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【小説】『ココロ走る』第三章:風を継ぐ者たち 編 第33話 恋の行方

 2023年4月、桜満開の大阪城。花の匂いが春風に乗りここかしこに流れる季節。KRTは順調にチーム練習をしているように見えた。

しかし、マネージャー竹村加入によって、約2名が宙に浮いた状態になっていた。

松田俊平と水嶋悠也

彼らは完全に浮ついていた。

 会社で私が
「竹村くん、この重説(重要事項説明書)コピーお願い」と言うと、
すかさず松田が
「今日は竹村さん、外回り立て込んでたんで、代わりますよ」と口を挟む。

すると、水嶋が
「いやいや、それ俺がやる。竹村さん、先に上がって上がって」とすかさず割り込む。

重説の束を引っ張り合って、書類がくしゃくしゃになる。一番困っているのはおそらく、竹村だろう。

実は、竹村には秘めた想いがある。私はそれを偶然垣間見てしまった。桐谷がまだ新入社員のとき、天然系の桐谷から

「竹村さん、僕に付き合ってください」

と、言われたのだ。突然のことに、竹村は顔を真っ赤にして、走り去って行ってしまった。

——研修中、桐谷はよく「重要事項説明」のロープレに付き合ってもらっていた。例の「竹村さん、僕に付き合ってください」
——その“付き合ってください”は、あくまでロープレにという意味だった。しかし前から桐谷に想いを寄せていた竹村は、それを文字通りの意味で受け取り、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

どストレートな桐谷の告白に、竹村は完全に堕ちてしまった。竹村は無邪気な天然天使、桐谷に流行りの言い方で言うと、「沼って」しまったのだ。もちろん、当の桐谷は知る由もない。おそらく、竹村が誘われたとはいえ、KRTにマネージャーとして合流したのも桐谷がいるからと思われる。  

男の私から見ても桐谷は魅力的だ。何しろ天然ではあるが、誰にでも優しい。だからこそ、こんなことになるのだが……

 4月半ば、桐谷に食事に誘われた。珍しく、 一対一だ。しかも桐谷は下戸である。
いつもの、居酒屋に行く。
すると、桐谷が   
「すいません、ハイボール」
「森山さんはいつもでいいですか? 麦ソー! 」
「……どうした? 今日」
「まあ、付き合ってください! 」
言われるがまま、乾杯をし、駆けつけではないが、三杯くらい飲んだあとで、突如
「好きなんです! 」と、
勢いこんで、身を乗り出す。
「まて、まて、桐谷、俺は男やで! 」
「何言ってるんですか? そんな訳ないじゃないですか! 竹村さんです」
「えっ、えっ!? 」
「入社したときから、ずっと好きでした」
「告白もしました! 」
「振られましたが」
珍しく私と同じペースで酒を飲んだ上に、もう一杯カルピス酎ハイの上澄みを煽り、びっくりするくらい大きな声で
「どうしたら、いいんですか? 」と叫ぶ。
思わず店中がシーンと静まり返り、私を見る。

頭をペコペコ下げて、皆の溜飲を下げた。

しかし、ただ事ではない。
普段クールで冷静に陽介とかにも意見が言えて、皆の相談にも乗れるしっかり者。
その桐谷がこんなに乱れるとは。

私の正直な感情を言うと、戸惑っているし、動揺もしているが、それ以上に「かわいい」と思ってしまった。歳のせいだろうか?

「で?どうしたい?」と私が低く言うと。
「松田や水嶋に取られたくなんです」
とギリギリの呂律で叫ぶ。
「大丈夫やろ。マネージャーやから」
「森山さん、あんな人ほっとくわけないですよ! 」
「マジで誰かに取られますって! 」

「じゃあ、どうしたらいい?」
と私がいうと、たっぷり間を空けて
「告白します!もう一度」
おそらく1度目は私が遭遇したあれだろう。
失敗というか何というか……。

しかし、その結果竹村の気持ちも、桐谷の気持ちも繋がっている。
私は背中を押すことにした。

「大丈夫! 告白してこい、俺が骨は拾ってやるから」

「森山さーーん」
「ありがとうございますーー」
桐谷は泣き上戸だった。

閉店まで、飲んで泣いて帰った。

自分より酔った人間がいると酔えないとはよく言ったものだ。本当に冷静に飲み終えた。

 次の日、ありがとうございますというLINEと一緒に「自分のタイミングで告白はします」とカッコつけたスタンプと一緒に送られてきた。

いつになるかわからない。でも、桐谷や竹村には幸せになって欲しい。

松田と水嶋がダメなわけじゃない。きっと、彼らにも“誰か”が現れる。そう信じている。

縁の問題だと思う。彼らには竹村との縁が結ばれてない気がする。

また、そのときは2人と飲みに行こう。
2人の武勇伝とかを聞きに……

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