【企画SS#片想い文芸部】思い出を曲にのせて(アポロ)
(約2,000字)
「目的はグループガバナンスの強化です。規程や業務フローの改定が現場の負担になることは承知のうえで、それでも取組むという決定だったはず。ならば今必要なのは計画の中止ではなく、現場の混乱回避策では?」
強い言葉には怒りが滲んでいる。この人が感情を見せるのは珍しい。
「ご意見はごもっともですが、こちらでも現状評価を踏まえて検討した結果ですので……」
経営企画部の返答に、木戸さんが唇を噛む。見ているだけで胸がぎゅっと痛むような表情。
ちらりと木戸さんに視線をやって、香山さんが重い沈黙を破った。
「貴部の方針はわかりました。部内で共有いたします」
「まさかちゃぶ台返してくるとは……」
部内のミーティングスペース。机に突っ伏すようにして、香山さんが身体中から息を吐く。
「どうします、木戸さん」
「……まずは上に報告ですが……」
「天下の経営企画部サマですからね。あれは相談じゃなくて通告。その方針に、部長役員がモノ申すかと言うと……」
望みは薄い。そう呟くように言って、香山さんはふう、と手元の資料に視線を落とした。
「プロジェクトは頓挫、ですかね」
頓挫。
「……ここまで、やってきたのに……」
思わず呟くと、目の前で木戸さんがぎゅっと眉を寄せた。
しまった。
作業担当者に過ぎないわたしなんかより、先陣切って関係者を説得してきた上席者ふたりのほうが、ずっと悔しいはずなのに。
「すみません、わたし……」
「上を説得しましょう」
「え?」
言葉の意味がわからず、香山さんとふたりでポカンと木戸さんを見る。
「木戸さん?」
「ここに来て中止はあまりに乱暴です。現場の混乱なんて理由にならない。それはわかっていたことですから」
「でも……経企が言い出したなら、今さら他部の意見を聞くとは……」
「そうですね。なので落とし所を変えます」
「落とし所を変える?」
結局意味がわからない。香山さんと顔を見合わせて、首を傾げる。
「グループ全体ですべての規程を統一し、業務フローを見直す。それは経企判断で中止になるでしょうが、当部所管規程の統一は当部施策として継続する。それなら誰からも文句は出ないでしょう」
「え?いやでも……」
全体は中止になるのに、ウチだけは継続する。
そんなことが……
「……当部の所管規程はプロジェクトの大部分を占めています。当部が継続するのに、なぜ他の部は継続できないのか。経営からそう言われた他部、あるいは突き上げられた経企から横やりが入りますよ」
ついていけないわたしに代わって、香山さんが冷静に切り返す。普段は朗らかで軽いこの人だからこそ、静かな口調が刺さった。
状況はやはり厳しい。
そう思うのに、木戸さんの瞳がキラリと光って、唇にきゅっと笑みが浮かぶ。
先ほどまでの苦しげな表情から一転、不敵としか言いようがないその笑顔に、心臓を鷲掴みにされた。
ああ、そうやって、いつも、この人は。
……この人を、いつも、わたしは。
鷲掴みにされた心臓が、痛いくらいに跳ねている。
「他部が出来ない理由なんて、ウチが知ったことじゃありません。理由がないなら、当初の予定通り統一を遂行すればいいんです」
ウチの仕事に、文句なんて言わせない。
そう言い切って、真っ直ぐにわたしを射る瞳。
煌めくその瞳の強さに言葉が出ない。
やれやれと肩をすくめた香山さんが、わたしにだけ聞こえる声で「これだからワーカホリックは」と苦笑した。
「さすがすぎるよねぇ」
「あり得ないですよね。わたしの感傷返してほしい」
ふたりきりのミーティングスペース。呆然と呟いて、香山さんが眉を下げる。
木戸さんは部長役員の予定を抑えると、部内報告までに準備があると言ってさっさと行ってしまった。
展開の早さについていけない。思わずほぅ、とため息が出る。
わたしはいつもこうやって、前を行くあの人の背中を見ている。
「……さすがだよね」
静かに言われて、小さく心臓が跳ねた。ぶつかった視線の先で、香山さんは微笑んでいる。
いつもどおりに。
やさしく、穏やかに。
あの日と、同じように。
「敵わないよなぁ」
ふふ、と笑う瞳と声はやさしい。
やさしくて、少し寂しそうで、
苦しそうで、
強い。
視線を逸らさずに、香山さんは微笑んだまま言った。
「木戸さんには敵わない。……それでも、俺を選んでほしい」
ぎゅっと胸が痛む。
あの日と同じ言葉。
応えられなかった言葉。
やさしさに甘えて、応えずに苦しい思いをさせてきたのに。
なのにもう一度、差し出してくれる手。
やさしい。
嬉しい。
……だから。
「ごめん、なさい」
あの煌めく瞳に惹かれたまま、その手を取ることはできない。
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こちらの企画に参加させていただきます↓
よろしくお願いいたします。
#片想い文芸
#思い出を曲にのせて
答えが(一個)出たぞーーー!!
ということで、次回からはまた新展開かなと。
新展開というかクライマックスでは……?(※作者)
さて、前回に引き続きお題はイメージソングです。
FFさんのご投稿記事のコメントでも書いたことがあるのですが、
大好きなんですこの曲。
曲のことを語り出したら止まらないのでひとつだけ……
歌詞が神。
世界観というか、木戸さんの仕事への情熱をアポロ計画に乗せてみました。
昔読んだ『アポロ13』は感動したなぁ……
本気で月に行こうって考えたんだろうね。
なんだか、愛の理想みたいだね?
って、香山さんが微苦笑しながら言いそうじゃない?
でもまさかプロジェクトがこんなことになるとは。
びっくりしたよ……(※作者)
前回のこの人たち↓
小休止回で鋭気を養った間宮さんでした。
これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)
いつも楽しく参加させていただいてます、
ありがとうございます!
