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【小説】『ココロ走る』第14話 走り切った10キロ

 富田林エコマラソン。
河川敷を2回往復する平坦なコース──のはずが、二ヶ所だけ坂があった。
下調べしておけばよかった、と少し後悔。

天気は雨予報だったが、降らずにいてくれた。
そしていよいよ──

スタートの合図!

一斉に走り出す。
私は後方から。出しゃばってはいけない。
落ち着いて、ゆっくりスタートしたつもりだった。

……が、完全にオーバーペースだった。

最初の1キロ、まさかの5分切り。
普段は6分ペースで走っている。
慌ててスピードを落とす。

その後、自分のペースに近い人を探し、ついて走る。
──が、これがマラソンあるある。
人は見た目で判断できない。
速い人ほど力を抜いて速くなさそうに走る。
見かけよりずっと速かった。

結局、5キロを27分台で通過。自己ベストだ。
ペースがつかめない。このままいけるわけがない。
しかも、小さく見える坂が思った以上にきつい。

「ファイトー!」
沿道の声援が心地よく響く。
最初、誰を応援してるか分からなかったが、確実にランナー一人一人に応援を届けてくれている。走り始めてしばらく経つと、速いランナーが折り返し地点で折り返してきて、私たちとすれ違った。そのとき、1人の最速に近いランナーが私に「ファイトー」と声をかけてくれた。ドキッとした。初めての大会で、右も左も分からない初心者ランナーを最速ランナーが応援する。私もそれに倣って、すれ違うランナーに「ナイスラン」と声をかける。気持ちがいい。オーバーペースがたたり、走るのも声を掛け合うのもしんどかったが、それ以上に気分がいい。

 本部近くではランナーの家族や運営スタッフが
「がんばって!後5キロ!」
その中に、明美の声が、萌花の声が、綾の声が混じる。
「がんばれーー!」
──気持ちが入った。

半分過ぎた辺りで再びペースメーカーを見つけた。
ちょうど6分ペースで走る女性ランナー。

肺が破裂しそうなほど苦しい。
足には、あとから知った“乳酸が溜まる”という状態が、じわじわとのしかかってくる。
このままで、本当に最後まで行けるのか――。

チラホラ、すれ違うランナーの中には歩いている人もいた。正直私も歩きたかった。

でも、私は走り切る。走り切りたい!

残り1キロ地点。主催者の一人が自転車で待ってくれていた。

「あと1キロです。もう少しですよ!」

その一言で、気持ちのスイッチふたたび入った!
「まだ1キロあるよ…」だったら、くじけていたかもしれない。

足に力を込め、地面を強く蹴る。
47歳になったばかりの私は最後の力を振り絞る。ゴールしたら倒れたっていい!
そんな気持ちのラスト1キロだった。

──ゴールしたら何がある?
わからない。でも、今はただ、走るだけだ。

ゴールが見えた。
明美が見えた。
萌花が、綾が──待ってる!

ゴーーール!

感動した。
気づけば、目から涙が出ていた。
自分にも、できた。
あの心が壊れた日からこんな日が来ると想像すらできなかった。
しかもオーバーペースが幸いしてタイムは、
なんと57分40秒。60分を大きく切った。
もちろん、ベストタイムだ。

中学時代、サッカー部で何度か味わった、
60分以上走り終えたあとの、肺がおかしくなるようなしんどさ。
それを思い出した。 
どこか懐かしい気持ちになった。

 ゴール後──
「パパ、かっこよかった! 」
「すごーい。ほんとうに走り切れたね」
「おめでとう」
人目も憚らず褒められた。
私は年甲斐もなく全力で喜んでいた。
明美も、萌花も、綾も心から祝福してくれていた。大会の最高記録は30分台前半。おそらく私がすれ違った先頭のランナーだと思う。
その人からしたら私の記録など笑ってしまうような記録かもしれない。しかし、私は歩かず走りきった。それは私にとっては最速の記録ほど価値があると我ながら思った。今日は最高だ!

こんなふうに何かをやり切って、心からそう思えたのは、いったい何年ぶりだろう。

 ゴールできた開放感と家族に褒められたことがうれしくて、萌花と綾の大好物である回転寿司をごちそうした。

……が、萌花は20皿(ほぼサーモン)、綾は18皿(ほぼサーモン)。私は5皿(ほぼきゅうり巻)。子供の食欲は底がない。そんなに目の前で食べられたら、食欲が湧かない。もっとも今日はあまり食べ物が喉を通らない。マラソン後というのはすぐに食べられないものだ。1つ学習した…。

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