとすぐに…
 …ねぇ、今度逢う時には、きっと僕に気づいて。


 私が『彼女』を見つけたのは、主人の婚姻の儀だった。『彼女』は花嫁衣装に身を包み、妻として我が主人と添い遂げることを誓った。
 闇よりも暗い絶望が心に満ちる。なぜ、と。なぜよりにもよって、こんな形で出逢ってしまう。これならいっそ、出逢えないほうが良かった。
 海よりも深く忠誠を誓った主人。この心すべてで仕えるという誓いは本心だったのに、親よりもこの命よりも大切な方だと、お仕えできる幸せに感謝したのは嘘じゃないのに。なのになぜ、唯一譲れないものを奪っていくのがあなたなのか。
 『彼女』は私をちらと見て、すぐに夫となる主人に視線を移す。『彼女』にとっては当然のその態度に、心は裂けて灼け落ちる。
 私を映さない瞳。その瞳と見つめ合うことだけを願って、長い長い時を待った。今度こそ。今度こそ、と。それなのになぜ。
 崩れていく。私の心が、私の世界が。こんなことなら、こんなことなら、出逢えないほうが良かったのに。
 ああ、それでも。盃を交わすふたり、愛しさで溢れた主人の笑顔、その顔を真っ直ぐに見つめる『彼女』の瞳。そのすべてから、どうしても目を逸らすことができない。
 なぜだろう。私はいつになったら、君を捕まえることができる。なぜこんなにも、君はこの手から遠い。
 穏やかなざわめきに満ちた式場の外では、意地の悪い雨が花を打つ。


 わたしはここで、ずっとあなたを見ていた。
 あなたは気づかない。気づくわけがなかった。わたしはあまりに小さく、たくさんの仲間に囲まれて、あなたからは遠くにいた。
 それでもわたしはいつも見ていた。短すぎるこの命がある間だけでも、その姿を焼きつけておきたくて。
 ああ、目というものがないこの身体でも、脳というものがないこの身体でも、わたしはあなたを見、あなたを想うことができる。
 それはどんなものでもそうなのだろうか。想いを向ける相手がいれば、心と呼べるものは、何にでも宿るものなのだろうか。
 どんな姿でも、どこにいても、わたしはこうしてあなたを見ている。あなたを想っている。それはきっと、わたしが存在する理由そのものなのだろう。あなたに出逢うためだけに、わたしは何度でもあなたの傍に生まれてくる。
 あなたが気づかなくても。その瞳に、わたしが映ることはなくても。
 今日もあなたは、愛するご主人のために窓を開け、庭を清め、家を整える。あの方があなたのすべてであることを、わたしは知っている。
 ほら、あなたが庭にやってくる。わたしは小さな身体を精一杯伸ばして、あなたの顔を見ようとする。ああ、その瞳。いつも何かを探して遠くを見つめる、苦しさを奥に秘めた瞳。
 わたしは知っている。あなたが待っているもの。探しているもの。それはこんなにもあなたの傍にあるのに、あなたは今回も気づかない。
 気づくわけがない。だって今のわたしは…
「ああ、綺麗に咲いている」
 あなたは嬉しそうに笑う。ご主人が好むものを、あなたは本当によくわかっているのだ。あなたの頭は今、あの方の笑顔を思い描くことでいっぱい。
 綺麗な手が伸びてくる。長い指。爪の色は、咲き誇る桜にそっくりだ。
 その指がそっと、わたしにふれる。わたしは心のなかで、小さく呟く。ねぇ、今度逢う時には。
 どうか手折るのではなく、抱きしめてちょうだい。


 雨が降っている。
 音もなく、すべてを包み、覆い隠すように。大事にしまってあったものにまで、いつの間にか浸み込んでしまうような雨。この記憶までも、いつかこの雨に霞んで、消えてしまうのだろうか。
 君を、あなたを、おまえを、彼を、彼女を、あの人を。俺は、僕は、わたしは、いつか。この、雨のなかで。
 
 今日もまた、春は雨に濡れている。
 …始まりは、『何』だったのだろう。



********************************************************************************
四四田さんが素敵すぎる感想記事を書いてくださいました!!!
作品を解説していただくってモダモダしちゃいますね…😖✨
嬉しい…

自分が書いたものが読んでいただいたその先で、次なる美しい物語の発生につながっていく、ってなんだかこれ自体が輪廻転生そのもののようで、震えますね。

四四田鹿辰/奥津雨龍さん『輪廻する魂は恋人たちの夢を見るか』

え…??
そんな感想あります…??
こんな、こんなわたしを泣かせるためみたいな感想!!あります!!??(興奮)

落ち着きましょう。
このわたしの短編自体がだいぶストーカーじみているので、これ以上は自粛。とにかく伝えたいのはこれだけ。といっても、コメント含め何度も書いているのでうるさくてすみません。

四四田さん、ありがとうございました!!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集