【小説】『ココロ走る』第三章:風を継ぐ者たち 編 第40話 淡路島玉ねぎリレーマラソン 後編 最終話
桐谷から陽介にバトンが渡される。
「こっちや!桐谷ここまで来い!ここや」
「頼みます!」
と桐谷から陽介にバトンが渡された。
桐谷に私が「ナイスラン」と声をかける。
「くそー、まだ行けた! まだ行けましたよ! 次見といて下さい。走りきって倒れる気持ちで行きます! 」と桐谷はさらなる闘志を燃やしていた。タスキの魔力も加わり、早く届けたくなる。
陽介は、2日前大阪城公園で走ったときに、
「走り方思い出しましたよ、俺」と私に言った。
その言葉通り、陽介のタイムは走る度に上がっていった。
明美の番だ。陽介が戻ってくる!
「明美さん! 受け取って」
「任せて! よく頑張ったね! 」
明美から任せて、という声が出るとは私自身ビックリだ。
陽介に声をかける。
肩で息をしながら、空を見上げている。
私は陽介の背中をポンと叩いた。
「ナイスラン! 」
「……お疲れ様です! まだいけます! 」
「楽しいですね、リレーは」
「俺まだいけますよ。タイム上がりますよ」
「次は森山さんですね。おっさん魂見せましょう」と陽介から言われた。
「そうやな。オッサンの意地見せようか」と陽介と握手を交わした。
———明美が帰ってきた。
歯を食いしばって必死の形相だ。
「誠さん、受け取って」
「よく頑張った! 行ってくるわ」
元吹奏楽部明美の100%のタイムがでた。6分を大きく切る5分41秒。気持ちが乗ったタイムだ。皆の気持ちに応えなければ!
最初のカーブを曲がる。
———上りだ。
練習で颯太から言われた。
「坂道は足を大きく出す」
「頑張りすぎない、息が続かなくなる」
軽い上り。逆にこっちの方がキツいかもしれない。じわじわ疲労が溜まる。そして、芝生を抜ける。ここが1番タイムを落とす場所。足に芝が絡む。そして、コースに駆け上がり、下りだ。スピードが出過ぎる。苦しい。膝にくる。
「森山さーん! がんばれーーー! 」
「ファイトーー! 」
「えっ!! 」
応援。うそ? 力が戻る。
不思議と、力が戻る。
後300メートル。
行ける!
最後は100メートル走並みにダッシュ!
聡太だ! 受け取れ! 聡太持ってけ!
咄嗟に「頼む! 」と口から出た。
聡太も「はい! 」と応じる。
KRT本部に戻ると、もう走り終えた皆が、途中経過に釘付けだった。
5位!
KRT5位! すごすぎる!
「これを守り切るぞ」と、皆息巻く。
ベテランの参加者や実業団、クラブチームの中で5位は十分大健闘だ。
早く走りたい! 順番が待ち遠しい。
皆、同じ気持ち。それが証拠に熊みたいにウロウロしている。
———
出番がきた。次々にKRTメンバーは自己新記録を更新し続ける。
さあ、2回目。気持ちと裏腹に2本目の1キロはまあまあ、キツい。しかし、何か不思議な力で背中を押される。キツい坂。軽い坂。芝生。あそこまで行ったら仲間が。
いた!
「森山さーん! がんばれー! 」
「あと少し! いけいけ」
いつから用意したか、竹村自作の応援団扇まで振ってくれている。私は手を挙げて応じた。
力をもらう。
———走れる。
タスキを聡太に渡す。力が入ってお腹を殴るような形になってしまった。
「よし! 最後いきます! 」
聡太のラスト。ここから3周目。
———陽介から、最後は絶対森山さん。
と言われていた。実際、そうなった。
ありがたい。
KRT本部で聡太に、松田に、水嶋に桐谷に"声援"、"力"を送る。
桐谷は陽介にバトンを渡して、芝生に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、しんどーーー! 」
「やりきったーー! 最高やーー! 」
「やりきったな! やったな! 」
と私は桐谷に声をかける。
そして陽介が走る。
必死の形相で、坂に向かっていく。
陽介を待つ時間に明美の顔が緊張でこわばってるのがわかった。
帰ってきた!陽介だ。
明美が、手を出す。
「頼みます! 明美さん」
「うん」
———がんばれ明美!
「がんばれーーー!」思わず叫んでいた。
「陽介、お疲れ様」
「はぁ、はぁ、やりましたよ。15分ずつタイム縮めました! あー、しんどー! 」
——多分15秒……。
15分縮んだら−10分になる、と思ったのだが、言わずにぐっと飲み込んだ。
明美が帰ってきた!
私はもらえるタスキをもらえるギリギリ前まで行って明美を迎えた。
あっ、明美が泣いている。
タスキをもらった。
思いも全てもらった、7人分の思いを。タスキを受け取った。全ての想いを胸に走る。21週目、それぞれが1キロずつ3回走って繋いだ21週目! 絶対止まれない! 落とせない!
キツい坂、軽い坂、芝生、下り坂。
あれ? 皆がいない……
後300メートルがキツい。最後はゴールが別にあるから、あと100メートルほど伸びる。それが結構キツい。ゴールがうっすら見える。あの角を曲がればゴールが……。
いや……いた!みんなが待っていた。みんながいる。KRTがいた!KRT……。
涙が止まらない!前が見えない。
聡太が両手を挙げて、迎える。
陽介が走ってきた。
明美が…。
桐谷、水嶋。
松田が跳ね回る。
竹村がスマホで撮影してくれている。
ありがとう……。
「やりましたね! 森山さん! 」と聡太
「ナイスラン、誠さん」と明美
ゴール後、すぐに賞状をもらう。
タイムは1時間35分49秒
男女混成部門別5位/53チーム
ハーフマラソン総合6位/91チーム
成績も素晴らしい。全員が作り上げたマラソン。マネージャーの応援無しには走れなかった。走ったランナーだけでなく応援がこんなに力になるとは思わなかった。
最高のチームKRT。
私はこの日のこと、このチームを一生忘れない。これからたとえ何があっても、このことを忘れない。みんなと走れたことを。ココロ繋いだことを……。
あとがきに寄せて
『ココロ走る』を応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ようやく最終話まで、走り切ることができました。
最初にnoteで1話を投稿したとき、「需要ある?」と思いながら、恐る恐る公開ボタンを押しました。するとすぐにビューがつき、スキがつき、だんだん楽しくなってきて……。今に至ります。
しかし、途中でくじけそうになることもありました。そんなときに読者の方から「楽しみにしてる」「うるっときました」などと温かいコメントをいただきました。
本当に、走り続ける原動力になりました。
そして、和歌山ジャズマラソン編が26話からスタートしたとき、「ダメもとでもいいから創作大賞に応募しよう」と思い立ち、思い切って応募しました。私にとって『ココロ走る』は処女作です。
でも、5年分の人生すべてをぶつけた作品です。
書くのは一気でしたが、内容には「走る」というテーマを通じて、人間力の回復と人とのつながりを描いたつもりです。
もし、皆さんのココロに少しでも触れられていたら——
こんなに嬉しいことはありません。
感想など、ぜひコメントいただけたら励みになります。
長らく『ココロ走る』を応援していただき、心よりありがとうございました。
また次回、どこかでお会いできたら嬉しいです。
2025年7月20日 kokoro_hashiru
