【小説】『ココロ走る』第三章:風を継ぐ者たち 編 第32話 新しい風
激動の2022年が明けて、2023年はまるで急にコロナ禍から解き放たれたかのようだった。
「マスク着用は個人の判断に任せます」と政府が発表したのが3月。そこから一気に、大型イベントの解禁や海外旅行客の入国審査の緩和が進んだ。
私の会社もようやく元の動きに戻りつつあった。リモートワークも会議になり、非接触の対応も対面での対応になった。もちろん、こちらの方が随分いい。人の温度を感じやすいからだ。売り上げ、営業成績もすぐに元に戻り、いやそれ以上の実績を私の店舗は出していた。
———働きやすい会社。
私たちはいつのまにか、壁がなくなり、指示がしっかり出せて、しっかり物事を考え、時には冗談を言い合える。会社の仲間になっていたから。そして、何より助け合いの精神。不動産業はどうしてもインセンティブを考え、単独行動に陥りがちだ。しかし、今の私たちに個人主義はない。いや、もちろんあるだろうが、少しは我慢できる。
飲み会も解禁になり、週に一度は立場上、色々誘って飲みに行く。
また、週に2度のチームランはメンバー皆が大切にしている。
———
そんなふうに、仲間との関係も、仕事も、少しずついい方向に向かっていた——
そしてこの春——新たな風が私たちのチームに吹き込んだ。
2023年3月も終わりに近づき、桜の蕾が綻び始める頃、大阪城のチーム練習で聡太が言った。
「森山さん! マネージャー、要りませんか? 」
「マネージャーか……走らず、サポートしてくれるメンバーか」と私がいうと。
「めっちゃ気の利く人、心当たりあるんすよ」と松田が言った。
(ああ、この感じ……松田、聡太、水嶋の同期組で、もう誰かに声をかけてるな)と私は思った。
「だれ? うちの会社の子? 」と陽介
「はい、竹村さんです! 」と松田が勢いこむ
「実は今日呼んでて、あっ、来ました」
大阪城ホールの方から、春の風を受けて自転車に乗った一人の女性が颯爽と現れた。
黒髪の長い、笑顔の可愛い彼女は、真っ直ぐこちらに向かってくる。
———竹村朋花 新卒3年目桐谷の1つ上になる。彼女はとにかく阪神ファンで、2軍を追いかけ回すのが趣味みたいだ。会社では1番気が利く女性で、特に後輩の面倒見が1番いい。
私が
「いいの? 走らないのに、練習とか大会とかきてもらって」
「私は運動は苦手です」
「でも、人のことを応援するの、すごく好きです」
「だから阪神も……」
……全員が腑に落ちた。
皆のタイム管理に、写真や動画の撮影——本当に助かる。
後からフォームを見直せる。動画や写真を編集してYouTubeの限定公開に上げたり…。それを眺めるのは……私の、究極の自己満足だ。
とにかく…
私たちは、7人になった!
