MCO十三版拾遺 ― Fragment III(英語異本・日本語訳)存在しないはずの索引について
【注意】
これは日本語版「断三」ではなく、
英語版 Fragment III の“異本翻訳” です。
本家とは構造が異なる別の版としてお読みください。
断三
十三版の現存する写本のなかで
とりわけ奇妙なのは、索引(Index)の有無が版ごとに一致しないことだ。
索引がまったく存在しない版もあれば、
「キングズ・ギャンビット」「Irregular Openings」
「Variants を見よ」など、
心許ない見出しだけが並び、
そこに示されたページはどれ一つ実在しない。
さらに稀少な部類として、
索引だけが存在し、本編に対応する章がまったく存在しない版がある。
ケンブリッジと“どこでもない場所”のあいだに所在するとされる写本では、
索引は書物の末尾ではなく 冒頭 に置かれ、
まるで記憶を失った本文に先立って
自分だけが残ったかのようだ。
そこに記された項目は短く、どこか控えめだ。
著者不在について …… 213
未来の版について …… 224
まだ来ぬ読者について …… 231
だが十三版には 213 ページも、
未来の版を論じた節も、
「まだ来ぬ読者」と題された章も存在しない。
さらに不可解なのは、
その索引ページの下部に印字された 日付 だ。
“Compiled: 2027.”
十三版の成立は早く見積もっても20世紀半ば。
その本が、出版よりも未来の年に編纂された索引を
どうやって持ちうるのか。
説明として挙げられるのは、
後年、熱心な古書家が索引を勝手に改訂した可能性、
あるいは他書の植字が混入した事故、
といった常識的な仮説だ。
だがその仮説は破綻する。
というのも、その索引に記されている項目は
のちの版(損傷した写本)にのみ現れる段落を
あらかじめ参照しているからだ。
まるで索引が
「まだ書かれていない本文」を覚えている
かのように。
十三版は、どうやら
版ごとに本文を組み替えているだけではない。
読者ごとに組み替えている
ようでもある。
索引は本の道しるべではなく、
むしろ 本の意図そのもの の断片──
未来に逸れる可能性としての項目群なのかもしれない。
あるいは単なる誤植なのだろうか。
しかし索引の一項目、
「欠落した図版について」
が、どの写本でも“図が消えている”箇所に
正確に対応していることを思い出すと、
十三版が誤っているのではなく、
先回りしている
のだと思いたくなる。
