【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第31話 乾杯、ありがとう。そして、淡路島へ
和歌山から帰ってきた私たちは、大阪に戻り、いつもよく陽介と行く、炭火の美味しい焼き鳥屋『鶏群の一鶴』を予約して、和歌山ジャズマラソンの打ち上げだ。「いらっしゃーい! 」と元気に店主が迎えてくれた。
「やりきった顔してますね! 」と店主。
「はい、和歌山で大暴れしてきました」と私が答えると。
「聡太、2位ですよ2位! 」と松田が自分のことのようにはしゃぐ。
「おお、それはすごい! 」
「ゆっくり聞かせてください」
「まず、テーブルへどうぞ」
と、奥のテーブルへ促される。
幸い客は私たちだけだ。
各自座席につき、私は奥へ座った。
口々に反省やお互いのPB更新を褒め称え合った。ひとしきりざわざわした後、適当に陽介と明美が注文を頼んだ。
———私が乾杯の挨拶。
「皆さん、今日はお疲れ様でした」
「お疲れでしたー」と口々に言う。
「こんなにたくさんの人が走って、応援して、一緒の空間を共有できて、本当に嬉しかったし、楽しかった」
「……ありがとう」
その瞬間、今までこと、今日の出来事が頭に鮮明に蘇り、喉の奥が熱くなり、気づいたら涙がポロポロこぼれていた。次の言葉が出てこない。
陽介が「森山さん、頑張って」と優しく声をかけてくれる。
気づけば桐谷も明美も泣いていた。
「私が……心を病んだとき、こんな日が来るなんて、ほんま思ってなかった」
「ハーフマラソンみたいな距離を走るなんて……考えたこともなかった」
「1人で歩いて……それが、いつの間にか、走り出してて」
「そのうち、陽介、聡太、松田……少しずつ、仲間が増えていって——」
一度、深く息を吸って、笑顔で言った。
「……今は心から思う。走って、よかった」
そう言って、座り込むように腰を下ろし、聡太にバトンタッチした。
聡太がキャプテンとして総括
「今日のみんなの走りやけど…」
また、例の小言が始まるかな?と皆が想像する。
「………最高でした! 俺も含めて」
ほんの2時間前に泣いてた聡太も前を向けている。
陽介が立ち上がって、何かを言おうとしたが、私はそれを制した。誰も知らないことをわざわざ言う必要はない。陽介は陽介だ。今、ここに確かにいる。それだけでいい。
私は言った。
「さあ、飲むぞー! 」
「かんぱーーーい! 」
私は大の酒好きだ、飲み出したら止まらない。
「店長、すいませ〜ん! もうピッチャーでビール持ってきて! 」
明美が慌てて止めに入るが、誰も私を止められない——今日は特別だ。
順に潰れていく、飲み方がまだ、分からない松田はへべれけだ。桐谷は注文したカルピス酎ハイの、一杯目をゆっくり時間をかけて飲む。そのうち氷が溶けて不味くなる。そして、挙句に頭が痛いと言う。私に言わせると、何を飲んだのか、要するに——上澄みだけ。
まあ、人それぞれ。
飲め飲めー、とはならない。
ハラスメントと言われるのが最近の主流なので。しかし、今日だけは、言ってしまおう!
陽介は私とペースを合わしてくる。
負けるわけにはいかない。
飲めば飲むほど水嶋はさらに陽気になっていく。
聡太は珍しく飲んでいる。彼はストイックにランニング後は飲まないのに、今日は特別なようだ。明美は私が潰れないかハラハラしている様子だ。今日は潰れたらいい……。
今夜は最高に気分がいい。自分の好きなことを一緒にできる人間が集まってるから当然か。
———
宴もたけなわ。そろそろ引き上げるときに、私はふらっと立ち上がり、
「淡路島タマネギリレーマラソン、リベンジしよう! 」
「やるか?どうや」と聞くや否や
口々に「やりますよ! 」と呂律のばらばらな返事。
また、目標ができた。チームで戦う。
6月。半年以上あるから万全で臨みたい。
待ってろ、淡路島!
