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【小説】『ココロ走る』第三章:風を継ぐ者たち 編 第36話 シューズがくれた自信

 検査の結果にひとまず安心し、火曜日、梅雨入り前の雨が降る中、会社を夕方から抜けて有休をとった。今日は久しぶりの明美とデートだ。

 少し離れた大きめの「イオンモール」のスポーツ洋品店で、ランニングシューズを買う。前から明美と約束していた。
新しくできたからか、割と混雑している。

 まずはフィッティング。
中々見つからなかったが、何とか店員を呼んで、足のサイズを正確に測ってもらう。店員は私より少し年配の男性だった。

「23.7センチですね。これより1センチ大きめくらいがちょうどいいですね…」
「それから、甲は低めですね。あと土踏まずは…、ないですね」
「えっ、私土踏まずない?」  
「扁平足?ってこと?」
「……そうですね、土踏まずのアーチがかなり低めなので、言葉を選ばず言わしていただくと、扁平足ですね。合う靴、ご案内しますね」とぶっきらぼうに言った。
内心「言い方あるやろ?」と思った。
「扁平足……か」
と、明らかに落ち込んでる明美だったので、
「ええ、お願いします」と私が答えた。

 持ってきたのは棚の上の1番高いシューズ、
ニューバランスの流行の最先端のシューズとアシックスの私が履いてるやつのレディース用だ。
事務的に高いの買わしたいだけに思えてならない。
明美は気を取り直して
「…試着してみよっと」と、足を靴に入れた瞬間
「何これ?」
「どうした?」
「ふわふわ、中敷すごく沈む、あとクッションすごすぎる」
店員が少し薄く笑いながら
「今のは、皆厚底で、こんな感じですよ」
と、冷淡に答える。
店員の態度は気に入らないが、品物は確かなので、開き直って、
「これにするか?」と、明美に聞くと
「うーーん、可愛くないからやめる」
と、一旦店員の持ってき靴を断ると
再び店員が
「足の形とか…で合うのをご提案したので、これ以上のものはないですよ」と場を取り繕うように言ってきた。しかし、私も明美もこの店から心は離れてしまっている。
「一旦、他の見させてもらいます」
とその場を離れた。
「あの店員、態度悪い。いい商品ってわかってもあの人から買いたくない」 
と明美が言う。全く同感だ。折角の時間を無駄にした気分だった。
 結局、いつも行く近所のゼビオでアウトレット商品で黒にピンク色のラインが入った可愛いのがあった。メーカや流行りとかではなく、運命の出会いと思ったのか、明美は迷わず手に取った。
「こっちの方がぜんぜんいいし、可愛い!」
明美は目を輝かせながら、箱を抱えながら私に言った。そして、シューズを試着して店内を歩いたり、軽く走ったりした後で、
「足を入れた瞬間、なんか……運命的なものを感じた」
とびきりの笑顔だ。今日の嫌なことが全部吹っ飛んだ。
「それに元値15000円のが、8000円って最高すぎるよね!」
と、大はしゃぎでレジへ向かう。

 その帰り道、明美がふと立ち止まり、振り返って、私に言った。
「ねぇ、この靴ですぐにでも走りたい。……明日一緒に走ってもいい? 」
その誘い方は、まるで“新しい自分”を見せたい子どものようだった。

元々、明日は聡太と松田と走る予定だった———もちろん、断る理由なんてなかった。

———

明けて水曜日、天気は晴れ。
新緑が朝日に照らされ眩いばかりだ。
昨日の雨が残るウェットな地面から夏の匂いがする———
今日は明美、聡太、松田、私の4人で鶴見緑地を走る。本番5日前、本番前の調整のつもりだ。

明美は最初からテンション高めだ。

「見て、見て、松田くん、可愛いでしょ」
「可愛いっす。今日も」と松田が言うと
「違う、シューズ!私の新しい相棒」と明美が言う。
「私、自分のこと“可愛いでしょ”って言うタイプに見える?」と明美が少し怒りながら言った。
松田が
「いやいや、最初からシューズの話だと思ってましたよ。めっちゃ似合ってますよ!」とあわてて、弁解した。
「そのシューズ、マジでいいですね。クッションもありそうだし、ソールも高い」
「ただ、こけるのだけ気をつけてくださいよ。新しいシューズは転けやすいです」と聡太がキャプテンらしい、一言。
「じゃあ、走ろうか」と私が言うと、
「準備体操とドリルからですよ!」と聡太に言われた。あの筋肉痛になるやつだ。

イッチニーサンシー、イッチニーサンシー
声出しは聡太担当だ。皆黙々と体操、ストレッチ。そして、ドリルをほどほどにこなして、走り出した。

———明美の走りが変わった。

 私の横を明美が走る。
明らかに違う。しっかりと地面から反動を貰えている。シューズ一つで走りが変わる。
スピードが少し出たのと、安定感が出た。
「このシューズ、すごいかも」と走りながら、何度か呟いていた。
もちろん体力とかは変わらない。
「どう?走ってみて」
「最高!前に進めてくれる感じがする。私、こんなに軽く走れるんだって初めて思った」
本格的なランニングシューズは初めてなので、ソールのソリに感動してるようだ。

「当日はがんばろうな」
「うん、がんばる」

明美の走りに、“迷い”がなかった。
新しいシューズが明美に“自信”をくれた。
走り終えた明美は、少し息を切らしながらも笑っていた。なんだか、それだけで安心した
さあ、役者も道具も揃った!

———待ってろ、淡路島!

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