【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第16話 走り出す
マラソン大会から3日後。
大阪城公園の銀杏並木は、金色の落ち葉を朝日にきらめかせていた。
やわらかな風が吹き抜け、どこか懐かしい秋の匂いが混じっている。
いつものコースを、ウォーミングアップがてら歩いていた。
ふと前方に、見慣れた背中が見える。あの、特徴的な後ろ姿。
──陽介だ。
走っている。まだ少しぎこちないフォーム。でも、確かに、走っていた。
「おーい、陽介!」
呼びかけると、振り返った陽介が息を切らせながら笑った。
「森山さん! 俺も走ります! 仲間に入れてください!」
「……じゃあ、走るか!」
まるで申し合わせたかのように、2人は並んで走り出した。
秋の大阪城公園の並木道。ひんやりとした空気の中、サクッ、サクッ、サクッと落ち葉を踏む足音が心地よく並ぶ。
「走るって……しんどいですね!」
「俺はな、走る理由がある。血圧のこともあるしな」
「陽介は、なんで走ろうと思った?」
──その問いに、陽介が立ち止まる。
11月の空気が、ふっと静まり返った。
「……かっこいい自分になりたい、かな」
「へへ、キザですよね。でも、本音です」
「森山さんの動画見て……あのゴール前の苦しそうな顔を見て、思ったんです」
「なんで、こんなに苦しそうなのに、走ってるんやろ?って」
「でも同時に……めっちゃかっこええなって」
「そ、そうなんやな……」
次の言葉が出なかった。
面と向かって褒められるなんて、少し照れくさい。
「よし、今日は止まりながらでええから、一周しよう」
「はい!」
──その日から、毎週水曜日。
会社が休みの日は、陽介も一緒に走るようになった。
自然と決まった曜日。自然と決まった時間。
まるで2人だけの、ランニングチームのようだった。
