見出し画像

【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第25話 誰かのために

 6月5日(日)、タマネギリレーマラソンの予定日。でも、マラソンは延期になった。

じゃあ、走るのはやめるか?
──いや、違う。
私たちは、チームだけのリレーをやると決めた。場所は鶴見緑地。天気は曇り。

Kōfuku Homesは基本的に日曜休み。
メンバーはみんな集合した。

一周1キロのコースを、21周。
今日は、KRTだけの“本番”だ。



走順はこうだ。

1番・木下聡太。ここは本番でも一位を狙いにいくエース。
2番・松田俊平。しっかり上位をキープしたい。
3番・水嶋悠也、4番・桐谷拓、5番・伊藤陽介、6番・明美。
そして7番、私。

事前に全員で決めた順番だ。本番のリレーマラソンは「最低一周1キロ」で、走る回数も自由。誰が何回走ってもいい。

それだけに、会社の会議室で走順と周回数を決めるときには、少し揉めた。



「最初と最後、任せてください! 全力で2回、きっちり走りますから!」

と、聡太が自信満々に言うと──

「何言うてんねん! 最後は森山さんやろ! 」

陽介が食ってかかった。

「てか、なんでお前だけ2回やねん」

「全力で走ると……2回が限界なんです」

「調子乗ってたらあかんぞ! 」

陽介が立ち上がると、桐谷が止めに入る。

「伊藤さん! ダメですって! 伊藤さん! 」

でも陽介は止まらない。

空気がピリつくなか、私は口を開いた。

「陽介、やめとこ」
「俺は何番でもいいし、何回でもいい」
「みんなでタスキを渡して走れたら、それでええから」

沈黙。

──そのとき、水嶋が笑顔で言った。

「じゃあ、決め直しましょう! 」
松田がペンとルーズリーフを持ってくる。

そして、今の順番と、全員3回ずつ走るというルールが決まった。
バテ具合によって、当日変更もアリということで。



「位置について、よーい、スタート! 」

1番・聡太がスタート。
流石だ。あっという間に戻ってきた。顔は涼しげでも、タイムは2分50秒──聡太の社会人ベスト。

2番・松田。短距離出身らしい速さで飛び出したが、後半は少し落ちて4分30秒。上出来だ。

3番・水嶋。ハイジャンプ専門だった。ランニングフォームが美しい。タイムも4分35秒。

──ここからは、リレー初参加組だ。

桐谷、よく頑張った。4分51秒。 
陽介、意外と真剣な顔。5分ちょうど。
明美、真っ赤な顔でゴール。6分02秒。
自己ベストだ。
私も……なんとか、5分切れた。ギリギリ。

2周目、全員のタイムが少しずつ落ちてくる。

でも──

「頑張れー! 」

「いける、いける! 」

「ファイトー! 」

自然と声が出る。誰が言ったとかじゃない。声が湧き出してくる。

3周目。
顔がゆがむ。息が苦しい。足が思うように動かない。
なのに、走る。

なぜ?
何でこんなに必死になってる?
何の意味がある?

1円にもならない。誰にも褒められない。
でも──

コスパ? タイパ? 関係ない。

チームが、一つになる。

みんなが、誰かのために。

誰かが、みんなのために。

気づけば、涙が止まらない。

最後のタスキが、私に回ってきた。

さあ、行こう。

私たちのタスキを持って。

みんなが繋いだ、声援と、期待と、夢を──

新しい光を、見つけた。

走りながら、そう思った。

いいなと思ったら応援しよう!