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【エッセイ】ぼくの親友は、父と竜馬だった #5

「あなたは子供のころ、どんな本を読んで、何を感じましたか?」

──本田健さんのハッピーライティングマラソンに参加しております。

今回のお題の回答は、とても簡単です。
なぜなら、あの本と出会った日々のことは、今もはっきりと覚えているからです。



小学校に上がる前、父の仕事の都合で、愛媛の今治から大阪へ引っ越しました。
田舎からやってきた少年の目には、大阪はまるで別世界のように映っていたように思います。
言葉も違う、人も違う。いじめまではいかないものの、距離を置かれているような空気を感じることがありました。

気が弱いくせにムキになりやすい性格だった私は、周囲とうまく馴染めず、どこか孤独でした。



ある晩、父が晩酌を終えて、居間でごろんと寝転がっていました。
私は、ポツリと背中に向かって言いました。

「ぼくには、友達はおらん……」

言ったそばから涙が溢れて、止まりませんでした。

少し酔って顔を赤らめた父は、私のほうを見ずに、ただこう言いました。

「お前の親友は、ワシや」

その一言で、涙がぴたりと止まりました。
狐につままれたような気持ちで、「お父さんやん」と返すと、

父はまっすぐに、「お父さんやけど、友達や」と言いました。

胸の奥がふわっとあたたかくなり、心が軽くなった瞬間でした。
今でもあの光景は、色も音もそのまま、記憶の中にあります。



数日後、父方の祖母──ばあちゃんが、一冊の本を渡してくれました。
司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』全8巻の大作です。
後から思えば、父から何か聞いていたのでしょう。
あのタイミングでこの本を選んでくれたのは、きっと理由があったはずです。



物語にのめり込むのに、時間はかかりませんでした。
読み始めたら止まらない。
竜馬の世界に、気がつけばどっぷり浸かっていました。
ときには自分が竜馬になり、母が竜馬姉の乙女のように思えたりして——。
ストーリーはどんどん進み、私はどんどん竜馬になっていきました。

ばあちゃんや父には、ページをめくるたびに感想を話しました。

「竜馬な、脱藩してん。脱藩っていうのはな……」
「そうかそうか」

ばあちゃんは、口を挟まず、じっと話を聞いてくれました。
今思えば、私の“語りたい気持ち”をそっと育ててくれていたのだと思います。



本を読みながら、ふと、こんなことを思いました。

坂本龍馬のような大きな人間に比べたら、
自分が悩んでいることは、なんてちっぽけなんだろう。

海を相手に、幕府を相手に、日本という国を背負って立った男が目の前にいたら、
「こんまい男よのぉ。もっと大きく構えないかんき」と笑われてしまいそうです。

だから、私は思いました。

「大きい男になろ。くよくよせんとこ」と。



中学生になっても、竜馬は私の中に住み続けていました。
困ったとき、迷ったとき、怒りたくなったとき──
彼はいつも現れて、耳元で囁いてくれます。

「大きく生きろ」
「誰にでも優しくなれ」
「くよくよするな」

竜馬と、父と、ばあちゃん。
私が人生の道しるべとして心に刻んだ、大切な教えは、この三人からもらったのだと思います。

そして、ときどき揉める父とは今も親友です——

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